一緒にとーこー

 ぶっきらぼうに答えられ、舞奈は微かに眉をひそめる。

「グレープフルーツ姫……なんであい――だ、ここにいるの?」

「六彦くんってぇ、呼んであげなよー」

 後ろから柚恵が訂正してきた。しかし知り合ったばかりの男の子を、苗字とはいえ呼び捨てにするのにでさえかなりの抵抗があったので、無理な相談だった。

 弥生は相変わらず、ヘラヘラしていた。

「ん? 一緒にとーこーしてるだけだけど?」

「な、なんで?」

「え? わるい?」

「別に、悪かないけど……」

「邪魔か?」

 それに、間六彦が割ってきた。三人、注目する。間六彦は半分背を向け、

「確かにお前の言うとおり、今まで三人仲良くやってきたところに俺のような無粋な輩が混じっては、得心もいかぬだろうな。気にするな、今すぐ去――」

「ダメ――――――――っ!」

 一歩を踏み出す間もなく、弥生はその背に張り付いていた。

「うぉ!?」

「ダメダメダメダメ――――! 一緒にとーこーするのーとーこーするのーするのするのするののの――――――――っ!!」

「あー、わかった! わかったから離れてくれ頼むからっ!!」

 少し、舞奈は驚いた。あの仏頂面が、焦っていた。

 へぇ。感情ないわけじゃ、ないんだ。

「ハァ、ハァ……それで、その、お前はいいのか?」

 ジッ、と見られた。それに、不満が募る。

「べ、別にいいし……ウチ、お前って名前じゃないんだけど?」

 シン、と静まり返った。唐突な状況に、舞奈は辺りを見回す。え、なんかやらかした? そんな中、最初に声を出したのは柚恵だった。

「……てぇ、言ってるよぉ?」

「あ、ああ。そうだな、確かに失礼だったな、手那鞠」

「ん……それと、ウチ、悪かないって言ったはずだけど? 訊いたのは、なんで? って」

「このグレープフルーツ姫が、今朝、なぜか門の外で待っていてな」

「あー……なっとく」

「それ、どーいう意味?」

 弥生は眉をひそめ、グレープフルーツをシャク、と齧って間合いを詰めてくる。

「え? いや、あの……ご、ごめ~ん」

 それに舞奈は小声で謝り、小さくなってすごすご下がった。だって弥生こわいしっ。

「そろそろぉ、学校行かないとぉ、遅刻しちゃうよぉ?」

 ポツリ、と呟いた柚恵に、三人はハッとする。

「あ、ヤバ……」「その通りだな」「うん、いこー」

 そしてパタパタと、学校に向けて早足で歩き始めた。そして舞奈は最後尾から、三人――というより、背の高いその男を見ていた。

 こいつって、結局なんなの?


 違和感だった。弥生のことだから周りを気にして嘘ついてるとは考えにくかったが、しかしだからといって男の子と一緒に人目がつく通学路を何の気もなしに歩くだろうか?

 だから舞奈は選択教科である世界史の授業中、じっと間六彦を観察していた。間六彦はちょうど縦にも横にも真ん中、教室の中央にあたる位置で授業を受けていた。ただでさえデカい身体を丸め、かなり真面目に板書している。普通といえば普通なのだが、なんか笑えた。あの巨体と無愛想さで真面目とか、なんか詐欺臭かった。

 と、変化があった。その背中を、後ろの席に座る弥生が、突ついていた。

 ――あのグレープフルーツ姫、このタイミングでちょっかいかけるか?

 気づいた間六彦は振り返るが、ニコーと弥生は笑い、それに愛想笑いというか微妙に苦笑いを返していた。あの子実際性格以外というか顔だけはイイのよね、あの笑顔にはウチも文句言えなくなるわまー実際は鉄拳制裁がくるのだが。

 間六彦は前を向き、板書を再開した。しかし弥生は変わらずその背中に、なにか文字を書いている。間六彦は板書を続けつつ、口元が動いていた。大方なにを書いているか当てさせているというところだろう。付き合いもいいようだ。

 と、今度は肩を叩き、それに応えるように間六彦は面倒そうに振り返る。すると笑顔で手に手で、なにかを渡していた。

 間六彦はそれを確認して、苦笑いを浮かべる。

 遠目でも、舞奈には確認できた。

「……グレープフルーツ」

 そして幾つかのやり取りを経て、目一杯苦笑いを浮かべて、間六彦はソレを齧った。弥生はそれを見て、満面の笑みだった。

 と、そこで遂にというか――

「間六彦」

 先生の、お出ましだった。

「うわちゃー……」

 舞奈は、額を抱えた。なるべくしてなった結果、どうする気だろうか? しかも担当教諭は安芸村(あげむら)順平38歳独身彼女無しだ。ハゲてて、陰湿で、特に女子と絡む男子生徒にはネチネチしつこい事で有名だった。

「いや、コレは……」

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