第5話
1
◇陸奥地裁
『主文、被告人を懲役3年、執行猶予5年に処す』
検察側席にいた、滝沢瑞穂(たきざわみずほ)は手にしていた資料を机に叩きつけた。
『ちょっと待ってください!、なぜ執行猶予がつくんですか!』
ショートカットの黒髪をなびかせた、目鼻立ちがくっきりした端正な顔立ちのこの女性は閉廷後、裁判長に詰め寄った。
『この事件は窃盗罪です』
『あれのどこが窃盗罪なんですか!?』
『いい加減にしなさい、検事さん』
すると後ろからスーツ姿の男が滝沢瑞穂の腕を掴み引き寄せた。
『すみません、私からよく注意しておきますから』
『頼みますよ』というと裁判長はその場を去っていった。
『滝沢、落ち着け』スーツの男は滝沢の上司だった。
『納得できません!』
『お前はよくやったよ、だが、最後は司法の判断だ』
『あの男はまたやりますよ!クスリ欲しさに』
『だが、我々にはこれ以上何も出来ない』
『だからって黙って野放しにするんですか?』
滝沢瑞穂は上司を睨みつけながら最後に吐き捨てた。
『この街はクスリでまみれてるわ・・・』
そしてそのまま、滝沢瑞穂は陸奥地裁を後にした。
2
『宗介くん、いつもありがとうね』
もうすぐ80歳になろうとしているおばあさんが宗介に感謝を伝えた。
『いいえ、また遊びに来ます』
『今度は宗介くんの好きなお煎餅用意しとくからね』
『高田さん、気使いなくていいですよ、では戸締まりはしっかりしてくださいね、強盗が増えてますから』
宗介は用心を促すと、おばあさんの家を後にした。
楠木宗介は陸奥市役所の生活安全課に属している。
陸奥市は急速な復興で街の体制を整えたが、近年横行しているクスリの売買による窃盗や強盗が増えて来ていた。
陸奥警察は市民に戸締まりや防犯の強化を促して、撲滅に全力を上げているが犯罪が増えた近年ではすべてのところに手が回せない状況でもあった。
そこで陸奥市は市を上げて防犯対策をするべく陸奥市役所内に”生活安全課”という部署を立ち上げ、警察の手が回らないところを市が補うことにしたのだ。
高齢者の自宅を見回りし、戸締まり・安全を促し、近所で騒々しいことがあれば通報を受け、警察と連携するといったシステムになっていた。
そして、一人で暮らしている高田みさえを宗介は心配していた。
しかし、その夜、事態は一変する。
◇陸奥市役所
今日は1日、高齢者の家や、一人暮らしをしている人たちを中心に安全を促して回って、宗介は夜に役場に戻った。
『楠木くん!、高田さんとこ今日行ったわよね!』生活安全課の同僚の女性職員が詰め寄った。
『はい、今日の午前中に』
『さっき警察から連絡あって・・・強盗が入ったって・・』
宗介は血相を変えて、市役所を出ていった。
3
高田家の前には警察車両が多く停められており、多くの警察官が現場を調べていた。
”KEEP OUT”の黄色のテープのまで宗介は中の様子を伺っていた。
宗介は近くにいた制服警官を捕まえると『陸奥市役所、生活安全課の楠木です!高田さんは?』
『市の人か、ここに住んでたひとは今、陸奥市民病院に運ばれている、、』
宗介はすぐに病院に向かった。
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