第3話 混沌の渦に飲まれし語り部
「…チェシャ猫!?」
目の前にいた人物は、かの有名な不思議な国のアリスがモデルとなった想区にて出会った、飄々とした立ち振る舞いで意味を含んだ発言をする、そういう印象が強かった。
「ボクのことを知っているのかい?」
「うん、前に少し…」
そうなんだと言って辺りを見渡すチェシャ猫。
焦っていると言ってはいたが、目に見えて焦っているようだった。
「うーん、ここでもないか…」
「チェシャ猫、どうしたの?」
「あぁ、ボクのことを知っているならあの子のことも知ってそうだね。
ボクは今アリスを探してるんだ、君はわかる?」
アリス。なぜ、不思議の国の想区の2人がこの想区にいるのだろうか。
理由はわからないが、アリスがいる場所がわかるはずもなかったので、エクスはわからない、と答えた。
「君もわからないか…。
闇に飲み込まれた後、ボクはアリスとはぐれてしまったんだ。
もし良かったら君も手伝ってくれないかな?」
目的がわからない以上、チェシャ猫の提案に乗らない手はなかった。
それにアリスとなれば今ここにいないレイナだって協力してくれるはずだ。
「わかった。とりあえずこの辺を出てみない?
真っ暗だと探しにくいし」
「オーケー。ひとまずここから出ることだね。そういえば君の名前を聞いてなかった、君はなんて名前なんだい?」
「あ、そうだったね、僕はエクス。よろしく頼むよ」
エクスとチェシャ猫はひとまずこの場所から出ることにした。
◆
「そういえばチェシャ猫がいるってことはやっぱりここは不思議の国の想区なのかな?」
「うん、そういうことになるね。
ボクも詳しいことはわからないよ。
ボクが分かることといえば…そうだね。
運命の書から運命が消えちゃったこと、くらいかな」
「えっ、運命の書から運命が!?」
チェシャ猫はサラッと何事もないように言っていたが、あり得ない出来事にエクスはつい、もう一度聞き直してしまう。
「見てみる?」
そう言ってチェシャ猫は自らの運命の書を開き、エクスにその内容を見せた。
チェシャ猫の持つ運命の書には一切の文字が刻まれておらず、正に空白の書と呼べるような存在になっていた。
「本当だ…でも何でこんなことが?」
「それはわからない。でもボクがこんなことになってるんだからアリスにも何かある気がするんだ。だから一刻も早く見つけ出したいんだ」
そこには、アリスに対するチェシャ猫の確かな想いがあった。
歩いてしばらく経つと、エクスの空白の書が光りだした。
「エクス。君の運命の書が光り出してるけど?」
チェシャ猫は不思議そうな顔でこちらを見つめてきた。
「…もしかしてノーネーム?」
「ノーネームって誰かの名前なのかな?」
「うん、不思議な力を持ってる女の子なんだ。
こうやって運命の書に文字を刻むことができたり、僕らの姿を確認することができるんだって」
エクスは本が光り出した理由をノーネームの力だと思い、そのことをチェシャ猫に話す。
「えーと、ここから右に…曲がって前へ…。
これはノーネームの場所を示してるのかな?」
「行ってみるのかい?」
「うん、そのつもりだよ。チェシャ猫からしたら早くアリスを見つけたいと思うけど…」
エクスはノーネームの元へと向かおうと思ったが、チェシャ猫の思いを汲んでチェシャ猫にどうするか尋ねた。
すると彼女は。
「大丈夫だよ、探すにも人手は多いほうがいいし、それにこの道、確か外にも通じるはずだからね」
チェシャ猫はそう言って、本が指し示した方向へと歩き出していった。
◆
「あ、エクスさん!来てくださったのですね!」
「ノーネーム!無事だったんだね」
エクス達は刻まれた道を辿っていくと、そこにはノーネームが佇んでいた。
その手には、僅かに残されていた運命の書ではなく、誰もが持っているような、立派な運命の書が握られていた。
「その運命の書は…?」
エクスはそれについて尋ねてみた。
「目覚めたら、ここに。
あの光の影響なのでしょうか…?」
運命の書が新しくなったとでというのだろうか?そんなことがあり得るのか?
