早かったね。

あれは仲の良い仕事仲間とごはんを食べ、駐車場で別れた後の事でございました。深夜12時近かったかもしれません。

愛車のエンジンをかけ暖気しつつメールチェックをしておりますと、突然助手席のドアが開き、見知らぬ男が顔を出しました。

!!!!!!

非常事態でございます!

他人が私の車のドアを勝手に、何の断りもなく開けたのでございます。咄嗟に手を伸ばし、ドアに手をかけましたが、時すでに遅し…。


「早かったね〜。」


暗闇から顔を出し、男は言いました。


「乗ってもいい?」


「は??」


驚きのあまり、そんな言葉しか出ないのでございました。


「え?こっちの車にする?」


意味がわかりません。


「は????」


誰でございますか?


「またまたぁ」


「どなたですか?」


「え?違うの?」


「何がです?」


「あ、いや、本当に違うの?」


「ですから、何なんですか?」


「大丈夫だって、俺、俺」


大丈夫と言う方ほど信用ならない事をてのは存じ上げております。父ヒロシ(仮名)も大丈夫が口癖でございますが、大丈夫だった試しがございません。

さて、私は今、どのような状況に置かれ、どなたと勘違いされているのでございましょうか?

暗くてよく見えませんが、品のない顔にお洒落には程遠い服装の50前後と思われるおじさん。だらしのない眉毛に、イヤラしく垂れた細い目、貧相な小汚い頬、しかも歯が一本見当たりません。

想像いたしますに、今日初めて会う女性とここで、この時間に待ち合わせをしたのでしょう。そして、たまたまその時間に居合わせた私をその女性と思ったのでございましょう。大きな勘違いでございます。非常に腹の立つ勘違いでございます。私にも『好み』というものがございます!私の理想の殿方…少々マニアックな条件は差し置き、ザックリ申し上げますと、紳士!!じぇんとるめん!!!階段でさりげなく手を差し伸べてくれ、知識と教養があり、いつも穏やかに微笑んでいるような方でございます!聡明で品のある方が好みです!あなた様は私の『好み』とは天地程の差がございます!そもそも会ったこともない他人の車のドアを不躾に開けるなど、言語道断、問答無用!その上、自信ありげに乗り込もうとするなどオツムの中身を何処ぞに落として来たに違いありません!そもそも、そもそも、私、顔も知らない人と会うような事は致しません!!

『キーーーーーッーーー!!』

3台ほど向こうに停まっている明らかに、やんちゃな方が乗ってる車に乗り込んでくださいまし。その方が刺激的な体験が出来ましてよ。


『お主の事など、微塵も知らぬわ!今すぐ失せろっ!』


怒りと軽蔑を込めた目線を差し上げますと、


「あ、違うんですね…すいません」


『だから違うっていってんだろーがぁぁ!あん?』


無言で更に眼力を強めました。その方はおずおずとドアを閉め、キョロキョロしながら闇の中に溶けて行きました。私は、ドアが閉まった瞬間にロックいたしました。ホッとしたところで、急に恐ろしさがこみ上げてまいりました。新喜劇のやすえ姐さんのように

「あ〜ん。怖かったぁ」

と言いたくなった私でございました。


さて、本当のお相手には会えたのでしょうかね?その態度でも受け入れてくれる方がいらっしゃるならそれはきっと運命のお相手です。大事になさいませ。

何故でしょう?この出来事は今思い出しても腹が立って参ります。


麗しくか弱き婦女子の皆様!車の中も安全ではございません。施錠を心掛けましょう!!

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