沖縄文化研究会
放課後、珍しく間六彦から召集が掛かった。それを柚恵から聞き、舞奈は間六彦の教室に向かった。ちなみに通常の授業では柚恵と舞奈が同じクラスで、間六彦と弥生はそれぞれ別のクラスだった。世界史では奇跡的に全員同じ教室になったが。
二、三人しか残っていない教室の真ん中で、間六彦は悠然と自席についていた。
「部活案内を、頼まれてくれないか?」
舞奈はびっくりして、しばらく口をパクパクさせた。
「わー、舞奈金魚みたーい、バカっぽーい」
「なにーっ? 弥生ー!」
喰って掛かろうとすると、柚恵がその肩を掴んだ。
「バカっぽかったよぉ、まいにゃあ?」
「え、そ、そう?」
「相変わらず石柿崎の言葉は聞くんだな、手那鞠は」
間六彦の言葉に、舞奈は我に返る。
「あ、や、うん……じゃない、部活案内って言った?}」
「言った」
「ど、どゆこと?」
「担任に、部活を決めろといわれてな」
「あ、うん……でも、義務じゃなかったと思うんだけど?」
「そうだな。だが一応見ておけ、その際手那鞠を頼れ、と助言を受けてな」
今度こそ本当に、舞奈はビックリした。
「えっ! う、ウチ?」
「ああ、お前だ」
「な、なんで?」
「なぜと訊かれても、教師に言われたことだから俺としてもなんともな……ひょっとしたら、オレが本土で空手をやっていたことが関係しているのかも知れんな」
「あ……そ、そか」
腑に落ちてホッとしていると、なぜか再び柚恵に肩を叩かれた。振り返ると、なんか釈然としない笑みだった。さらに後ろからの視線に気づいて振り向くと、弥生はなんか挑戦的な笑みだった。
どゆこと?
とにかくまず最初に、弥生が案内することになった。
というか、やる気満々だった。
「じゃあ、見学に行こー」
自然というか当然の仕草で、間六彦の手を握る。そしてぐいぐい、引っ張っていく。やや悔しいがこういうところは正直カワイイと思う。
「……なあ、神ノ島」
「なにー?」
「その……手を引っ張らなくても、俺は普通についていけるのだが?」
「いいからいいからー」
間六彦は小さくため息を吐いていた。少し気が合うかもしれない、と舞奈は勝手に共感を抱いていた。
案内する先は、異国情緒溢れる部室だった。左右の壁には蔓や独特な植物が飾られ、その脇にはお面や祭具に使われそうな杖やゴテゴテした盾みたいなものが並べられ、さらには内容不明の書類がすごい勢いで積み上げられていた。何度きてもその威容に、圧倒される。
「――ここは、なんの部室なんだ?」
「オキケン」
「オキケンとは、なんだ?」
「うん、沖縄文化研究会っ」
「……ほう?」
眉をひそめていたのが、感心した顔つきに変わる。間六彦が視線を転じ、舞奈もそれに倣うと、奥の壁には沖縄のどこかを撮ったものだろう無数の写真が掛けられていた。通常のものや空撮など、種類は多岐に渡っている。
「そうか、それは感心な部活だな……それで、他に部員は何名所属しているんだ?」
「わたしひとりっ」
ピシッ、と間六彦が石になる。舞奈はそれに、目が点になる。あいつ、意外と感情表現激しいんだなぁ?
「……部員がひとりで、部活動というものは活動出来るものなのか?」
「できないよ?」
額を押さえる。
「――じゃあこれは、どういうことなんだ?」
「ふほうせんきょっ」
ため息をつく。
「……退去命令は来ていないのか?」
「きてるから、六彦入って部活にしょーかくっ」
「いや、それはどうだろうか……というか二人で部活動であるための十分条件を満たしているのか?」
「五人必要だねっ」
「……残り三人は?」
「一緒に見つけていこー」
たっぷり間をあけて、間六彦は呟いた。
「…………検討させてくれ」
「うぇるかむうぇるかむ、めんそーれオキケンー」
「検討させてくれ……」
見事に弥生のペースだった。
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