第三話 城塞都市『ライフ』
「ついてきて」
と言われ、少女は俺の足の拘束を解いた。手の拘束を外していないので、まだ完全には信用されていないようではあるが致し方ない。
俺は少女についていきながら話しかける。
「そういえば自己紹介がまだだったよな。俺の名前は赤司モノ太。姓が赤司で名前がモノ太だ。一応17歳な」
「変な名前ね……私の名前はシロエ。16歳」
「じゅうろくっ!?」
「どうしたの?」
俺は目の前の少女の年齢に驚いてしまった。
見えない。彼女の身長的に、小学生の年長か……あるいは中学生くらいだと思ってたんだが、まさか一個下だとは思いもしなかった。
そんな俺の様子を、少女は立ち止まってジト目で見つめて来る。俺は慌てて答えた。
「い、いや。むせただけ。気にしないで」
「そう」
少女は気にする様子も無くまたしても歩みを再開させる。俺も彼女についていった。
ロリっ子だと思ってて済まないと、心の中で謝罪しておく。
「シロエって呼んでもいいか?」
「好きにして。私もモノ太って呼ぶから」
何ともドキドキしない名前の呼び合い確認だな。ま、いいけど。
自己紹介も終わり、俺は彼女の頭にあるものが気になって仕方なかった。
「ちょっと気になるんだが、シロエの頭にある耳に尻尾って……本物?」
そう、耳に尻尾だ。犬ミミのような耳。柔らかそうな尻尾。最初はリアルに造られたコスプレだと思っていたが、ここは異世界である。
気になるのも無理は無いだろう。シロエは質問に答えてくれる。
「本物に決まっている。私は獣人だから」
と言ってぴょこぴょこと耳を動かした。器用な耳だ。
どうやらこの世界には獣人が居るらしい。流石異世界、獣人は当たり前ってか。凄いな。
ぴょこぴょこ動く耳は可愛らしく、凄く柔らかそうで俺の好奇心を刺激させる。触ってみたいなぁ。
「触ったらセクハラ。殺すから」
「……はい」
シロエの一言でその好奇心も薄れました。俺は彼女の後をとぼとぼ歩く。
「あ、そうだ。今どこに向かってるんだ?」
「さっきも言ったけど『ライフ』に向かっている。そこに私の家がある……ちょっと待って」
シロエは俺を手で制止させると、素早く何処かへと駆けていった。
「え、あ、ちょっと!?」
急な行動に理解出来ず、俺は彼女を視線で追う。と、すぐに理由が分かった。
シロエは鞘に仕舞っていたナイフを取り出すと、草むらに隠れて俺達の様子をうかがっていたであろう生き物に刃を突き立てたのであった。
見ると、その姿かたちは見覚え有る。ゴブリンだ。ゴブリンが俺たちの様子をうかがっていたのである。
「あれがゴブリン……」
というか改めてゴブリンを見たけどゴブリンって名前が本当にしっくりくる容姿をしているな。
ゴブリンを倒した彼女は、ナイフを引き抜きながらふうっと小さく息を吐くと、ゴブリンの死体から耳を切り取った。
ゾンビたちを見たり、自分でゴブリンを喰った時の死体を見たりしたからか、死体耐性は知らないうちにかなりついたみたいだけど……一発KOとかえげつない……まぁ俺が言えた義理でもないが。
シロエは耳を手にそのまま戻ってくる。
俺は耳を切り取るという行動に疑問を持ち、シロエに尋ねた。
「何で耳を?」
「ゴブリンの討伐証明に必要なの」
「あ、そう……そうなんだ。剥ぎ取りとかは?」
「ゴブリンには剥ぎ取れる素材が無い。肉もマズいし、食べるのはモノ太ぐらい。もしよかったら食べてもいいよ?」
「いや、食べんわ!!」
ちょっと待ってほしい。確かに俺は肉を食べたが、それは無意識であり、俺の判断で食べたわけでは無い。
あの死体を見るに何かマズそうだし、自分から進んで食べようとは思えなかった。ゾンビですけどね。
シロエは俺の返答にちょっと驚いた表情を見せている。
「あんなに美味しい美味しいって食べていたのに」
「……一体いつから見てたんだ? 俺が喰っているとこ。正直忘れてほしいんだが」
「インパクト強くて無理」
さいですか。
そりゃそうだわな。
「てかよくあんな草むらに隠れていたゴブリンを見つけることが出来たよな? 草と同化してて全然気づかなかったんだけど」
「私は嗅覚が優れている。貴方を見つけたのも血の臭いがしたから見に来たの」
「血? って、これか。服に付着しているやつ」
「そう。それに聴覚も優れてる。あと身体能力だって人間以上。だって私は獣人だから」
と言って誇らしげに胸を突き出しながら彼女は言った。その胸はぺたんこだ。
「今何か変なこと考えた?」
「え? い、いや何も!」
「そう」
そう言ってシロエはすたすたと森の中を歩き出した。ゴブリンの死体は放置らしい。
てかシロエ、嗅覚とか聴覚だけでなく、勘も超鋭いな。変なことは考えないようにしようと決める。
それから歩くことおよそ40分後、何度かゴブリンの襲撃に遭遇したがシロエがズバズバと対処し、何とか森を抜けることが出来た。
森を抜けた先は草原だ。風が吹き、さやさやと揺れる草原は見ていると、何だか清々しく感じる。
また、遠くに何やら黒っぽい灰色の石造りの壁が見えた。
