第二十四話 キングウルフ

 門に着くと、数多くの冒険者がグレイトウルフ相手に戦っていた。

 無数に転がっているグレイトウルフの死体の間にちらほら見える人間の死体を見つけてしまう。

 また、冒険者たちに疲れが見えてきているのか、その表情はかなりやつれて見える。


「モノ太、加勢する」


 それらの様子を見てシロエは言った。

 シロエの言葉に俺は頷くと、手を離して俺らは二手に分かれてグレイトウルフを相手にすることに。


「手伝いに来たぞ!!」


 と一言言うのも忘れない。冒険者たちは俺らの姿を見て驚いた表情を浮かべていた。

 そりゃそうだろう。加勢に来たのが万年鉄級で有名なシロエと最近そいつとパーティを組んだ新人の俺なのだから。

 だけど冒険者たちは想像に反して俺らの戦いを見て、さらに驚愕することになる。


 シロエはお得意の≪束縛バインド≫を用いてグレイトウルフを殲滅し、俺はゴリ押しでグレイトウルフを退ける。


 一人で多くのグレイウルフと渡り合えることができているのだ。

 この機会を機にと、冒険者たちは単体のグレイトウルフを数人で一方的に嬲っていく。

 俺が数にして7匹を倒し終えたころだろうか、グレイトウルフたちはいきなり現れた俺とシロエに敵わないと思ったのだろう。

 彼らの表情に見えるのは怯え。敵わない相手に立ち向かえるほどの勇気をグレイトウルフは持ち合わせていなかった。


「キャンキャン!!」


 と生きているグレイトウルフは子犬みたいな声を発して逃げていく。

 こちら側が勝利した瞬間だった。


「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


 冒険者たちの雄叫びがそれを物語っていた。

 その後、疲れがきたからかその場に座り込む冒険者たちがちらほら見えた。


「兄ちゃんたちのお陰で助かった、ありがとよ」

「あぁ、そこの嬢ちゃんは昨日決闘をしていた奴だろ? 強いな」

「ぬわああああん疲れたもおおおおん」


 と戦い終えた冒険者たちは口々に言い合う。

 その顔に浮かべているのは安堵だ。

 ただ、門への強襲が終わっただけで、まだキングウルフを倒したわけでは無い。

 まだ危機が去っているわけでは無いのだ。


「まだ戦いは終わってません!! ギルドによると、キングウルフの討伐は難航を示しているようです。怪我をした人はギルドへ!! 戦える人は門で待機をお願いします。いつ、グレイトウルフが襲ってくるかわかりませんから!!」

