第5話
麻里江は、まだその時、俊之とハルおばあちゃんについて話をしていた。
すると、ドアがノックされる音が聞こえた。
ドアを開けると、麻衣子が青白い顔で幽霊のように立っていた。
「どうしたの?」
「伸が・・・・、伸が・・・・」
「伸さんがどうしたっているのよ?ちょっとしっかりしなさいよ!」
床にしな垂れかかっている麻衣子を抱き起して、麻里江は話しかけた。
「隣の別荘で死んでたの・・・・」
麻里江は、何が何だか一瞬、理解できず固唾を飲んだ。
「伸さんが・・・・」
一体どうして?という思いが、麻里江の頭の中で、ぐるぐると考えが巡っていた。
「だって、隣の別荘には確か誰もいないはず・・・」
麻里江がそういうと、麻衣子は顔面蒼白のまま、静かに頷いた。
麻里江は、意を決したように麻衣子の目を見つめると、頷いた。麻衣子もその合図と共に、麻衣子と共に、隣の別荘に足を運んだ。
麻衣子は、外に出ると、まだ煩くジリジリと鳴く蝉の声に包まれて、闇の中にそびえ立つ別荘を見上げた。
隣の別荘は相変わらず、人影もなく、ひっそりと誰かを待つように佇んでいた。
電気も点いていない。
麻里江は、手に懐中電灯を持って、麻衣子と恐る恐るドアを開けた。
やはり、予想していた通り、鍵はかかっていなかったようである。
この家の持ち主は何故鍵をかけないまま、この家に不在でいるのか麻里江は疑問に思ったが、もはや、伸の遺体があると知っている以上、それ以外の事を考える余裕はなかった。
麻里江は、伸が死んでいると麻衣子から聞いていても、まだ生きているのではという思いもよぎり、家の中から伸を呼んだ。
「伸さん!どこにいるの?」
まだ生きていますように・・・という思いが強かった。
懐中電灯で、一階の玄関を照らした。玄関の奥の右側には階段があった。
ちょうど、その左側には部屋が幾つかあるようである。
「・・・・で、どこに伸さんがいたのよ―――?」
麻里江は自然と懐中電灯をギュッと強く握っていることに気づいた。
麻衣子は、表情がない顔で、二階を顎で指し示した。
麻里江は、伸が殺されたということは、いまだにこの家の中に誰かいるのでは・・・という強い恐怖を伴いながら、恐る、恐る。忍び足で階段を登った。
階段を登るたびに新築のはずなのに、ギーッ、ギーッと木の軋む音が聞こえた。
「伸さん、どこにいるの?」
麻里江は、もう恐怖で声が掠れていた。
二階にやっとの思いで登ると、廊下にはいくつかの部屋が横に並んでいた。
「―――な、何番目の部屋よ?」
麻里江は、麻衣子の方を振り返った。
懐中電灯に照らし出された麻衣子の顔はまるで幽霊を見ているみたいで、パニック状態寸前の麻里江は、悲鳴を上げそうだった。
「ちょうど、その真ん中の部屋よ・・・」
麻衣子の声も、消え入るように恐怖で怯えていた。
麻衣子はゆっくりとドアノブを慎重に捻った。
ギーーーッ
蝶番の音が静寂を保つ、家の中に響き渡った。
中を開けると、部屋の中は閑散としていて、人のいる気配がない。
麻衣子は、震える手で懐中電灯を床の上に照らし出した。
ちょうどこの部屋はこの家の主の書斎として使われているのだろうということが分かった。
懐中電灯の光の先には、一台の机、その後ろには本棚があり、びっしりと書物で埋まっていた。
「ちょっと・・・・」
麻里江は、麻衣子の方を振り返った。
麻衣子は、叫び声をあげた。
「おかしいわよ!さっき、伸さんはここで血を流して倒れていたのよ!いないはずがないじゃない!」
麻里江は、頭を捻った。懐中電灯の先には、どこにも伸が倒れている形跡はなかった。
「麻衣子、変な夢でも見たんじゃないの?」
麻衣子は、大きくかぶりを振りながら否定した。
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