第7話

『クソ!』


男は息を切らせていた。


裏路地に逃げ込んだが、そこは行き止まりだった。


壁を駆け上がろうにも、高すぎて超えることは出来なかった。


すると右足に激痛が走った。


『ぐわ!!』悶絶する。


男が振り返ると、フードを被った黒いレザースーツの男が立っていた。


『ナイトイーグルか・・・』



その問に答えず、再び矢が飛んできた。


今度は男の右肩を射抜いた。


『うわ!!・・なんだよ!』


【静かに暮らしている人が、なぜ死ななければいけない】


宗介は弓を構えると男に近づいた。



『待ちなさい!』 


突然、宗介の後ろから女性の声がした。


宗介は振り向くと、そこにはショートカットの黒髪をなびかせた、スーツ姿の滝沢瑞穂が立っていた。


【誰だ】


『陸奥地検の滝沢瑞穂よ、その男は先週起こった強盗殺人事件の被疑者だわ』


【そんなことは知っている】


『あなた・・どうするつもり』


【こいつに生きる価値がない】


『ダメよ、それはなんの解決にもならないわ』


【なら、なぜこいつが執行猶予付き判決になるんだ!】


『検察だって実刑に向けて全力を尽くしてるわ』


【こいつが執行猶予に値するか?】


宗介は弓を男に構えたまま、滝沢瑞穂に話しかける。


『最後は司法の判断なのよ』


滝沢はまさか数週間前に自分が上司に言われた言葉を使うことになるとは思っていなかった。


『あなた・・・ナイトイーグルよね?』


宗介は答えない。


『あなたはヒーローなのよ・・街の希望でもあるわ・・殺してはいけない・・』


【オレはヒーローじゃない】


宗介は男の方を向き、構えた弓矢に力を込めた。


男は震えて『た・た・・助けてくれ・・』



遠くでパトカーのサイレンを響いてきた。


『私が呼んだよのよ』


【なら、ためらうことはない】


『ダメよ!!』




宗介は矢を放った。



瑞穂は目をそらしていた。


そしてゆっくりその目を正面に戻すと、すでにナイトイーグルの姿はなかった。


放たれた矢は男の顔の横の壁に突き刺さっていた。


男は恐怖のあまり放心状態になっていた。



パトカーが現場に到着し、制服警官が周りを包囲した。


『私は地検の滝沢です、その男は先週起こった強盗殺人の被疑者よ』




制服警官が男を取り押さえてる姿を確認すると滝沢瑞穂は陸奥の夜空を見上げた。


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