「何っ!? おい、聞いたかよ!! まだ戦いは終わってねぇんだとよ!」

「マジかッ」


 座り込んでいた冒険者たちは立ち上がって息を吐く。


「お前らはどうするんだ?」


 と一人の冒険者が俺とシロエに尋ねて来た。

 その冒険者は血で濡れたバトルアックスを手に持っている。かなり重量がありそうだと思う。

 彼の質問に代表して俺が答えることにした。


「俺たちはギルドマスターからキングウルフ討伐に加勢してこいと言われました。だから外まで行ってきます」

「ギルドマスターから!? 正気かよ! お前ら、まだ新人じゃ――」

「おい、新人何て関係ねぇだろ、グレイトウルフを倒した実力は本物だ。コイツ等の力が必要だって話だ。ここは俺らに任せて行ってこいや」


 バトルアックスの男が肩に手を置いて言う。同調するように疲れを見せる冒険者たちは頷いていた。

 俺は力強く頷くと、シロエの手を握る。


「シロエ、疲れてないか?」

「疲れてない。モノ太は?」

「俺は疲れを感じないんだ。だから全然平気だぜ」

「ならとばしていくけど平気?」

「おう、こいや!!」


 スキル≪俊敏≫発動――、シロエに連れられて、すぐさま街の外に出たのであった。



  ◇◆◇



「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 巨大な獣が辺り一面につんざくような雄叫びを上げた。

 その獣の名前は『キングウルフ』。グレイトウルフの群れを率いるリーダーである。

 グレイトウルフの進化した魔物であるキングウルフの大きさはグレイトウルフのおよそ3倍。

 知能も発達し、武器である牙だけでなく強靭な皮膚を手に入れたことでとてつもない強さを得た魔物である。


「あああ、うるさいっ!」

「怯むな!! 攻撃しろッ!!」


 白銀級の冒険者たちは耳を塞ぎながらキングウルフに攻撃しようとタイミングを計っていた。

 けれどその攻撃は届かない、何故なのか。それはキングウルフを囲うグレイトウルフの存在にあった。

 グレイトウルフの群れであれば白銀級の冒険者にとっては倒すことが容易い存在である。銅級であればいくつかのパーティがチームを組めば撃退することは容易くなるだろう。

 ただ、キングウルフが群れを統率することで3級にまで跳ね上がり、いくら銅級がチームを組もうと撃退することは難しくなるのだ。

 その所以は何か。


 そう、それはキングウルフによってグレイトウルフたちは指揮がとられ団結力が増すからだ。


 団結力の取れた相手に対してこちらは寄せ集めの冒険者たちだ。

 互いが互いに自分のことを優先し、優先してもパーティメンバーのことだけで、他パーティの人のことは考えようとはしない。

 チームであっても赤の他人と同じなのである。


「銅級!! ちゃんとグレイトウルフの相手をしろよ!! こっちまで来てるんだよ!!」


 白銀級の冒険者が近くでグレイトウルフと戦っていた銅級の冒険者に向かって鬱憤を吐く。

 ただ、銅級だって多勢のグレイトウルフ相手に一生懸命戦っているのだ。

 たかが位が一つ上の冒険者に言われる筋合いは無いと怒りを露わにしながら言い返した。


「うっせぇ!! こっちだってやってんだよ! それよりも早くキングウルフを何とかしろや白銀級!!」

「なんだと、やるってのか?」

「おいおいおい!! 今は言い争ってる場合じゃねぇだろうよ!! それよりもキングウルフをどうにかすればいい話だ、落ち着け!!」


 言い争う二人の仲介に入りつつグレイトウルフの首を掻っ切る白銀級の冒険者が居た。

 パーティ名【大森林フォレスト】のリーダーである。というのも言い争う白銀級の冒険者は自身のパーティメンバーであったのだ。

 元々は実力はあるが何らかの事情でソロになったってヤツらが集結して出来たパーティそれが【大森林フォレスト】である。

 この白銀級の冒険者は喧嘩っ早いことが原因でソロになっていた。それをリーダーが拾ったのである。


 リーダーは考える。どうすればキングウルフをどうにかできるのかと。

 こんな時、黄金級の冒険者が居るのならばこの事態はどうにかなっていたのだろう。

 自分たちがこの魔物どもの相手をして、その隙にキングウルフを討伐させればいいのだ。

 それくらい黄金級は強い。白銀級とは比べ物にならない強さを誇っているのが黄金級である。

 その上の白金級はどれくらい強いんだって話だが。


「≪火炎のフレアボール≫!!」


 掌に火の玉を作りそれをキングウルフに向けて発射する。

 ≪火魔法Lv2≫の魔法の一つである。

 キングウルフは体のサイズがデカい故に狙いやすい。だから簡単に魔法は当たる。


「ぐおおおおおおっ!!」


 でも魔法が効いた様子は見られない。

