愛らしい人。〜美男編〜
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面影は 身をも離れず 山桜
心の限り とめて来しかど
夜の間の風も うしろめたくなむ
源氏物語より
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2度目のShowTimeを堪能し、壁際でオネェ様方の素晴らしさや感想を述べながらお酒を嗜んでおりますと、珠子嬢が
「ねぇ、見て、さっきからあそこの美男子が、英国紳士風な人に口説かれてるの」
「どこでございます??」
「あの柱の奥よ」
指さされた方向を見ますと、人混みの奥に背の高い異国の殿方と(金髪で、白鼠色のシャツに亜麻色のチョッキとスラックスと言う出で立ちで、後ろ姿だけでもうっとりしてしまうお姿)二十歳そこそこと思われる、栗色の髪に、大きな目の整ったお顔立ちの美男子が見えました。
「あら。まぁ」
「かわゆいでしょぉ」
「なんて可愛らしい」
英国紳士風殿方に見つめられ、下を向く美男子
壁際に追いやられ、今風に言うと壁ドンされる美男子
そこからの、顎クイされる美男子
暫し見つめ合い、目線を外す美男子
英国紳士風殿方の手の甲が美男子の頬を撫であげ、顔を寄せては耳元で何かを囁く
恥じらうように、再び目を伏せる美男子
英国紳士風殿方の右手が美男子の左手を掴む
ふいに横を向き頬を染める美男子
「女の子みたいね」
「むしろ、女の子よりも女の子らしいですわ。BL好き腐女子が泣いて喜びそうな構図でございます」
「我々よりも、数段上よね、、、」
「はい。勝てる気がいたしません。櫻子さん(美女編をお読みくださいまし)にも完敗ですし、私たちって、、、」
「イタイね、、」
「ええ。本当に」
ええ。本当に。心底そう思います。女らしさも振る舞いも全てにおいて、櫻子さんにも、美男子にも完敗しております。これは生まれながらに女であるという事に胡座をかいた結果でございましょうか?それとも根本がこのような気質であるが為でしょうか?珠子嬢も私も、実に素直に自由奔放に育ちすぎてしまったようでございます。
「何を囁かれてるのかしらん?」
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「ベイベー1人?」
「あ、い…え、友達と…」
「彼氏じゃなくて?」
「彼氏なんて…」
「フリーなの?僕とかどう?」
「あ、あの……、あっ…」
「僕は君のこと凄くタイプだなぁ〜」
「そ、そんな事を言わ…あっ…あのっ…」
「フリーなんでしょ?僕みたいなのは嫌?」
「…嫌とか…」
「ねぇ、僕の目を見て。そう、いい子だ…」
「……。」
と、珠子嬢と妄想小芝居を始めてしまうのでございました。実際、あの美男子がどの様な事を囁かれ、頬を赤らめているのかは存じあげませんが…。暫し、(いえ、かなり?)珠子嬢との小芝居を楽しみ視線を英国紳士風殿方と美男子に戻しますと、
「あら?お二人とも姿が見えませよ」
「あら??消えた!?」
「あらぁん」
「あらあら」
珠子嬢と目配せをし、お互いの妄想が同じである事を確信したのでございました。
少し外の空気を吸いたくなった頃でしたので、
「外に行きませんこと?」
「そうね。コンビニ行きたいし」
と、言うわけで手の甲に再入場の為のスタンプを押して頂き、会場の篭った空気から解放され、丑三つ時の静かな空気を思い切り吸い込んでから近くのコンビニに向かいました。おつまみと麦酒を買い込みに近くの河原に座り込み(櫻子さんや、美男子はなさらない事でしょうね)話しておりました。珠子嬢は本当にお喋りが好きで、寝る直前まで話しており(この様な方は珠子嬢以外まだお会いしておりません)話す事を辞めたら死ぬとまで仰っておりました。実際、そうなのかもしれません。毎日の様に一緒にいるのに、話は尽きないのでございました。
そうして、飽く事なく河原で話し込んでいた暁の頃、街灯と街のネオンに照らされながら先ほどの英国紳士風殿方が(実際に紳士かどうかは疑わしいですけれども)美男子の肩を抱きながらこちらに歩いて来るのを見つけたのでございます。
「珠子さん、ご覧なさいな、先ほどの…」
「きゃ!2人でどちらに??」
「絵になりますわねぇ」
「きゃぁ。なんか、もぉぉぉ」
「興奮なさらないで」
「だって、ほらぁぁ。きやぁぁ」
「あらぁぁ〜まぁぁ〜」
「てのさん、落ち着きなさい」
頭一つ分ほど違う身長差がなんともお似合いなお二人。
相変わらず、美男子の耳元で囁く英国紳士風殿方
その囁きに応えるように見つめ、微笑む美男子
頬に接吻し、愛おしく見つめる英国紳士風殿方
やはり恥じらうように目を伏せる美男子
先ほどよりも親密な雰囲気でございます。この小一時間ほどの間に何があったのでございましょうか?どちらに行かれてたのでございましょうか?推測するのは野暮でございますわね。
「ての、なんだかこっちが恥ずかしくなるわね」
「ええ、なんともこそばゆいですわ」
「うらやましい…」
「ええ。本当に…」
私たちの羨望の眼差しを気にもせず、お二人は会場に戻って行かれたようでございました。
「そろそろお開きも近い事ですし、戻りましょうか?珠子さん」
「そうねぇ。てのさん」
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宴のラストナンバー、DancingQueenが流れ、ミラーボールがフロアの隅々まで光を飛ばし、最後まで残った人々が歓声を上げる中、壁際にあの美男子を見つけたのでございます。
ミラーボールの光の粒に時折浮かび上がる、数時間前と同じ様に恥じらう美男子の隣にいたのは…ラガーマンの様なムキムキ殿方でした…。
「珠子さん、ご覧なさいな…」
「!!やるなぁ〜」
「あの恥じらい、計算かしらん??」
「あり得るわね。やるなぁ〜」
「だとしたら、相当な強者ですわね」
「あれ、女だったら、完全に女子を敵に回すタイプね」
「間違いありませわ。ですけれども、あの技、伝授していただきたいものです」
「確かに…。ちょっと待って、で、実際私があんな風にモジモジしてたらどう思う?」
「…………。」
「でしょ?その前に、あんな風に出来る自信ある??」
「全くございません…想像しただけでムズムズしてまいります」
「私たちは、これでよござんす」
「よござんす。よござんす」
「よ〜ござんすぅ♫」
一晩中騒いで、四谷怪談の様になっているだろう外見を気にも留めず、あけぼのの空の下、動き出した公共交通機関でうたた寝しながらお家に帰ったのでございました…。今、同じ事をしようものなら、盗撮され、SNS上で晒し者になっているやもしれません。
櫻子さんや、美男子の振る舞いを少しでも真似る努力をしていたならば、今とは違う人生だったやもしれませんが…致し方ございません。出来ないんですもの。
よござんす。
よござんす。
日々、楽しゅうございます。
ね?珠子さん?
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