グレープフルーツ姫
「小さい頃からずっと、幽霊さんがみえてたんですよぉ、あ、ここ笑うとこじゃないですからねぇ?」
言いながら、柚恵のほうがハハハと笑う。舞奈は腕を組んで、ひたすら仏頂面だった。先が読めない間六彦は、黙して先を促すしか出来ない。
「ゆえたちにはみえなかったから、スゴく不思議で、それでスゴい子だなぁ、とは思ってたんですよぉ。でも弥生ちゃんはとってもいい子でぇ、あ、弥生ちゃんっていうのはそのお友達の名前なんですけどねぇ?」
「……続けてくれ」
同意を求めるような笑顔に、なんと答えろというのか。
柚恵はえへへ、と笑った。
「それで、すっごく仲良くなったんですけどぉ、最近弥生ちゃん、あくりょうにとり憑かれちゃったみたいで……」
目を、パチクリさせた。
思わず、口を挟んでいた。
「……本気で、言っているのか?」
「もちろんですよぉ」
その笑顔は、確かに本気だった。
だとするなら、この女の正気から疑わなくてはならないのだろうか?
と、そこで。
「……冗談じゃ、ないんですよ」
黙していたというより若干フテ腐れていた感のあった舞奈が、口を挟んできた。しかし視線はあさってに、手はモジモジ。どうやら相当内気なタイプらしいと、間六彦は覚悟を決めた。面倒そうだ。
「そ、それで……その子、神ノ島弥生っていうんですけど――」
ガタンっ、と大きな音がした。それに舞奈はびくっ、として後ずさり躓き転んでスカートの中大解放で頭さすりつつそれに気づいて慌てて隠して辺りを見回し誰も見ていないことにホッとしてから視線を戻すと、間六彦の目が怖かった。
「ひっ!」
「や、すまん」
それに気づき、間六彦は鋭くしていた眼光を、緩めた。それにしても、思わず椅子を蹴倒してしまっていた。
まさかその友達とやらが、今朝会ったグレープ――
「……その子ひょっとして、グレープフルーツ好きだったりしないか?」
我ながら、バカっぽい質問だとは思った。
「は、はい。グレープフルーツ姫ですから」
バカっぽい返答が、かえってきた。ていうかグレープフルーツ姫ってなんだよおい。
「そ、そうか……」
「は、はい……」
「……ひ、ひとつ聞きたいんだが?」
「……な、なんですか?」
「グレープフルーツ姫って、なんだ?」
「え……な、なんでしょう?」
沈黙。なんともいえない雰囲気が漂う。
柚恵が、それを破った。
「六彦くん、」
「――なんだ?」
「弥生ちゃんのこと、知ってるのかなぁ?」
間六彦は、数瞬考えた。知っているといえば知っている、知らないといえばなにも知らない。そこで率直に、素直な感想を述べることにした。
「会っては、いる」
「へぇ、いつかなぁ?」
「今朝だ」
「うそっ!?」
びっくりするくらいの大声にそちらを向くと、舞奈はバツの悪そうに口元を抑えていた。ついでに周りを見ると、みんないつからか完全に食事をする手を止めて、こちらにガッツリ注視中だった。みんなそんなに暇なのか?
「や、いや……」
「あ、うむ。なんだ、俺が会ったのが今朝だと、なにか都合でも悪いのか?」
改めて視線を合わせてやると、舞奈は再び恐縮するように小さくなった。本当この子挙動不審だな、小動物のようだ。
「べ、別に都合悪いって言うわけじゃ……っていうかそんなことありえないっていうか……おーまいガッ! 神よ彼を救い給え、っていうか……」
「……お前、だいじょうぶか?」 流石に心配してしまう、そこまでいくと電波なひとだぞ? 間六彦は至極自然な動きで流れるように身を乗り出し、その額に手を、当てた。
うむ、熱は無い。
舞奈はぽかん、と口を開けていた。
「は――ハァァァああアアアアアアア!?」
パァン、と派手な音がした。それに周囲がガタガタっ、と身を乗り出す。中には弁当を落としている哀れな女子もいた。
あの間六彦が、ビンタ喰らったかと思った。
「……おいおい、とつぜん何をする?」
しかしその平手打ちは頬の直前、間六彦の左の手の甲により受け止められていた。それに周囲はホッと胸を撫で下ろし、弁当を落とした女子は別の意味で絶叫していたぎゃあああああああ。
むしろ舞奈のほうが、びっくりした。
「あ……わっ、その……ごめんなさいっ」
そそくさ、と柚恵の後ろに再度逃げ、隠れる。間六彦は、ため息をつく。なにがそんなに怯えさせてしまったのだろうか? それほど自分は怖いのだろうか?
「舞奈ちゃんがびっくりしたのはぁ、六彦くんがありえないモノをミたからだよぉ」
柚恵の言葉に、間六彦は眉をひそめる。
「……ありえないモノ、とはどういうことだ? お前たちの友人である神ノ島弥生は、実在する人物なのだろう?」
「モチロぉン」
その笑みは、少し含みがあるように感じられた。
「いまぁ、弥生ちゃんは……病院でぇ、こん睡状態なのでぇす」
不吉なものに、感ぜられた。
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