第二十二話 新たなスキル

『ただいま街に数匹のグレイトウルフが侵入しております。住民の方は必ず外に出ないでください。また、鉄級以下の冒険者は出来る限りグレイウルフの討伐をお願いします。クズ級の冒険者は早急に避難してください』


 これで聞こえたのは三回目のアナウンスだ。

 あの助けた女性ギルド職員が無事に冒険者ギルドに辿りつくことが出来たのか、はたまた他のギルドの人間が侵入したグレイトウルフの存在に気付いたかどうかは分からない。


 けれど、グレイトウルフ単体に勝てる実力があると分かった今、避難している場合でも無いだろう。

 速やかに二匹目のグレイトウルフを倒した俺たちは三匹目が居ると思われる場所に移動していた。


 シロエに連れられてやってきたのはまたしても商店エリアである。

 人気の無い商店エリアにグレイトウルフが二匹居た。

 まるでここは俺たちの陣地だぞとでもいうような感じで佇んでいる。

 二匹は俺たちの気配を察知すると唸り、威嚇をし始めた。


「二匹居る。勝てるか?」

「二匹なら余裕。一匹ずつ片付ける」

「分かった」


 襲い来る二匹のグレイトウルフの内、一匹にシロエはお得意の≪束縛バインド≫魔法を発動させていた。

 残った一匹はシロエの魔法を見たためかどうかは分からないが、狙いを俺に定めると突進してくる。

 鋭い牙が俺の身体を捉えていた。


「甘いッ!!」


 グレイトウルフの動きは単調である。真っすぐ俺に突進してきたのだ。

 それ故、しっかりと相手の動きを見極め、引きつけつつ瞬時に避ければ攻撃を受けることはない。

 シロエのようにチート級だと思われる≪束縛バインド≫があれば正面から向かって行くことも容易いと思われるが、そんな魔法など習得していないので正攻法で倒すしかないのである。

 俺は狙いを澄まして右に避ける。

 すると、グレイトウルフは目の前に突如出現した壁を認知し、勢いを殺そうとブレーキをかけるが殺しきれずに店の壁に激突していた。


 激突したのはレンガ造りの店の壁だ。勢いを殺していたからか壁が壊れている様子は無い。

 逆に、頭から石造りの家に突っ込んだせいかグレイトウルフの視界はチカチカしているように見える。

 ふらついていて再度襲い掛かってくる気配は無かった。

 その隙を利用して俺は回し蹴りのモーションに入る。


「おぅ、らっ!!」


 避ける間もなくグレイトウルフは俺の回し蹴りを受けるとゾンビパワーで強化された威力に耐えきれずに身体を吹き飛ばしていった。

 オオカミの身体が地面にズザザーーッと滑り、摩擦によって吹き飛ばされた勢いを弱めていった。

 その場から動く気配の無いグレイトウルフの姿を見に行く。

 息はあった。どうやらまだ生きているらしい。でも気絶しているのか起き上がる様子は無い。


「シロエ……は、もう終わっているか」


 シロエの様子が気になり、目を向けてみる。

 彼女は拘束しているオオカミの上に乗っかり、ナイフを持って顔を潰していた。

 狂気的な光景である。

 幼女による、動物虐待グロ映像のようなものを見た感覚だ。

 軽く引いた。

 こりゃ、R15じゃ収まり切れないぞ。


 俺はこれ以上見たくなかったので気絶しているグレイトウルフに顔を向けなおした。


「じゃ、こっちも終わらせますかね」


 と、小さくつぶやき、しゃがんでグレイトウルフの身体に顔を近づける。


「……それじゃ、いただきます」


 左右交互にシロエ以外の人が居ないことを確認した後、心臓付近辺りの横腹に思いっきり噛みついていた。

 昨日ぶりの食事だ。口元に血の独特としたような臭いが広がる。

 オオカミだからか、動物園で嗅いだことのあるような獣臭さが鼻につくがそれがまたいいアクセントを醸し出していて美味しい。

 それでいて新鮮だ!! いつも食べている肉とは触感と言い、味などが全然違っている。


 俺の身体全体を包み込む満足感に生きてきてよかったと思わせるこの味に点数を付けたい。


「120点だァ!!」

『スキル対象を≪捕食≫しました。スキル≪跳躍Lv1≫を獲得しました』


 俺の言葉を被せるかのように無機質なあの声が聞こえて来た。

 これで聞いたのは二回目だ。でもこのタイミングでこれは。ま、いいけど。


 あの無機質な声は、≪跳躍Lv1≫を獲得しましたと言っていた。

 俺はポケットからギルドカードを取り出して裏を向ける。


(表示)