 他の白銀級のパーティに所属している魔法使いの攻撃も効いている様子は見られない。

 ただ、魔力が強い魔法が放たれた場合のみキングウルフは身代わりを使っている。身代わり=グレイトウルフだ。

 身代わりを使うことで自身へのダメージを喰らうことを避けているのである。


「クソッ、俺の攻撃はそこまで喰らってねぇってことかよ」


 身代わりを使うと言うことは魔法によるダメージはあるらしい。

 しかし、自分の放った魔法を喰らったと言うことはすなわちそこまでダメージの無い攻撃だと判断されたみたいだ。


「うおおおおおおおっらあああああああ!!!」


 巨大な斧を持つ白銀級と思わしき冒険者がグレイトウルフの隙を得て、攻撃を仕掛ける。

 大ぶりに振られた斧の攻撃を見て、キングウルフは身体を優雅に翻すと自身の尻尾で攻撃モーションに入っていた白銀級の冒険者の身体を弾く。

 強靭な皮膚に弾かれた冒険者は吹っ飛ばされてグレイトウルフの群れに突っ込んでいったのであった。


「どうしろって言うんだ、アイツをよォ!!」


 一人で攻撃したところで反撃されておしまい。

 多数で攻撃に向かおうとしてもグレイトウルフに邪魔される。

 こうなればキングウルフを倒す方法はただ一つ。

 キングウルフを囲うグレイトウルフの数を少なくするしかない。

 まだかなりの数が居るのに冒険者たちの体力が持つのか、それは誰にも分からない。


「ぐああああっ、やめろ!! 痛いッ!!」


 体力が尽きてグレイトウルフに食べられる冒険者がまた一人と出ていく。

 まさしく絶望的な状況だ。


 と、その時だった。


「何だアレッ!!」


 誰かが叫んだ。アレ? アレってなんのことだ?

 グレイトウルフの相手をしながら【大森林フォレスト】のリーダーは目を向ける。

 街のある方角から何やら砂煙が上がっているのが見えた。


 砂煙? この草原に?


 目を凝らすと見えたのはグレイトウルフの群れだ。

 街を襲いに行ったグレイトウルフの群れがキングウルフの所へと戻ってきたのである。

 予期せぬ訪問者に冒険者たちだけでなく、グレイトウルフまでもがその砂煙の方角を見る。


「ここでグレイトウルフかよ!!」

「どうなってるんだ!? これ以上は無理だぞ!!」


 ほかの冒険者たちも砂煙の正体に気付いたみたいで、絶望的な表情を浮かべているようだ。

 かくいう【大森林フォレスト】のリーダーも限界だった。この緊急依頼はつらいと思っていた。


 また、白銀級の冒険者パーティの一人の女魔法使いがポツリと言った一言で冒険者たちはさらに頭を抱えることとなる。


「グレイトウルフの後ろに少女と……男の子がこっちに向かってる」

「は?」


 誰かが思わず声を漏らした。

 少女と男の子? その言葉で表せる二人に【大森林フォレスト】のリーダーには覚えがある。

 昨日クリフと戦ったシロエと言う少女とそのパーティメンバーである青年の二人組だ。


「いや、まさかな」


 【大森林フォレスト】のリーダーが呟いた。

 そうこうしている間にグレイトウルフの群れはどんどんと近づいてくる。


「もうだめだああああああああああ!!」

「ちょっと待って!! あのグレイトウルフたちの様子、変じゃない?」


 誰かの叫びは先ほど少女と男の子が向かってきていると報告した白銀級の女魔法使いによって止まった。


「様子が変?」


 【大森林フォレスト】のリーダーはグレイトウルフたちの様子に気付く。

 それはまるで何者かに逃げているような……という、そんな雰囲気があった。

 瞬く間に近づく砂煙に皆ハッとなり、誰かが声を上げる。


「来たぞ!! みんな、構えろおおおおおおおお!!!」


 考えている暇などない。生き残るために、街から来て増えているグレイトウルフも倒さねばならぬのだ。

 表情に疲れを見せたまま互いに武器を構え、グレイトウルフと対峙する。

 グレイトウルフの群れがキングウルフの群れへと合流しようとしたのであった――。


 しかしだ。


「え?」


 グレイトウルフはキングウルフや他のグレイトウルフに目も向けずに一直線になって森へと帰っていく。

 彼らの様子はキングウルフと合流したという雰囲気ではなく、女魔法使いの言う通り逃げているように見えた。

 この行動にはキングウルフも驚きのようで「ぐるぉぉぉぉぉ!?」と唸っている。


「な、なにが?」

「上だ!!」


 誰かの叫び。【大森林フォレスト】のリーダーがその声を聞いて上を向く。


「ゾンビィィィィッ!!!」


 聞き覚えのある声が頭上から響いた。


「パァァァァァァンチッ!!」


 直後、隕石が衝突したかのような衝撃音が全体に轟いた。

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