絆の想区-グリムノーツ-

黒空-kurosora-

第1話 空白の書に刻まれたもの

絆の想区-グリムノーツ-


空白の書に運命が記されたなんて、誰が思っただろうか。

でも、確かに。刻まれていたんだ。

僕らのすべきことが…。


誰もが運命を刻まれているはずの『運命の書』に一切の運命が刻まれていない、『空白の書 』を持つ者達…。

エクス達はカオステラーという存在によって改変されてしまった物語達を調律する旅を続けていた。

そんな中、彼らはある想区に辿り着く。

「ちょっと…ここどうなってるの?」

物語を調律する力を持つ、『調律の巫女』レイナはその『ある想区』の異質さに気づき、言葉を失う。

そこは何もない、ただひたすらに無が続く想区だった。

こんなこと、今まで一度もなかった。

シンデレラの想区、アラジンの想区、不思議の国の想区…。

どの想区にも必ず、その想区の主役テーマとなっている世界が形成されているはずだった。

なのに、ここは違った。

何もない、無の想区…。

そう、名付けるのが一番適していた。

「姉御、何か気づきますか?」

レイナ達と共に旅をする、空白の書を持つ少女、シェインはレイナの『カオステラーの気配を察知する能力』に頼り、何か気づくことはないかと尋ねた。

「いいえ、何もないわよ。

本当に何もない…。これはどうなっているの?」

「そんなことよりお嬢、空白の書が…」

シェインの兄貴分であり、共に旅をする青年、タオは自分たちが持つ空白の書に異変があることを察知した。

「光ってる…。レイナ、僕が旅に同行するまでにこういうことってなかったの?」

メンバーの中でも最も新参のエクスは過去にこのようなことはなかったのか聞くものの。

「あるわけないわよ!こんなの…。

ちょっと開いてみるわ…」

するとレイナは目を疑った。

空白の書には何も書いていないはずだった。

それなのに…。


書いてあったのだ。

運命を、取り戻して欲しいと。


「そんな、空白の書になんでこんな文が…?」

「坊主の空白の書にも書いてあるんだよな?」

エクスはタオに話題を振られ、自分の空白の書を確認する。

「うん。確かに書いてあるよ。

この想区が特に変わっていることも、わかった」

とはいえどうすれば良いのか。

見渡す限りの無は彼らの目的すらも無にしてしまいかねないほどのものであった。

そこに、一つの光が現れる。

「新入りさん、新入りさん、何やら不思議な光が漂っていますよ」

真っ先にこのことに気づいたシェインはエクスに声をかける。

「…何だか僕らを誘導したがってる気がする」

エクスがそう言うと、光はある方向へと飛んでいった。

「あの光が唯一の頼りだ、レイナ、みんな、行ってみよう!」

彼女たちは賛同し、光を追いかけていった。



光はある所で止まり、彼らの足を止める。

「ここなのかな…」

するとまた、4人の空白の書が光り出す。

彼らは空白の書を開くと、また新たな文章が。


「私たちを、助けて…」


助けて欲しいという文章が一文、添えられていた。

「助けて欲しいって…私たちはどうすれば良いの?」

レイナが呟くと、さらに文が追加され。


「この想区は、カオステラーによって全ての運命、事象が剥ぎ取られてしまった。

そしてその結果、このような無の想区へと成り果ててしまった。

これを救うには調律が必要なんだって」


「調律を知っている…?

あなたは何者なの…?」

半信半疑のまま、レイナは調律を試みることにした。このままでは何も変わらないと思ったからだ。


「…混沌の、渦に飲まれし語り部よ…!」


調律…。本来ならカオステラーによって運命が変えられてしまった想区を元に戻す力。

その力がこの想区にどんな効果をもたらすのか…。

調律を続けると、レイナを中心に少しずつ、無から有へと、事象が、運命が変えられていった。

「これは…!」

エクスたちはその光景に声を呑む。


調律を終えるとそこには広大な草原が目の前に広がっていた。

「調律がこの想区を元に戻したというの…?」

レイナは今までありえなかった光景を目にし、驚愕している。

「それより、レイナ。さっきの光があった方、見て!」

エクスが言った先には光ではなく、1人の少女がいた。

その少女は正に美少女と呼べる存在で、綺麗に整った長い髪、清楚さを醸し出すような白い衣に身を包み、優しい物腰で佇んでいた。

「…ありがとうございます。これで、一先ずこの場所は救われました」

エクスは謎の少女に気になっていたことを問う。

「さっきの光も、この空白の書に記された文も、君がやったことなの?」

「はい。私には少し変わった力がありまして。

そのことも含めて。


この想区について、お話しします」

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