 隠していたスキル一覧が現れる。その中のスキル項目に≪跳躍Lv1≫があった。


「お、おおおおおおおお」


 シロエの持つスキルと同じスキルを獲得したぞ! 何か嬉しく感じる。


「どうしたの?」


 全身に返り血を浴びたシロエが俺が喜んでいる様子を見て、近づきながら声をかけた。

 ちょ、シロエさん無表情だからか返り血を浴びているせいですんごく怖い雰囲気を醸し出しているんですけど。

 俺はそんな怖い雰囲気のシロエにギルドカードを見せる。


「あのグレイトウルフを≪捕食≫したらさ、≪跳躍Lv1≫のスキルを得たんだ」

「跳躍……」


 シロエはギルドカードを見て、小さく言葉を発した。

 そしてそのまま動かなくなる。


「え? あの、シロエ? シロエさん?」

「モノ太」

「はいっ!!」


 睨まれた。ちょ、怖い、怖いんですけど!! 返り血と相まって怖さ倍増してるんですけど!!

 何となく怒っている? いや、落ち込んでいる? そんな感じがする。


「モノ太、それは凄いスキル。私もほしい」

「え? あ、おい、揺らすな!!」


 どうやらシロエは俺が得たスキルに嫉妬しているみたいであった。

 ちびっ子とは思えないくらい強い力で俺の身体を前後に揺らしてくる。

 脳がぐっちゃぐちゃになりそうだ。ゾンビだけに。


「≪跳躍≫はその名の通り、跳び上がりの距離が増幅するスキル。獣人であれば誰でも欲しい」

「へぇ」


 ジャンプか。

 でもジャンプのスキルねぇ。そんなに欲しいか? これ。


「一応≪跳躍Lv1≫を獲得したのなら、スキルを使ってみて。人間がどれくらい跳び上がるのか見てみたい」

「分かった」


 お言葉に甘えまして、スキルを使用してみる。

 ここ数日で分かったのだが、スキルは頭に思い浮かべただけで発動するようだ。

 技名を叫ぶ必要のある魔法とは違ってスキルの使用は簡単だが、魔法って便利だよなぁといつも思ってしまう。

 例えばシロエの火魔法。いつでもどこでも火を手に入れることが出来るってかなり需要があると思う。俺もいつかは使えるようになるのだろうか? 使えるようになればいいが。


 さて、早速≪跳躍≫を使ってみよう。≪跳躍≫を頭に思い浮かべて俺は跳び上がってみる。


「お、おおお」


 凄い、このスキル思ったよりすごいぞ!!

 全力でジャンプしたのだが、軽く5メートルくらいは普通に跳び上がってるぞこれ!!

 空中だとふわっと宙に浮いている感覚がする。ただ、着地は足に負担がかかるみたいだ。

 次にスキルを想像せずにジャンプしたが、それほど跳び上がる様子は無い。スキルの有る無しだと全然違って見えるようだな。


「どうだった? 俺の跳び上がり」


 俺の跳び上がりを見たシロエは満足そうな顔をして言った。


「私もいつかほしい」

「そうですかい」


 感想では無く本音が飛び出してきました。

 元々シロエは獣人だからか身体能力が高いこともあるし、≪跳躍≫を手に入れたら俺よりかなり跳び上がるんじゃないかと思われる。

 まだゲットしないでくれよ、シロエ。ちょっと優越感に浸っていたいから。


「さて、他にグレイトウルフは街にいるか? いるなら早く討伐しよう」

「ちょっと待って」


 ぴくぴくとシロエは耳を動かした。

 この耳を使って敵がいるのかを把握しているようだ。

 レーダーの受信機みたいだな。ぴくぴくし終えて一息つくとシロエは言った。


「この辺りは居ないと思う。獣の臭いも門の方からしかしないし。もしかしたら他の場所に居るかも」

「居ない、か」


 じゃあ街に侵入したグレイトウルフは全部討伐したとみていいのかな?


