愛らしい人。〜美女編〜
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めぐり逢いて 見しやそれとも 分ぬ間に
雲隠れにし 夜半の月かな
紫式部
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今では滅多にいただかない、ファストフードを主食とし、ぷりっぷりの身体を持て余していた20代前半、大好きな歌唄いを追いかけ西へ東へと夜通し移動し、明日の事は明日考えましょう!と寝る間を惜しみ趣味に遊びにと時間とお金を費やしておりました。(他に成すべき事が多々あったように思いますが、、、)その頃、常に行動を共にしておりました気の合う親友『珠子嬢』と共に垣間見た、純粋で深い、夜の出来事でございます。
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その頃、どう言った経緯だったかはすっかり忘れてしまいましたが、有り余る体力と好奇心の行き着いた先がdrag queenの宴でございました。今ではすっかり市民権を得たオネェ様方ではありますが、その当時はまだまだ日陰の存在だったように思います。しかしながら、その当時のオネェ様方の存在感と輝きは素晴らしいものがございました。
今では、伝説と呼ばれる程のオネェ様方のお姿を間近で拝見出来ましたこと、心より誇りに思っております。深雪様の凛と気高き異国の女王のような美しきお姿、麗しき流し目、今でも胸に焼き付いております。(わかる方…マニアでございますね…ちなみに今も現役でいらっしゃいます)
珠子嬢と私は今にして思えば、コスプレイヤーの先駆けだったやもしれません(言い過ぎかしらん?)同世代のお嬢さん方が恋や身繕いに費やす時間を惜しげもなく、裁縫に費やし、せっせと自分好みの衣装を縫い上げ、恥ずかしげもなくその衣装を着用し、公共交通機関を乗り継ぎ催しに参加する日々でございました。
その日は確か、ハロウィンと言う近頃流行りの行事の日だったように記憶しております。仮装して行くと入場料が幾らか割引になると聞けば、仮装をしないと言う選択肢などございましょうか?割引でなくても、頼まれていなくてもいたしますのに。私は、桃色の看護服に身を包み、目元を盛に盛りこれでもかと、赤い紅をひき、ムチムチの足には網タイツにピンヒールと言う…(椎名林檎様を目指しておりました…お恥ずかしい…)珠子嬢は白黒の横縞にたんまりとレースをあしらったゴスロリ風ドレス。『時計仕掛けのオレンジ』風のお化粧で、実に可愛らしく仕上げておりました。そんな私たちは相変わらずのファストフード店でお腹を満たし、意気揚々と宴会場の鉄の扉を開けたのでございました。
入場料をお支払いして、荷物を預け、身軽になりますと
『さぁ!宴の始まりよ〜!!』
と会場へと足を踏み入れます。既に素敵な空間と、オネェ様方への期待でワクワクでございました。大音量で流れる音の波に揺られ、ミラーボールがキラキラと回り、光が飛び交うフロアーでお洒落な洋酒を嗜みながら、珠子嬢と顔を寄せ話したり笑ったり、それはそれは楽しい時間でございました。(後に知る事になるのですが、宴の主催が主催だけに、同性の二人組は純粋にアベックと思われていたようでございます。どうりで、殿方からのお誘いが無いわけでごさいます。あれ?その場にいる殿方が求めていらっしゃったのは殿方なのかしらん?そうでございますかしらん?オホホホホ)
戌の刻より始まった宴は夜半に向け徐々に人も集まり、オネエ様方のShowTimeの幕が開く頃には夜もすがら続く宴の盛り上がりも最高潮に達しておりました。舞台に立つオネェ様方の煌びやかな衣装、妖艶なお姿、艶やかな唇、瞬きの度に大きく動く付けまつ毛、気まぐれに描かれた色香ホクロ、どれほどの時間を費やし仕上げたのか分からないほどに施されたお化粧。完璧に再現されるFifth Elementのエイリアン歌手。ちあきなおみ様から聖子ちゃん、マライヤキャリーに極上の笑いを添えて。ここまでの完成度のものはなかなか拝見出来ないと思います。
このように素晴らしい1回目のShowTimeが終わり、それぞれ踊ったり、一度外へ出たり、飲食したりと人の動きが活発になっておりました。私もカウンターで洋酒のお代わりを貰い珠子嬢の元へ戻りますと、琥珀色の麦酒片手に(麦酒は彼女が愛してやまない飲み物です)奥にあるソファー席で見知らぬ美女と話し込んでおりました。
「ごきげんよう。てのと申します。」
軽くお辞儀をいたしますと
「ごきげんよう」
美女は艶やかに微笑み、仰いました。
「ての、この方、櫻子さん」
