朝っぱら狂想曲
舞奈は毎朝セミの大合唱で、目が覚める。
「……あつ」
頭に響くソレをかき消すように髪をかきながら、舞奈は上半身を起こした。格好は、黒のタンクトップにホットパンツ。お腹にはタオルケットを掛けている。ボサボサの髪を梳かしながら、机の上に乗っているメガネに手をかける。
「うぅ……ねむぅ」
目を擦りながら、鏡の中の自分を見た。メガネに二つ結びのこの姿は、やっぱり微妙だった。ガリ勉っぽいというか、子供っぽいというか――オタっぽいというか。
だから外では、コンタクトをつけることにしてた。髪も少々邪魔でも、キチンとワックスでまとめて、下ろしている。みんなにはガサツだとか女の子らしくないとか色々言われるけれど、自分なりには可愛くしようと頑張っていた。
「お……ふぁよぅ」
部屋を出て、廊下の隅で丸くなっていたペットの黒猫キャンディーが、なあ、と一鳴き。
それに舞奈は、くあ、とあくびを一つ返す。
そのまま、朝シャン時間(タイム)。
「……ふぅ」
熱めのシャワーを浴びて、人心地つく。毎日これをしないと落ち着かない。新しい気分で一日を迎えるための、儀式みたいなものだと思う。さっぱりするけど――ある部分だけは変わらず成長しないという現実を朝から見せ付けられることだけは、頭痛かった。
朝食は、今日もサーターアンダギー2個にパイナップル一切れ。
そして牛乳500ミリを、一気。
「はぐっ、がぶっ、ンくンくンくン……ぷあっ、行って来ます!」
「コラ舞奈、そんな立ったまま食べるなんてはしたな――」
「ゴメン、時間ないっ!」
母親を振り切り、玄関を飛び出した。朝はホント余裕がない、というかシャワーと化粧でガッツリ時間喰われてるからというのが実際だった。あーもーめんどくさい出来たら止めたいけど、小学生の頃に逆戻りするのはゴメンだった。
石垣が積み重ねられた道が、どこまでも続く通学路。途中なってるマンゴーをとって食べようかとも考えたが、太るからとやめた。罪悪感はカケラも無かった。
「あ、ふ……」
「おはよぉ」
同じ風景があまりに続き、あくびが漏れ出た曲がり角で、いつものようにゆるーりとした声がかかる。前髪がどうかしてるくらい長く、自分とは似ても似つかないナイスバディの幼馴染。
「おふぁよ、ぉー……今日も、眠いぃねぇ」
「あはは。今日もまいにゃあ、声ゆるいねぇ」
「ゆえ、に、言われた、く、ないよねぇ……あふ」
「ホントぉ、まいにゃあは朝弱いねぇ」
柚恵と合流して、先を急ぐ。この気の優しい幼馴染は、眠たい自分の手を引いて学校までナビゲートしてくれるのだ。友情最高。そういうわけで舞奈は安心して惰眠を貪ることにした。心地よい上下運動が、まるで赤ん坊の揺り篭のようで――
「ぐぅ」
「じゃないっての」
ガン、って寝起きには絶対喰らっちゃいけない類の衝撃が、舞奈の後頭部を襲った。
「でっ!? てったァあいィ!?」
「その悲鳴、可愛くないのかいいのか悩むとこよね……シャリっ」
ズッキンズッキンくるソレに頭抑えてもだえていると、頭上から信じられないくらい無機質な声と、新鮮な果実を齧ってるだろう音が聞こえてきて、怒り3倍。
「ううぅぅぁああオイそこのグレープフルーツ姫ぇあんたひとの頭になにしてくれてんのよォオオ!?」
勢いガバッと顔を上げて猛抗議――しようとしたところで目に強烈な、刺激。
「あっ、たたたたたたたたたしみしみしみる――――――――っ!!」
「あはは、舞奈リアクションおもしろーい」
「なあ……その、婦女子が朝っぱらから学友の頭にグレープフルーツを叩きつけ、あまつさえ悶絶しているそこに眼を狙って汁をかけるのは、倫理的にもアリといえるのか?」
「舞奈だからイーの、ねぇ舞奈?」
「イイわけないでしょぉおおお」
「目ぇ覚めたでしょ?」
「覚めたわよ!」
「ならよかったじゃない」
「よかないわよ頭はじんじんするし目はヒリヒリするしろくなもんじゃないわよぉおおおおおおお!」
「……ハァ」
そこまで叫び切ったところで、聞き慣れないため息を舞奈は聞いた。それに我に返り、視線を向ける。
シャリシャリ、グレープフルーツを齧る弥生の傍らに、背の高い影を見つけた。
「……あいだ、さん?」
「間でいい」
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