14


□■□■



 なんかね、あれなんだよ。最近私のキャラ崩壊っぷりが半端ない。


 なーのーでー。

 今日はしっかりお仕事しようと思う。


「いいか?私は平穏に過ごしたい。OK?」

『お、OK』

「つまりだね、何が言いたいかって言うと」


 そこで一回言葉を切り


「死んでも勝て」


 笑顔でお願いをしてみました。


 おい、コラ、そこ。何がヒイッなんだ?

 返事ははいまたはOK、もしくはもちろんですは尚良し。


 冗談じゃない。由貴のヤツ、私が隣国で勇者育てながら王宮やら神殿やらでこき使われてると知った途端発狂しやがった。

 おかげで王宮内全ての人間(由貴と私以外)に疫病神扱いされました。オネーサンはすごく悲しくてたまりません。まる。


 即刻兵を率いて攻め込むとまで言いだした由貴を止めるにはなかなか骨が折れたよ。あはは、笑えないよ?戦争の開戦理由が自国にいる勇者の育て親の失言だなんて。まじで色んな意味で笑えない。これがバレたら先日の処刑よりも悲惨なことになるのは目に見えてる。


 だから私は彼らに絶対に勝ってもらわなければいけない。

 誰だって我が身は可愛い。自分を犠牲に誰かを助けるなんて犠牲はただの自己満足。自分が助かるついでに誰かも助かる。それくらいが丁度いい。この世の中はギブアンドテイクだ。


 だからこそ、彼ら騎士団には目の前に餌をぶら下げた。


「神様に一つだけ願いを叶えてもらえる券、これを勝った暁には進呈しよう」

「……………それもいいですけど、シーヴァ様やユアン様から助けてくれる券…」

「それ以上言ったらもぐ」

「なにを!?」


 ふざけるな。そんなもんあるなら私が参加するわ。


 というより、神様よりシーヴァとユアン。

 ………………ま、当然だな。遠い願望より近くの恐怖。


「まぁ、今回の件では多少責任を感じないこともない。だから君達の鍛錬に付き合おうと思う」

「やけに精がでてるね」


 ………………なんだ。お前らそんなに顔を青ざめさせるな。


「多少、ねぇ」


 あ、あれ?なんか汗が。あっれー?おかしいなー?

 幻聴が聞こえ…


「…ぎぃやぁぁあぁぁ!!」


 ミシッてる!頭蓋骨ミシッてる!!

 今日こそホントに破壊される!!!

 た、助けて!!

 おい!なに後ずさりしてる!!





 はーい。稽古を再開するよー?


「……………」

「せ、先輩」

「何も言うな。何も見るな。何も聞くな」


 頭に氷を当てながら再開させたもんだから、騎士達がひそひそ声で話している。そこ、罰として今度の勤務スケジュールは宰相の執務室前な。

 決して八つ当たりなんかじゃないと言っておこう。


「とりあえず、だ。出場メンバーは五人。この中で神殿騎士を二人いれることになっている。正直な話、騎士団の団員は皆鍛錬が足りない。団長のミハエルがサボっているのが主な要因だろ、うん」

「ちょっと酷くないか?僕はちゃんとご婦人を護衛するっていう大事な役目を」

「まごうことなき暇人だな」


 ミハエルの言葉を遮ったのはジョシュアを抱えたリヒャルトと、あと一人。見覚えがあるようなないような、そんな影の薄い男がまさしく影のようにリヒャルトの背後に立っている。


 リヒャルトが促すとジョシュアが降り、とことこと私の元へ駆け寄ってくる。

 マジ天使。


「サーヤ」

「ん?どうした?」

「んーん」


 ニコッと笑うジョシュア。もう一度言う。マジ天使。

 この子の可愛さは世界一。元の世界では子を持つ親の‘自分の子が一番’ってものに鼻で笑ってた感はあった。でも今では分かる。うちの子一番可愛い。まぁ本当の子じゃないけどさ。


「………違うよなぁ」


 思わず騎士の一人がそう呟いてしまうくらいには私の相好は崩れていた。違っていて当たり前だろうともさ。そこは開き直りの精神でいかせてもらおう。だって大の大人と可愛い可愛い子供だもの。見た目からして態度が変わるのは仕方なかろうて。


「鍛錬のお邪魔をして申し訳ありません」

「いんや?丁度良かった。リヒャルト、とそこの君」

「ぼ、僕ですか?」

「いや、他に誰がいる」

「え、あ、そうですよね」


 影の薄い彼に声をかけるとビクッとして私と目を合わせてきた。


 そうビクビクされると…いじめたくなる、と言いたいけど、ここでそんなことすれば私が虐められ倒す。主に後ろの魔王様に。

 言葉を発さずともいる。ヤツはいる。存在を忘れて愚行に出るなんぞすれば、すぐさま魔王様は持てる全てを使って猛撃してくるに違いない。いや、する。

 そんな見えきった未来を回避するために私は出かけた言葉を飲み込んだ。


「えーっと名前は…」

「エンリケと言います。よ、よろしくお願いします」

「そう、エンリケさんだ」

「あの、僕なんかで良かったんですか?僕なんかより他にもいっぱい強い人が」

「のんのんのん。君以上に適任者はいないよ」


 そう言いながらも背に隠した片手で火の玉準備。これくらいなら無詠唱でできちゃうから便利なんだよねー。


「だって…ほら!」

「うわっ!」


 エンリケが腰に巻いている剣帯から剣を抜きつつ、次々と私が繰り出す火の玉から逃れるように後ろに飛びすさった。


「なっにしやがるっ!!」


 肩をいからせながら怒り叫ぶ姿に先程までのおどおどしたエンリケの姿はない。

 性格がガラリと変わったエンリケに目を見開いたのは私とリヒャルト、ユアンを除いたこの場にいる全員。あ、あとミハエルも。


「あ、ごめん。手が滑った」

「お前は手が滑ったら術を発動させれんのか!?とんだ手癖の悪さだなぁ、おい!」

「あら、褒めてくれてありがとう」

「褒めてねぇ。これっぽっちも褒めてねぇ、よっ!」


 エンリケの豹変は剣を持った時に発動する。普段の彼からは想像できないような剣術の腕を見せ、他を圧倒する。神殿騎士の長であるリヒャルトには及ばないけれど、それでも二番手をはるだけある。


「……でも、私に勝とうなんて百万年早いよ」


 そりゃあね?シンに魔王並みの魔力もらってますから?


 火の玉だけじゃなく、重力も倍かけたらやっぱりきついらしい。膝を折る人が続出した。もちろんジョシュアとユアンはシンに守らせ済み。


「さぁ、稽古をしようじゃないの」


 ひとまずはこの重圧に耐えれるようになってもらいましょう。えぇ、今日中に。



 日が落ち、宿舎に帰ってこないリヒャルトとエンリケを心配した同僚の神殿騎士達が目撃したのは死屍累々の山を足蹴にして微笑む悪魔だったという。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る