などと思考を巡らせていると、隣からチェシャ猫が出てきて。
「君がノーネームっていうんだ。可愛い子だね〜」
「貴女は…?」
「ボクはチェシャ猫って言うんだ。よろしくね」
ノーネームとチェシャ猫が自己紹介を済ませると、エクスはこれまでの経緯をノーネームに話した。
「ノーネーム。あの後、カオステラーから僕らはどうなったの?」
エクスは何よりもこのことが気がかりだった。
「…私にも、よくはわかりません。
あの後、私の運命の書から放たれた光に包まれて、気がついたらここに…」
エクス達の姿を確認できたので、誘導したとノーネームは語った。
それにしても不思議な能力だ。あまりにも便利すぎるし、一体彼女は何者だったんだろうか?
「それにここは…多分不思議の国の想区なんだよね?」
「恐らく。調律の巫女達の動きを見ていた時に知りました。
まだわかりませんが、カオステラーは全ての想区を混沌に飲み込むと言っていました。
きっと、ここはそれに巻き込まれてしまったのでしょう」
この何もなかった無の想区に今、少なくとも不思議の国の想区が飲み込まれている。
正直理解が追いついてはいなかったが、そう思うしかなかった。
「ってことは…ボクは今、別の想区にいるって感じなのかな?」
これまでの事情を知ったチェシャ猫はそう解釈する。
「すみません…私たちの想区の問題だったにもかかわらず…」
「ううん、それについては仕方ないよ。そのカオステラーっていうのはとんでもなさそうだからね」
それと…と付け加え、チェシャ猫は自分の運命の書に一切の文字が書かれていないことをノーネームに話した。
「運命の書が…。
それは恐らく、カオステラーによるものでしょう。私たちの想区が全て無になってしまったように、チェシャ猫さんの運命が弾き出されてしまった、というか…」
「運命が弾き出された…!?」
ノーネームが言うには、この想区と同じくカオステラーによって混沌の渦に飲まれた結果、チェシャ猫の運命の書から運命が剥ぎ取られてしまったという。
先ほどから本当にありえないことばかりで、エクスは思わず困惑してしまう。
一方でチェシャ猫はそのことに対しては冷静に受け止め。
「なるほどね〜。何となくだけどわかったよ。
それより、君の不思議な力で何とかアリスを探せないかな?」
チェシャ猫はノーネームの力でアリスを探せないかと尋ねた。
チェシャ猫は本当にアリスのことが心配なのだろう。自分のことよりもアリスのことを案じてしまうくらいに。
「そうですね…。少しやってみます」
ノーネームはその意思を感じ取ったのか、そういって、目を閉じた。
エクス達の旅を見てきたノーネームはその中でアリスの姿を思い出そうとする。
そしてその姿を、気配を、辿り始める。
しばらく経つと。
「…そんな…」
その言葉に、チェシャ猫は嫌な予感を察知し、過敏に反応した。
「アリスに何かあったのかい!?」
「…すぐ近くに、います。だけどこの姿は…」
ノーネームは暗い表情でそう言った。
そして。
「…この声は…?」
誰かが近づいてくる。
聞いたことのある声。
だけど少し違う。
「…ノーネームちゃん。君の言いたいことがわかったよ。
ああ、アリス…」
「…誰だかわからないけど…面倒なのは、全ての混沌の渦に飲まれればいいのに…」
アリス、ではあった。
だけどその姿は、カオステラーと化していた。
後書き
カオス・アリスってこんな感じでいいのかな…?
第3話です。何だか自分でもややこしくなってるのですが、何とかしてまとめてみます。
カオステラーによって飲み込まれた想区は全ての運命が失われてしまう。というのは完全に自己解釈です。
何かここ違うよとかあったら教えてください…。
違ったら違ったでまた設定を練り直せますので。
混沌の渦に飲まれた結果、崩壊し、消滅する。
その間に運命が混沌に飲まれるという解釈があってもいいのでは、と思ったのですが…。
このまま放置すれば間違いなく危険な状態であることには間違いないですね。
ところで突っ込まれそうな点を見つけて付け足したいところがあったのですが、ノーネームについてです。
ノーネームは僅かに残った運命の書に自らの不思議な力でこの想区について書きまとめたと言っていますが、その際レイナたちに伝えるべき情報以外全ての記憶も失っています。
これは2話のどこかで付け足すか、今後の展開で語ろうと思っています。
取り敢えず私自身もなかなか難しいものになっていますが、しっかりとまとめてこの作品をより面白くしていきたいと思ってます。
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