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いやーもうなんなんでしょうね?
今日は休みだったじゃん!
御前会議?知らねーよ!私は官僚になった覚えも、大臣サマになった覚えも、ましてや休日返上させられて会議に出席しなきゃなんないよーな身分になった覚えも一切ないね!
あーあーせっかく今日はいい気分で起きられたのに。ジョシュアがドラゴンひっさげて、いつものように私のベッドに潜り込んできたのは昨日の、あ、今日か、はどうでもいいとして、今日の夜中のこと。起きたらまだスヤスヤと眠る一人と一匹。
はぁ。なんて名前の天国ですか。永住したい。
「陛下!もうこれ以上の巫女姫の所業を見過ごすことは許されません!」
「元の世界に戻せないのであれば、それ相応の処置を取るべきです!」
ピーチクパーチクと大臣達が国王サマに訴えている。
……帰っていいですか?
「サーヤ様からもなんとか…」
「大体それですよそれ」
生憎とこの場にあの二人の魔王サマはおいでではない。ユアンは国民向けのミサに出ており、シーヴァは来たる隣国との対抗試合の最終確認に根を詰めている。となればここは好き勝手が許される場だと思う。言論の自由があるってやっぱり素晴らしい!
「なんか見過ごすとか他人にばっかり任せるからあの子もトチ狂ったんじゃないんですか?そしてあのタヌキ爺にまんまと担ぎ上げられた」
タヌキ爺ことミルドレッド公爵はゆりあの後見役として色々なところに幅をきかせた。幅をきかせ過ぎた。その結果、罪は暴かれ、裁かれることになったのは周知の事実。
「……ま、本人にも問題点は大有りなんでしょうけどね」
未だにここを乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと信じてる。その姿はなんというか…ここまでくるともはや賞賛に値するんじゃないかと思ったり思わなかったり。
「では一体どうしろと!?」
「今から叩き直す。それしかないでしょう?」
「叩き直す…といっても」
「行儀見習いとして神殿から出し、シルベスティーユ伯爵家に」
「シルベスティーユ家…。それはまた」
「うぅむ」
大臣達が言葉を濁すのも無理はない。あの家の夫人もゆりあと同じようにクセがある。いわく、この世の全てが自分を中心に回っている、らしい。
直接会ったことはないからなんとも言えないけど、社交界では随分と有名な話のようだ。こんな二人が反発し合わないわけがない。
夫人は鼻っ柱を折られつつ、ゆりあはある程度の儀礼は身につけられる。まさに一石二鳥。
「ですが、本来巫女姫の教育係はサーヤ様が…なんでもないです」
どこから知ったか知らないけど、私とユアン、シーヴァとシンしか知らないはずの役目を知っていた貴族がいた。けど目線で黙らせた。いやぁ目って口ほどに物を言うって本当だよねぇ。
「シルベスティーユ伯爵家への打診は陛下から行ってくださいね。よもやできないなんてことはないでしょうし?」
できないなんて言わせないよ?
「わ、分かった。そのようにはからおう」
「ご協力感謝します」
はぁー、これで終わったかい?会議は疲れるんだよ。
できれば二度と参加したくない。しかも今回は運良く魔王サマ不在の回だったけど、これで二人が同席していたら…考えただけで恐ろしや。きっとあれもこれもと押し付けてくるに違いない。つくづく私を便利屋かなにかと勘違いしてるんじゃーなかろうか。あ、パシリか。
「では、私はこれで。騎士団達の稽古相手をしなければなりませんので」
「あ、あぁ」
私は私と私の周りの平穏を護るのに忙しいんだ。色々面倒なことは他所でやってほしい。
廊下に出ると外で待機しているはずの衛兵が床に倒れ伏し、側には壁にもたれかかるようにして死の番人が立っていた。
うん、大丈夫。気を失っているだけだ。じきに目を覚ますだろう。
「どうやって出てこれた…と聞くのは愚問だな」
「そうでもないよー?結構頑張ったんだからね。君、術式複雑にしすぎ。危うく出られないところだったよー」
「出られないようにしたつもりだったんだけどね」
甘かった。神殿の地下にある牢に繋いどいたんだけど、私もユアンもいない隙を狙って出てきおった。あー、またユアン達に何言われるか分かったもんじゃない。
「大人しく牢に戻れと言っても聴く気はあるか?」
「うーん。ないね」
清々しいまでの笑顔。誰か鈍器を貸してくれ。
綺麗な赤い花模様をつけて返すから。
「あっと、忘れるところだった。これ」
「…なんだ、これは」
「君のことがバレちゃってー。自分にも料理を作って欲しいってワガママ言うんだよ」
はい?バレちゃって?誰に?