「壁がみえるんだが、もしかしてあれが?」
「そう、あれが城塞都市『ライフ』。あの壁はモノ太のような魔物を街の中に入れないための壁」
「俺は魔物なんかじゃ――!」
「冗談。こっち来て」
と、彼女に連れられるままに草原を進む。途中、草むらのない、整備されているような道に出た。
どうやらこの道を進んだ先に街の中に出入りすることが出来る門があるらしい。
門に着く前に、シロエは俺の手首の拘束を外してくれた。
「もしモノ太が魔物では無いのだとするのなら、変なことしないで。そうすれば街に入れる」
そう一言添えて行こうとしたので俺は慌ててシロエを引き留めた。
「シロエ! 俺はこの世界の人……いや、街の人に自分がゾンビであることを隠そうと思ってるんだけど――」
「それは当たり前。下手にモノ太の存在がバレたとしたらあなただけでなく、私も危ないから」
「そ、そうか……それならいいんだ」
シロエはそう言い終えるとそのまま門に向けて歩みを始めた。
俺は彼女の後を慌てて追いかける。
道中、森とは違って特に魔物の姿は無く、俺とシロエは無事にライフの門の前へとたどり着くことが出来た。
門の前には、これまた如何にって感じの鎧を着て、手に槍を持つ二人の男が立っていた。
外国人のように堀が深い顔立ちをしている。
どうやら門番らしい。
門番は俺たち二人を確認すると、こう言った。
「ちょっとそこのお二人止まれ。街に入るには身分証の提示が必要だ」
身分証? と俺はシロエを見る。シロエの手には灰色のカードのようなものが握られていた。
あぁ、それが身分証ね。……いや俺持ってませんけど!?
俺には目もくれず、すたこら街の中に入っていくシロエを見て俺は絶句する。
「ちょっと君、服に凄い血が付着しているようだが大丈夫なのかね? 身分証は持ってる?」
一人の兵士が俺に近づき、心配するような声で言った。
だが、当の俺は身分証を持っていないので焦りまくっている。
俺は正直に言った。
「え、えっと、血は大丈夫です。でも身分証が、無くて」
「身分証が無い? お前、もしかして盗賊か?」
盗賊って人の物を盗む奴らのことだよな? そんな馬鹿な! 俺は警察官を目指している男だぜ? 盗賊のハズが無い。
なるほど、身分証の提示を求めるのはそのひとが犯罪者でないかを見極めるからなのか。
正義を愛する俺は即座に門番の言葉を否定した。
「盗賊? いや違います。ただの正義を愛する一般人です! 魔物に襲われていたところをあのさっさと街に入っていった少女に助けられまして」
「な、なんだそりゃ。まぁそれならならいいんだが……一応、犯罪歴が無いか調べさせてもらってから街で治療をしてもらうことをお勧めするぞ。それに身分証の発行も忘れるなよ。ではついてこい」
そう言って門付近の小部屋まで連れてこられた。
「これは犯罪歴を調べる魔道具だ。手を置いてくれ」
と俺の前に差し出したのは水晶のようなものだった。
魔道具。その文字から推測するに魔法の道具だよな? 魔法も存在するみたいだし、異世界って便利だと思う。
俺は素直に水晶に手を置いた。
すると、その水晶は次第に透明から青へと変わっていった。
結果は如何に。
「うむ、大丈夫そうだな」
「ほっ」
お前ゾンビだから犯罪者な! とか言われるのかと思った……。
どうやら街の中に入るのは大丈夫そうだ。俺はほっと息を下ろす。
「じゃ、街への入場料を払ってくれ。街に入るには10ガルドだ」
「え」
俺は門番の言葉に固まった。
にゅう、じょう、りょう? 入場料?
すなわち金だ。街に入るのに金が必要なのである。
まずい。俺はこの世界の金を持っていない! ついでに言うと、元の世界のお金すら持っていない! 一体どうしたものか……!
また正直に言ったほうがいいのだろうか? でもお金持ってなかったら俺は街に入れないのか?
あああ、シロエ! ヘルプ!
俺お金持ってないんだよ!
「えーっと、あのですね。持ってなくて――」
「リーダー!」
誰かが小部屋に入って来た。もう一人の方の門番だ。
いきなりでびっくりしちゃったよ。
「どうした? 急に。魔物か?」
「あ、いえ、すいません。さっきの嬢ちゃんから10ガルド預かりました。男の人、お金を持ってないからと言って」
「はぁ? 何だそりゃ。ノックぐらいしろ! 全く、驚かせて済まないな」
「大丈夫ですよ」
「よし、10ガルドは確かに受け取った。入っていいぞ。ようこそ『ライフ』へ。一応規則だから言っておくが街の中で人に向けての魔法や武器の使用は禁じているからな。注意してくれよ」
「わかりました」
そう言って、俺は街の中に入ることが出来た。街の入り口付近にはシロエが俺を待ってくれている。
俺はシロエの元に駆け寄ると、お礼を述べた。
「ふぅ……。シロエ、ありがとな。助かったよ」
「貸しだから」
そう言って踵を返すと街の中に入っていく。俺も彼女の後について街の中に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます