第十八話 デート

 クリフの弟の件についてアンジーさんに聞いてみようと思ったのだが、そう言えば今マークさんとランチに行ってて不在なんだっけ。

 他の職員も決闘終わりのお昼時だからか冒険者たちの対応で忙しそうだ。

 しょうがないからあとで聞いてみるか、なんて思いながらシロエにお昼ご飯を奢るため、酒場の空いている席に座った。


 冒険者ギルドに併設されている酒場には、お酒だけでなく朝ごはんだってランチだってディナーだって食べることが出来るメニュー数を誇っている。

 しかも冒険者であれば少々の割引サービスが受けられるようだ。

 ただし、ランクが高ければ高いほど良いサービスを受けられるらしく、『クズ級』の俺と『鉄級』のシロエだとそれほど良いサービスは受けられないようで。


 俺はまだ未成年なのでジュースを頼み、シロエはランチメニューを頼む。

 鉄級のお値段サービスを受けて300ガルドとなったランチメニューを頼んだシロエに運ばれてきたのは、唐揚げみたいなのとスープ、そしてパンだ。

 パンを見ると、俺が知っているような美味しそうな茶色では無く、焦げたような黒色である。


「なぁ、シロエ。そのパン焦げてるんじゃないか?」

「焦げてない。これは黒パン。ライムギで出来たパンで硬くて食べづらい」

「へぇ」


 黒パンか……。異世界転移モノのラノベなんかで見かけたことのある名前だったが、実物を見たのは初めてだ。

 本当に黒っぽい色をしてるんだなぁ。

 一瞬焦げているのかと思ったぜ。


「モノ太は食べないの?」

「俺は後で初めて肉屋に行って肉買って食べちゃうから今は我慢しとく。作ったのって味がして美味しいんだけどお腹に溜まらないからなぁ。節約だよ」

「わかった」


 シロエは黙々とランチを食べる。

 黒パンはシロエが言った通り硬いようでスープに浸して食べていた。

 ひたパンか。俺、結構ひたパン好きなんだよなぁ。お金に余裕があったら今度食べてみよう。

 ゾンビになっても味は楽しめるしな。


 そんな俺はシロエがオススメだと言って頼んだジュースを一口飲んだ。

 紫色の液体のジュースだ。色合い的にはブドウジュースみたいだが、どうやら味が違う。ブドウジュースでは無いみたいだ。

 なんともすっぱくて、それでいてジューシーで甘みを感じる……俺、この味一度味わったことがあるんだけど何処でだっけ?


「このジュースってシロエが頼んでくれたやつだけど何て名前だったっけ?」

「ムミカンのジュース。私のお勧め」

「ムミカン?」

「紫色の、丸っこくてこれくらいの木に生えている木の実」


 シロエが両手で丸を作る。紫色でこれくらいの大きさ……の蜜柑?

 あ、思い出した! 俺が異世界で初めて口にしたあの紫色の蜜柑じゃん!!

 これ毒々しい色をしているくせにめっちゃくちゃ美味しいんだよな。まさかギルドで出会えるとは!!


「確かに美味しいな」

「でしょ? 実はライフ近くの森の奥にもこの木が生えている」


 知っています。俺、食べたから。


「だけど最近、その木の一本が折れているのを発見したらしい」

「えっ」

「しかも他の木も折れていたらしい。刃物で木を斬ったわけでは無く、まるで大きな魔物に折られていたみたいに。それで新たな魔物の可能性があるからと黒鉄級以下の冒険者は立ち入りを禁止すると今日の掲示板に書いてあった。奥だから私たちには関係ないけど」

「へ、へぇ……」


 覚えがあるぞ、その話。あれだ。

 木の実を取ろうとして木を揺らそうとしたらゾンビパワーで折っちゃったやつだそれ。

 忘れてたけど、俺のせいで黒鉄級以下の冒険者たちに多大なご迷惑をおかけしてるんじゃないか?

