お茶会
「それで? この秘密基地とやらで、いったいなにをどうする気なんだ?」
「え、お茶会だけど?」
「……帰っていいか?」
「え、だめ」
思っても口に出しても、結局結果は同じだった。
こんな岩間でお茶会とは如何に? と疑問符を浮かべる間もなかった。
弥生が再び、自分の手を握ってきた。
「……あのな神ノ島、」
「ささお客さま一名さまごあんないー」
ていうか引っ張られてた、強引過ぎる。間六彦は若干諦めさえつき始めていた。されるがまま、奥へと引っ張られていく。それに舞奈は肩をすくめ、柚恵は楽しげについてくる。
そこに、ダイニングルームが形成されていた。手ごろな高さの岩をイス代わりに、大きい円形の平らな岩をテーブル代わりにして、家から持ち寄ったのだろうクッキーやちんすこうに、コースターや花瓶まで置かれていた。ここまでくれば、確かに秘密基地の様相だった。
その一席に、案内される。
「ではお客さまー、ごちゅーもんはなんに致しますかー?」
棒読みが逆に可愛らしい即席ウェイトレスな弥生だった。いちいちツッコむのも面倒になっていた、所詮いーからいーからだし。
「じゃあ、ココアを貰えるか?」
「はい、ココアひとつうけたまわりましたー。……舞奈?」
あるのか、とツッコむ暇も無かった。
「はーい……ったく、人遣いあらいんだから」
あっさり注文を受けるし、しかも作るのは舞奈らしいしと、最初を髣髴とさせるダブルツッコミどころだった。もうしばらく流そうと間六彦は悟っていた。そう考えれば今まで通りだし、楽ではあった。お、このクッキー歯応えあってうまいな。
「ゆえもぉ、手伝うよぉ」
「あ、ありがとう」
そして二人きりになった。
「それで、六彦っ」
「なんだ?」
いつものようにぐい、と顔を寄せられたので、間六彦は顎を右手の甲に乗せ、視線を逸らした。クッキーをぽりぽり食う。
回り込まれた。ため息を吐く。
「……なんだ?」
「六彦はなんで、いっつもひとりなの?」
「余計なお世話だ」
今度はちんすこうに手を伸ばす。
「六彦はなんで、いっつもひとりなの?」
まったく同じ質問に、手が止まる。
「……なにを言ってるんだ、お前は?」
「六彦、誰にも心開かないよね?」
「その通りだが?」
「さびしくないの?」
「寂しくないな」
別にひとりで生きていくのに、苦労をわずらった覚えはない。それよりも人と関わり煩い生きていくほうがよほど面倒だった。
「うそつき」
なにを根拠にこの娘は断言するのか。
僅かのイラだちと、そして疑問に興味がわいていたのかもしれない。間六彦は弥生と視線を、合わせた。
笑っていなかった。
怒ってもいなかった。というより表情が、そこにはなかった。ただ真っ直ぐに、目を合わせることに集中している様子だった。
なにを見ているのか――
考えて、まさかという考えに至った。まさかこの子は幽霊が――しかしだからといって目に視えないそれが、
「はい、ご注文のミルクココアとルートビアよ」
「わー、ちょーのどかわいたー」
舞奈の登場に弥生は躊躇なく視線を外し、そちらに飛びついた。それに間六彦は、息を吐く。得体の知れない女だ。しかしそれよりも先に解消すべき問題があった、問題だらけだ。
「……ルートビアとは、ビールのことか?」
「うぅうん。ルートビアーはぁ、アルコールを含まない炭酸飲料だよぉ?」
いつの間にか隣に座っていた柚恵が、その質問に答えていた。その目の前には得体の知れない黄色い液体、これこそアルコールではあるまいか?
「ん、これぇ? さんぴん茶だよぉ」
「……さんぴん茶?」
初めて聞く単語。どういうお茶なのか、気になるところではあった。
「飲んでみますかぁ?」
差し出され、一瞬躊躇したが結局飲んでみることにした。何事も経験だ、毒盛られるわけでもなし。
――少し、酸味が?
「これって……ジャスミン茶、か?」
柚恵は、にっこり笑顔。
「そぉだよ。内地の人には、そっちの呼び方が一般的だねぇ」
内地という言い方に、文化差を感じる。なるほど、ジャスミン茶を沖縄ではさんぴん茶というのか。ひとつ勉強になった。
「さんぴん茶は、こっちでは一番飲まれてるお茶だよぉ。……ひょっとして六彦くんはぁ、転校生とかかなぁ?」
「まぁな。二週間ほど前に、東京から越してきた。ただ生まれはこちららしくてな、幼少の頃、しばらく過ごしてはいたらしい」
「へぇええ、かっくいいねぇ」
「そうか?」
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