第二十五話 決着
俺の拳はグレイトウルフの頭上を捉えていた。
スキル≪跳躍≫によって一気に跳び上がり、全体重をかけてキングウルフ相手に拳を放つ。
実際に殴ってみて、まず最初に思ったことが『硬い』だった。
シロエがキングウルフの説明時に言っていた『強靭な皮膚を持つ』という言葉に納得がいく。
グレイトウルフに比べてゾンビパワーを持ってしても貫通しないのである。
「折れたかも……てか確実に折れた」
拳を放った腕を見ると、変な方向に折れていた。
動かしてみようと意識を腕に集中してみるが、やはりと言っていいのか動く様子は無かった。
痛みは感じられないが、逆に痛みが感じられないからこそ人間らしかぬ自分が気味悪く見えてくる。
「おい! そこのお前、よくやったがどけろ!! まだ終わっちゃいねぇ!!」
この声は……見ると、【
終わっちゃいない、つまりまだ生きてるってことだ。俺はすぐさまキングオオカミから距離を取る。
彼の言った通り、まだ終わったわけでは無かった。
「グッ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
辺りに響き渡る雄叫びは『怒り』を象徴しているようで、冒険者たちだけでなくグレイトウルフまでもビリビリと鼓膜を刺激させる。
キングウルフは目をナイフのように鋭く尖らせ、俺を見つめる。
その視線に見えるのは殺意。
俺を的確に殺そうとデカい巨躯を巧みに使い、勢いよく突進を仕掛けて来た。
「≪
シロエがキングウルフの行動を止めようとお得意の魔法を放つが、デカすぎて収まり切れず、≪束縛バインド≫が効いた様子は無い。
「わあああああ、避けろ、避けろォォォ!!!」
その突進のルートは他の冒険者やキングウルフの仲間であるグレイトウルフまでも巻き込んで突っ走っていた。
もし、あんな巨体から繰り出される突進を喰らったのだとしたらひとたまりも無いことは目に見えて理解出来る。
俺は瞬時にスキル≪跳躍≫を駆使してキングウルフの頭上へと逃げ、突進を躱す。
冒険者たちも必死な形相で巻き込まれまいと各々自分の使えるスキルを駆使して躱していくが、グレイトウルフの何匹かは避けきれず、まさかの自分のリーダーの突進によって吹っ飛ばされていた。
軽く1kmは吹っ飛んでいる。起き上がる気配も無い。もしあの突進を自分が喰らっていたならば死んでたな、絶対。
「キャンキャン!!」
その光景を見たグレイトウルフたちはリーダーの怒り狂う様に怯え、巻き込まれまいと森へと逃げていく。
リーダーの統率が無くなったグレイトウルフたちは見る見るうちに弱体化していき、あっという間に7匹ほどしか居なくなっていた。
それを機と見たのだろう、冒険者たちは互いの力を振り絞り、残ったグレイトウルフを狩っていく。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
再度キングウルフの雄叫びが響く。
よほど頭を殴られたのが気に入らないのかターゲットを俺に絞り込んでいるように見える。
「皆さん、グレイトウルフを狩り終えたなら魔法を精一杯キングウルフにぶっ放してください! 奴の狙いは俺です。俺が引きつけます! それで隙を作ります」
「隙ってお前、大丈夫なのか!? 腕折れてるだろ絶対! そんな状況でッ……!」
「この通り心配いりません、ですから皆さんお願いします!」
俺は腕をブランブランとさせながら冒険者たちに向けてそう叫ぶ。
「どこが心配無いんだ!?」
との声が聞こえたが、動き出した俺の身体は止まらず、返事を返さず急いで人気の無い場所に移動した。
「おらっ、来い!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおッ!!」
俺の姿を捉えたキングウルフが地面を揺らしながら俺の居る場所まで駆ける。
ドスンドスンと響く足音を聞きながら俺はキングウルフと向き合い対峙する。
「何やってんだアイツ!?」
「死ぬぞ!?」
