第2話 消え去った運命
「この想区について、お話しします」
全てが無のこの想区で、現れた一つの光に誘われたまま調律をしたレイナたち。
すると無から有が生まれ、元の姿を取り戻したかのように見えた。
すると一つの光は少女の形となり、エクスたちの目の前へ現れた。
「…この想区について聞きたいけれど、まずは貴方が何者なのか、そして空白の書になぜ文字を刻むことができたのか。それを聞きましょうか?」
レイナは今現在、最も疑問に思ったことを尋ねる。
「…詳しいことは私にもよくわかりません。
ただ、別の場所から貴方たちの姿を見ることができたということ、そして運命の書に文字を刻んだり、消したりできること。それが私の不思議な力なのです」
自分にも突然目覚めたものだから、未だよくはわかっていないと少女は言う。
「…それで貴女は調律という言葉を知っていたのね。それで貴女は何者なの?」
「…私の名前は、現在は失われています。なので『ノーネーム』とお呼びください」
自らを『名前なし』と名乗る少女。
何故、彼女は名前を失っているのだろうか?
エクスはそれを聞くと、ノーネームはその質問に的確に答えた。
「それは、カオステラーによるものです。
私の名前も含めて説明します」
するとノーネームは、この想区について説明し始めた。
…この想区に強大なカオステラーが現れた。
カオステラーは日に日にその力を増していき、ついにこの想区のあらゆる全ての運命を剥ぎ取り、あらゆる全てを無に還して姿を消してしまったという。
全ての運命を剥ぎ取る時、奇跡的に少しだけ運命の書が残されたノーネームは、その少しに刻まれた自らの名前を消してまで、この想区について書き留めておいたと語った。
そして調律の巫女たちがやってくるのを待ち続けていたと…。
「貴女は…そこまでして…」
「自分の名前も、運命も失うことは確かに怖かったです。でも、私はこの想区の住民。
この不思議な力はこの想区を守るためにあるんだと、そう確信しました」
そこまで聞いて、人情に厚いあの人物が黙っているはずがなかった。
「よし、俺たちタオファミリーがカオステラーを1発ぶっ飛ばしてくるか!」
「その意見には賛同だけどいい加減ファミリーはやめなさい!」
人情に厚いタオはその言葉を聞いてやる気に満ち溢れていた。
タオファミリーとは一行の中でリーダー格と思っているタオが名付けたもの。
よく誰がリーダーかで言い争いがちなレイナには不評で、時折共闘するエイダという騎士にもファミリーに入るつもりはないと言われたりなど、基本的にあまり受け入れられていない。
◆
「それで、これから私たちは何をしたらいいの?」
「先ほどレイナさんがしてくれた調律…これはあくまでこの辺り一帯のみを修復できたにすぎません」
ノーネームが言うには、あまりにも強大な力を手にしてしまったカオステラーは全ての運命を剥ぎ取り姿を消した後、この想区を幾つかのグループに分けてヴィランというカオステラーの僕といえる存在に統治させているという。
その中でもここは一番ヴィランが少なく、すぐに調律が開始できるものだったのでノーネームはレイナ達をここに誘ったらしい。
「なるほど、シェイン達がやるべきことは、そのグループに分けられた一つ一つの場所で調律を行い、この想区全体を元に戻す、ということなんですね」
少々ややこしい説明だったようにも思えたが、シェインはそれをすぐに理解した。
「うし、それじゃあタオファミリー、出発だ!とりあえず無の場所に向かってヴィランを探してみようぜ!」
意気揚々と出発しようとしたタオだったが、突如、空が暗くなる。
「今度はなんだ!?」
「タオさん!あれはカオステラーです!!」
空を見上げるとあまりにも巨大な魔人が宙を浮かんで、エクス達を見下していた。
『お前は……まさか消し損ねた存在がいたとは、な…』
ノーネームに向かって話しているようだった。
「貴方の好き勝手にはさせない、ということです。貴方はもう終わりです」
調律の巫女さえいれば。その希望を胸に、ノーネームはカオステラーに向かって言い張った。
しかしカオステラーはそれを嘲笑った。
『それはどうかな…?