「居ないなら……どうする? クズ級と鉄級の俺たちだけど、グレイトウルフには勝てる実力があるし、門辺りで加勢するか?」

「それは多分出来ない。緊急依頼とはギルドマスター直々の依頼。勝手に動くとギルドマスターから罰が与えられる」

「罰? こんな緊急時にそんなルールがあるのか?」

「当り前。冒険者ギルドはギルドと言う組織だから。組織が決めたルールには逆らえない」

「そうか……」


 だとすると、一度冒険者ギルドに戻ってみたほうがいいかもしれないな。

 街の中にいるグレイトウルフは討伐しましたよと報告も兼ねてね。


「じゃあシロエの言う通り、門で加勢するのはやめてギルドに戻るか?」

「それがいいと思う。冒険者ギルドで街に侵入したグレイトウルフの数を聞くのもいい」

「そうだな。ならこのグレイトウルフたちはどうする? 放置か?」

「この辺りには気配は感じられない。まだ時間もあるし、解体してお金にすることも可能」


 その意見にはすぐさま賛成した。

 賛成したのは、俺たちは今無一文なのだから、多少時間はかかってもお金を得ることが大切だと考えたからだ。

 奴らの牙は武器を作成する素材になるらしい。毛皮は防具の素材になるみたいだ。

 シロエはゴブリンばっかり狩っていたのに解体の心得が多少あるらしく、ナイフを用いて毛皮をはぎ取っていた。

 そんでもって俺はというと、獣が持つ二つの大きな牙を力の限りを用いてむしり取っていた。

 というか、折って素材を集めていた。


「よし、綺麗に折れたな。てか牙すごく硬かったなぁ。何か手がじんじんする気がする」

「私も毛皮を剥ぎ取り終えた」


 シロエの手には血で汚れた毛皮がいくつか。その横には丸裸にされて筋肉の見えるオオカミが転がっていた。

 グロイです。あんなの人体模型でしか見たこと無いぞ。

 しかも目の前にあるのは人体模型のような造り物じゃなくて正真正銘本物だからな。


「俺の倒したやつは剥ぎ取らないのか?」

「モノ太のは剥ぎ取れるところが少ないからお金にならない」

「あははは……」


 と俺が討伐したグレイトウルフを見ると、腹の一部が消失していて確かに毛皮をはぎ取る場所は少ないかもしれないと判断できた。

 まぁ、食べちゃってるからね仕方ない。

 残っているのは頭と臓器くらいだ。剥ぎ取れないわ、こりゃ。

 ……ついでにゾンビみたいに起き上がったりしないかな? と不安になったので一応頭を拳で潰しておくことにした。予防策は張っておくに限るだろう。


「肉はどうする? 美味しかったけど」

「保存するための袋が無いから持っていけない」

「肉を保存するための袋があるのか」

「ある。【冒険者の拠り所】で3000ガルドで売っている。それに入れないと腐る」

「たっかいな……」


 持っていけるのは保存するための袋いらずな牙か毛皮だけとなるようだ。


「それじゃ、冒険者ギルドに行く」

「了解。……一応聞いとくけどこれらの死体は放置でいいんだよな?」

「二匹目を倒したときも言ったけど、どうせこの騒動がひと段落したら冒険者ギルド職員が回収に来るから大丈夫」

「そっか、ならいいか」


 この死体を見たら冒険者ギルドの職員はどう思うか分からないけど殺し方を詮索されないよう祈りながら、俺たちは冒険者ギルドへと戻った。

 勿論、シロエの≪俊敏≫で。

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