 流石に犯人は私です……。何て言っても信じられないだろうし。


「もしかしたらモノ太が言っていたグレイトウルフの噂と関係があるかも……ってモノ太、どうした?」

「な、何でもないっす! それよりもう食べ終わったように見えるけど、商店エリア行くか?」

「? うん」


 シロエが察する前に話題を変えることに成功、会計を払い、冒険者ギルドを後にする。今の所持金はおよそ2000ガルドくらいだ。

 まず俺たちが立ち寄ったのは服屋であった。

 シンプルな服が取り揃えているお店だ。店を見渡すと値段の高いものから低いものまである。


 安くても980ガルドするが……。

 ズボンを含めると2000ガルドするじゃん!! 肉も買う予定だから今日買えるのは服だけになりそうだな。

 さて、だとすると買うとするならば一目見ていいなと思った赤い服と黒い服のどちらかだ。

 どっちにするかなぁ。


 ここはパーティメンバーに聞いてみるしかない。


「シロエ、この赤い服と黒い服、どっちが似合うと思う?」

「これ」


 と言って渡されたのは白で無地の服だった。

 白って……俺が今着ている服も白色だ。


「いや、あの。白ばっかり着てても汚れが目立つというか……」

「じゃ、これ」

「黄色」


 シロエの今着ているような冒険者スタイルの服の色とマッチングしてますね。

 選んでるの、シロエの好きな色じゃん。


「あの、赤か黒かで決めていただけると」

「えー。じゃあ黒」

「……リョウカイ」


 シロエの判断で俺のおニューの服は黒色となった。

 続けて肉屋へと赴く。商店エリアはやっぱり賑わってんなぁ。

 目的の肉屋はっと……あったあった。

 この肉屋はポッポ鳥を売っていた肉屋で、店の前で商売の邪魔だと怒られたことが記憶に新しいお店である。

 まぁ、流石に覚えてないかな。なんて考えながら店の前に立った。


「いらっしゃい! 今日はギュウギュウのお肉が……てそこの二人はこの前の店の前で変なことをしていた人ですね? ひやかしなら帰ってくださいよ!」


 思いっきり覚えて居たみたいだ。俺らの顔を見るなり冷やかし認定されてしまった。

 ちょっと恥ずかしい。


「私たちは客だけど」


 シロエが肉屋の店主に反抗の態度を見せる。


「客ですかい? なら申し訳ございません。いらっしゃい、ようこそ『ライフライン肉盛にくもり』へ。何をお探しで?」

「ギュウギュウの肉を」

「ちょ、馬鹿! 正気かシロエ!?」


 シロエの頼んだ肉の名前を聞いて俺は驚きの声をあげた。

 いや本当は店の名前について思いっきり突っ込みたかったのだがそれどころじゃ無い。

 俺が買おうとしていたのはホーンラビットの肉一匹分400ガルドのお安い肉だ。

 けどシロエが頼んだのは牛肉に似た、ラビット1.5匹分くらいの大きさで1500ガルドもするちょっとお高い肉であった。

 俺の所持金は1040ガルド。シロエの所持金はそれ以下だ。


「俺、それだけのお金持ってねぇんだけど!?」

「私の所持金を足せば行ける」

「……いや、でもさ! 武器ほしいから貯金もしたかったし」

「全くモノ太はネチネチとして男らしくない。ギュウギュウ、食べたくないの?」


 食べたいか食べたくないかで言えばそりゃ……


「いや、食べてみたいけど……」

「私はギュウギュウが食べたい」


 店の前で会議が始まった。その様子を見た肉屋の主人が苦笑いを浮かべながら言う。


「やっぱり冷やかしですかい?」

「あ、いや! やっぱりホーン――」

「ギュウギュウの肉を」


 シロエはナイフの刃先を俺に向けて言った。

 き、汚ねぇ!! そんなにギュウギュウが食べたいのか!!

 てか街の中での武器の使用は犯罪だぞ!?


「お金は明日薬草で稼ぐから」

「……はぁ、そんなに食べたいか。分かったよ。ギュウギュウを一つ」

「毎度あり」


 結局ギュウギュウって肉を買ってしまった。

 シロエの家に戻るといつの間にか辺りは夕焼けに染まっており、一番疲れているのは決闘をしたシロエのハズなのに何だか俺の方が疲れた気分になった。

 所持金0。まさかの振り出しに戻るとは。というシロエも所持金がほぼ0に近い。

 このままじゃあ貧乏生活抜けきれないだろ。


「はぁ」

「モノ太、ご飯」

「また俺が作るの!?」


 シロエからご飯を強請られた。

 シロエの家に来てから毎日作ってるぞ!?


「だってモノ太のご飯は美味しいから。……ダメ?」

「ああああああ、分かったよ!!」


 女の子の上目使いは反則だ。あれじゃ断れない!!

 段々俺も尻に敷かれてきたかなぁなんて思いつつ夜は更けていく。


 ちなみにギュウギュウの肉を二等分にして食べたわけだけど、かなり美味しかったです。

 シロエ曰く、塩で味付けしただけのステーキもかなり美味しかったそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る