今、オレはあらゆる想区へ力を及ぼすほどにまで力を高めた…それほどまでに力を強めたオレにお前たちが敵うとでも?』
今、カオステラーは何と言ったか。
あらゆる想区へ力を及ぼす?
それはつまり…。
「…このカオステラーを何とかしないと、全ての想区が危険だ!」
エクスたちは導きの栞を自らの空白の書に挟み、姿を変える。
彼らはヒーローの魂が刻まれた導きの栞を空白の書に挟むことで、そのヒーローに姿を変えることができる。
彼らは今までそうして、ヴィランやカオステラーと立ち向かっていった。
…が。
今回ばかりはそう上手くいかず。
4人は飛翔し上空に浮かぶカオステラーに攻撃を加えようとするも、一切効かず、カオステラーの一撃によって、全員が倒されてしまう。
「そ、そんな…これまで戦ってきたカオステラーとまるで格が違う…!?」
これまでエクス達を苦しめてきた強大な力を持つカオステラー。
だが今回はそのカオステラーの中でも常軌を逸した力を持っていたのだ。
『フフフフフ、ハハハハ!!
何でもできる、何もかも思い通りだ!!』
カオステラーは際限なく辺りに攻撃を加える。
せっかく調律の力により、元に戻ったこの辺りの大地がいとも簡単に崩されていく。
この想区を守るために名前すらも失ったノーネームが黙っているわけにはいかなかった。
「や、やめなさい!私はこの想区を守るためにここにいます!!」
『お前如きに何ができるという?
調律の巫女とやらも結局この程度…。
そろそろ、あらゆる全ての想区を混沌に飲み込むべきか…』
そう言ってカオステラーは二つの手から巨大な闇の球体を生み出す。
そしてそれを掲げて…。
『全ての想区よ!!オレの力に飲まれるがいい!!』
全ての想区が飲み込まれ始める。
そこに傷つきながらも立ち上がる少年が、1人。
…エクスだった。
「やめろ…!やめるんだ…!!」
エクスはボロボロになりながらも、背中に背負った太刀を振り抜き、駆けていく。
「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
その時、何処からともなく、声が聞こえた。
「…大丈夫…」
直後。ノーネームの小さな運命の書が強い光を放ち出す。
『何…だぁぁぁ…!これは…!!』
カオステラーがその眩い光に、手を緩める。
運命の書は更に大きな光を放ち、やがて全てを包み込んだ。
◆
「う、うん…か、カオステラーは…?」
エクスは目覚めると、辺りを見渡してカオステラーを探し出した。
暗くて辺りがあまり見えない。
カオステラーだけじゃない。
タオは?シェインは?ノーネームは?
…レイナは…?
「…あの後、一体どうなったんだろう?」
ノーネームの運命の書から放たれたあの光…。
あれは一体…。
そう考えていると。
「…うわ!」
「おっと!」
…何かにぶつかった。
アレ。この声、何処かで聞いた気が…。
「いてて…誰か知らないけど、よく見ておくれよ…ボクも何が起きてるのかわからなくて少し焦ってるんだから…」
少し目が慣れてきたのか、ぶつかった相手の姿が見えてくる。
紫色のくるっとした毛先が印象的な髪の毛、全体的に縞模様を彷彿とさせるような衣装。
そして特徴的なのが猫のような耳と、尻尾。
この子は…。
「…チェシャ猫!?」
後書き
後書きって何処に書くの?というのはさておき。
勢いに任せて2話目まで書いてしまいました。
Twitterで出して欲しいキャラの募集取ってたりします、チェシャとジャンヌが来てくれました。別の想区のキャラを出すのどうしようかなと考えたところ、このような感じになりました。
最初書きまとめてた時は、グリムノーツっぽくヴィラン倒して元に戻して行って、最後にカオステラーを倒して終わり。みたいな感じだったのですが、何か書いてたらこうなりました。
最早作者がカオステラーですね。
このような早い期間にチェシャを出したのにも訳があります。
これからはマイペースにゆったりと更新していくことになりそうなので、見かけたら読んでくれると嬉しいです。
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