しかもワガママは自分にブーメランだろうが。胸に手を当ててよく考えろ。
「せっかくだし、半年後に魔王様の生誕祭があるからそこでってことになったから。そこで、これ。招待状」
「いらんわ」
なんで魔王サマ倒そうとしてる奴を自ら招こうとしてんのさ。バカなの?バカなんだね?バカなのか。
ジョシュアや、意外と頭脳戦だけに絞れば今のお前でもいけるかもしれません。
「じゃあ渡したから。まったねー」
「またがあってたまるか」
本当なら捕まえなきゃいけないんだろうけど、今は目撃者はいない。面倒なことしてもう一回捕まえ直すのも疲れるんだよ。
それにしてもこの王宮では魔術は使えないとか前にシンが言ってたような。どこが?フツーに使えてますが?
こりゃあ魔術師達の怠慢ですね。騎士団の後は魔術師達で憂さ晴ら…ゲホン。教育的指導をしましょうか。
「サーヤ、その招待状どうするつもり?」
「こんなもの持ってたらどこで魔王サマ方にバレるか分からん。燃やすに決まってる」
シンが姿を現し、招待状をジトッと睨みつけた。
もちろん魔王サマ方は某お二人だ。むしろ本物の方が偽物じゃああるまいか。そんな錯覚が神殿や官僚達の心中にあるからまともに魔王退治なんて考えないんじゃ。…ありえそうだから怖くて聞けない。
「ジョシュアは?」
「起きて庭で剣の稽古をしてる」
「相手は?」
「リヒャルトがしてくれてる」
「ならいいや」
ミハエル辺りだったら速攻で帰って変態を家から叩き出している。純粋で清らかなジョシュアに妙なこと教えられちゃたまったもんじゃない。
「はー。面倒なことが山積みだわ」
「なに一つ解決してないのはサーヤのサボり…なんでもないですよ、うん」
言いたいことがあるなら最後まで言えばいいのに。言い終わった後の五体満足の保証はしないけど。ニコッ。
「さぁて、今度こそ本当に帰りますか」
家への転移魔術を展開し、次の瞬間には我が家のリビング。私が帰ってきたのに気づいて家の中に駆け込んでくるジョシュア。その後ろからはドラゴンとリヒャルト。
「お帰りなさい!」
「ただいま。いい子にしていたか?」
「うん!」
「リヒャルト、貸しイチな?」
「……はい」
今日の御前会議の出席はリヒャルトが持ち込んできた仕事だった。なんでもユアンが出かけ際に捕獲して連れて行くように言ったとか。捕獲って私は家畜か!
別に一緒に行かなくても一人でもいけるし、行かなかった時のことを考えると欠席は許されない状況でリヒャルトの出番はなかった。ならば有効活用。ジョシュアが起きてくるまで待ってもらって稽古をつけてくれと言ったら即快諾。本当にできた奴だよ、リヒャルトは。
しかし、それはそれ、これはこれ。しっかりと休日の至福の時間の邪魔をしたツケは払ってもらおう。
「んー。やっぱり我が家が一番だなぁ」
ジョシュアを抱きしめながらの一言。ジョシュアはニコニコと満面の笑みを浮かべている。
やっぱりココが一番だと思います。それを邪魔する奴らには…どうしてやりましょうかね。フフフ。
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