と冒険者たちが俺を見つめて叫んでいる……ように見えた。足音がうるさくてよく聞き取れないのでそう見えただけだが。
俺はいつでも来ていいようにとかかとをしっかりと地面につけて重心を意識する。
「はあああああああああああ」
息を吐いて集中、俺は突っ込んでくるキングウルフに睨みを効かせる。
「俺はッ」
「ぐおおおおおおおッ!!」
「足技のほうが得意なんだよ!!」
タイミングを合わせて回し蹴りを炸裂させた。
狙い通り、足は奴の顔面にクリーンヒットしてくれたようで、手ごたえは十分ある。
でもやっぱり硬いな、キングウルフ。激しい衝撃と共に、足も折れた感覚があった。
だが、その衝撃はキングウルフにも伝っているようで、巨体を傾かせ始めるキングウルフの姿が見えた。
ダメージは喰らっているはずだが、未だに踏ん張りを見せるキングウルフは唸り声を上げ始める。
この機会を逃すまいと俺はシロエに向けて大声を上げた。
「シロエ、聞こえるか!? 脚だ!! 脚を狙えッ!!」
「≪
やはりシロエの耳はいい。キングウルフが唸り声をあげているのも関わらず俺の声はバッチリと聞こえたみたいだ。
シロエのお得意≪
俺は叫ぶ。
「いまだ!! 魔法を放ってください!!」
折れた足を引きずりながら俺はキングウルフから距離を取る。
冒険者たちはあらかじめ準備していた魔法を一斉に放ち始めた。
何の魔法を放っているのかは分からない。が、各々放った魔法はキングウルフに突き刺さり、驚くほどの火力を持ってして爆発した。
巨大な爆風に飲み込まれ、俺の身体も吹っ飛んでいく。
叫び声も上げられぬまま地面を転がり、数十メートルの距離でようやく止まった。
上向きで、流れる空を見ながら思う。
まさか俺が叫んだと同時くらいに魔法が飛び出してくるとは思わなかった、と。
身体は痛くないが、マヒしたかのように動くことができない。なので目の前に映っているのは雲と空だけだ。
「モノ太」
スキル≪俊敏≫を使って俺の元に駆け寄ってくるような音と聞きなれた声が近くで聞こえる。
首は動かせることが出来るようで、俺は声の主に視線を向ける。
シロエだ。シロエは俺を起き上がらせると無表情のまま俺を見つめていた。
「モノ太、大丈夫?」
「ああ、足と腕が折れたけど大丈夫だよ。それよりキングウルフはどうだ? 正直俺はもう動けない」
「動く気配が無いことから死んだと思われる」
「そうか……ならいいんだが」
キングウルフを見ると、確かに起き上がる気配は無い。
ついでに森へと逃げたグレイトウルフが戻ってくる様子も無いな。
「おいお前ら、来てくれて助かった。ありがとよ」
次に声をかけて来たのは【
「グレイトウルフの団結が厄介でな、キングウルフを怒り状態にしたのには本当助かったぜ」
「ならよかったです」
「そこのちびっ子も中々実力があるが、お前さんも強かったんだな。まさかキングウルフ相手に蹴りで立ち向かうたぁ驚いたぜ」
ちびっ子と言う言葉に反応を示すシロエを無視しつつ俺は返事を返した。
「まぁ、少々武術を習ってましたからね」
「そんな感じのレベルじゃ無かったが……」
「あ、アハハハハ……」
ゾンビパワーのお陰です。なんて言えないからな。
「まぁ何だ。緊急依頼は成功みたいだな。お疲れさん」
「お疲れ様です」
話し終えて彼は自分のパーティメンバーの元に帰っていく。
その中にはクリフは居なかった。また、今いる面々の中にクリフらしき人物は見かけない。
もしかして昨日の内に街を出たのかも知れないな。
俺は息を長く吐きながら自身の身体を見る。
「あぁあ、身体も服もボロボロになっちまったな」
「お金がかかる」
「そうだな。まぁいいよ。俺らにはグレイトウルフの素材を売った金があるんだしさ。それで何とかできるんじゃない?」
「この依頼で多くのグレイトウルフの素材が集まったから、多分微々たるものだと思われるけど」
「……え?」
こうして俺とシロエは緊急依頼は無事成功に終えることが出来たのだった。
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