12



□■□■



 あー、おっほん。


「本日も晴天なりー」


 家の庭の木と木の間につい先日届いたばかりのハンモックを吊るしてみた。これがまたマジ気持ちいい。

 ぶらんぶらんと揺られ、たまに吹くそよ風が体に当たっていく。

 のどかだ。実にのどかだ。


 本日ジョシュアは神殿騎士達と野外訓練に出てお留守。シンもついていかせてるし、私はのんびりと休日気分を味わっているというわけだ。


 ジョシュアが心配過ぎて胃が口から出そうだった私はもういない。…ふっ。本人ジョシュアに構いすぎだって嫌われたら元も子もないでしょっと某神官長サマに脅さ…諭されたからね。内心グルングルンだけど。


 ……ふぅ。ここは優雅に雑誌でも見るとしますかな?

 元の世界だったらわざわざ取りに行かなきゃいけなかったけど、ここは便利な魔法が使える世界。パチンと指を鳴らすだけで、あら不思議。家の中にあった雑誌が手の中に。…なんか物悲しくなってきたな。


 ……あ、これ行こうかなって思ってた温泉だ。


 雑誌には今評判の隣国にある温泉宿が載っていた。なんでも効能がありとあらゆる万病、ストレスに効く…とかなんとか。万病はどうだか知らないけど、ストレスには確かに効きそうだよねぇ?

 ほら、例えばどうしようもない男と女の相手をしていたとかさ?他にも年中無休並みの労働を強いる悪魔じゃなくて魔王ばりの二人組みとかさ?人の迷惑考えずに自分の欲求押し付けるどっかの悪魔とかさ?

 この温泉の効能、私のために付け足したんじゃねってくらい心当たりがありすぎる。


 せっかく一人だし、パパッと行ってジョシュアが帰ってくる前に帰ってくれば問題ないよね?うし。行こう。







 わっかんない。なんで私が国同士のいざこざに巻き込まれてるのかホント理解不能です。あれか。ちょっとどこかへ旅行してみようかなって気になったのがいけなかったのか。


「ねぇ、この鎖ってどれくらいで切れるの?」

「どんな魔術師でも切れやしねぇよ!いいからとっとと歩け!!」

「歩いてるじゃん。ていうかこの鎖、錆びついてて臭いんだよ。ちゃんと磨いとけよ」

「うるっせぇなぁ!黙ってろ!!!」


 どっちがうるさいんだよ。お前だろ。


 ………はぁ。公爵の時の牢屋に宿泊体験といい、今回の捕虜扱いといい。私はなんだ?罪人になるスキルでもついてんじゃないか?


 隣国の温泉宿が数多くある町に滞在中、宿で寛いでいる所に押し入ってきた兵士達。いやぁ~これで入ってきたのが女性兵士とかだったらまだ穏便にいってたかもしれない。いかなかったかもしれない。まぁ要するに突然入ってきた不審者に遅れをとるような私ではないってことですな。

 文字通り水攻めにしてやりました。本当なら火攻めもあったんだけどここ宿だしね?水で我慢してみました。


 そんなこんなで当初の捕縛理由に妨害行為も付け加えられてなんか理不尽な気分を味わってます。ちなみに捕まったのはついさっき。この偉っそうなおっさんが涙ちょちょぎれにして

「俺には養わなくちゃなんねぇ家族が…」

 とか言っちゃってくれたから。それならまぁ仕方ないよね?私もジョシュアを養ってる身ですから?同情もするでしょう。えぇ、それくらいの人情は持ち合わせておりますよ?なにか?


「ねぇ、おっさん」

「おっさんじゃない!まだ二十後半だ!!」

「あーはいはい。おっさん、質問」

「おっさん違うと言ってるだろうが!」

「なんの罪で私に縄かけてんの?」

「こいつスルーしやがって…。そんなの知らん。俺が知らされるような事じゃないからな」

「けっ。下っ端め」

「いちいち人の事蹴散らすなこのヤロー!!」


 いちいち怒鳴り散らかすなこのヤロー。おかげで鼓膜がピリピリだわ。


「ねぇ、そんなことはどうでもいいんだけどさ?」

「どうでもよくねー」

「どこに連れていくつもり?」

「スルーしやがった!…ちっ。王宮だよ」


 王宮とな。なんか面倒臭そうな臭いがプンプンするなぁ。

 ここで隣国と揉め事起こしたとあのお二人に知られたら……あれ?これもしかして死亡フラグじゃね?この国で拷問される方がよっぽどマシなんじゃね?


 ……か、帰るの、よそうかなぁ。


 そんな私の葛藤とは裏腹に足は本能に忠実だった。ルンタッタもかくやと言わんばかりのペースで足は進んでいた。

 目は口ほどに物を言うと言うけど、私の場合足もそうであったらしい。


「なに黙り込んでんだ?着いたぞ」

「…おぅ」


 …………こうなりゃヤケだ!あの二人に比べりゃ何とでも闘える!!

 お二人のお母さーん!育て方間違っておられますよー!!!


 こうして私は自分の身の安全の確保のために大人しく王宮への入場を果たした。

 私のそれまでの抵抗を側で見ていた男がかなり不審がっていたけど、私はそれどころじゃなかった。


 マイボディー イズ ベリーベリー 大事



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る