「初めまして。私、女に見えてる?」
「ええ。とてもお美しいです。違うんですか?」
「うふふ。男よ」
!!!その事は珠子嬢も初耳だった様子で
「ええええ!!見えない!綺麗だし、華奢だし!」
「女性にしか見えません!胸もちゃんと、、本物でございますよね?!違うのですか?私たちよりも女性らしいですよ!ねぇ?珠子さん?」
「うん。うちらより色気あるし」
仮装している私たちとは違い、水色のニットのセットアップに白いフレアースカートと清楚なアナウンサー風の佇まい、肩まである黒髪を耳にかけ、切れ長な目が印象的な美女でございます。
「胸はねぇ、200ccあるのよ」
「??200cc?」
「そう、こっちの世界ではカップ数じゃなくて、CCで言うの。触ってみる?優しくしてね〜」
「なんと、まぁ!良いのですか??」
珠子嬢と、私はそれぞれ手を伸ばし、そっとその胸に触れたのでございました。実に柔らかく、張りがあり、温かな、確かに『おっぱい』でございました。
「あん♡」
櫻子さんは悪戯っぽく私たちをからかい、クスクス笑うのでした。何故だかオトナの魅力にドキドキしたのでございます。
「本物ですわ…」
「やーらかい…」
「あなた400ccくらいよね〜もう少しあるかしら?」
「、、、400cc、、、と、言われましても…」
『また、日常生活で全く役に立たない知識を得てしまいましたわ。私の胸が推定400ccだとして、一体どこで発表することがありましょうか、、、下着売り場で、400ccサイズございますかしら?って言ってみれば良いのかしら、、通じるわけがございませんわよね、、』
などと、妄想に耽ろうとしておりますと、
「胸はね、業界で有名なお医者様のところで工事済みなんだけど、あ、本当はねもっと大きくしたいんだけど、初めてだから200ccしかダメだったのよ。皮膚が伸びてくれないんですって。ホルモン療法も考えたけど、すぐに大きくしたかったし。ゆくゆくは400ccに入れ替えたいわ〜。でねぇ、下がねぇ、まだ半分しか工事してないの」
業界?有名なお医者様?工事?初めて?200cc?次々出てくる疑問を投げかける間も無く話は続くのでございました。
「半分て??」
私同様、好奇心の権化珠子嬢の目がキランキランしております。
「半分??」
「あのね、日本では出来ないから、タイで工事したんだけどね」
「工事って!!」
ケラケラ笑う珠子嬢
「あら、皆んなそう言うんだもの。◯ちゃんは取ったんだけど、〇〇はそのままなのよね〜。こっちの工事はお高いのよ〜。」
『お美しいお顔で、またまたその様なお言葉を!!とにかく、お金をかけたお身体を自慢のなさりたいのだわ!過去にお会いした、ピンクさんとイエローさんもそうだったのですわ!そして、この底抜けに明るい性格、この見た目と口から出る言葉との隔たり、、』
「ええ〜」
珠子嬢が目をまん丸にして驚いております。
「そっちの工事はね、〇〇を××して〇〇してから、ひっくり返して、××するんだって〜」
美女の口から語られる、オネエ様方の秘め事
「いやぁぁ!それ以上言わないで〜!!!」
「あら、どうして?貴女達持ってないんだから、大丈夫じやない」
「持ってないけど、痛そうで聞いてられない〜」
「なんでよっ(笑)ちなみに、残ってる方は使用可能だから、それはそれで良いのかなぁ〜とか思っちゃうわけ〜。色々、アレじゃないのぉ〜ほらぁ〜。やぁねぇ。もう」
と何やら嬉しそうに笑いながら、私たちの肩を叩きながら笑う櫻子さんでした。何となく仰りたい事は察しましたけれども、、何となくですが…。
「ちなみに、お取りになったものは…?」
「あのねぇ、、(以下衝撃的内容の為自主規制致します)なの。」
「ひぇぇぇぇ!!!」
「すみません。聞いた私が間違っておりました…」
「あははは〜、そんな人結構いるよぉ〜」
『結構いるのですね、、○○が××に、、、なんて事でしょう、、って、事は××を〇〇するたびに、××に入った、〇〇が…??ひぇぇぇぇ!!!忘れましょう!これ以上想像するのはやめましょう。ダメダメダメぇ。そして何故こんな質問をしてしまったのでしょう、、てののお馬鹿さん、、』
想像力が豊かすぎる私は、脳内で様々な場面を想定していたため、しばし珠子嬢と雪子さんの会話が耳に入ってきていませんでした。はっと気づくと、お二人の会話は、異性愛と同性愛、心の性と体の性、職業としてのオネェ、女装家について、真面目に語り合っておりました。身も心も男性として男性が好きなのと、体は男性、心は女性として男性が好きなのとは違うけれど、生きづらさは変わらないと。櫻子さんの場合は心が女性なので、殿方を好きになるのが自然なのでございます。とは言え、皆さま、底抜けに明るく、楽しく、自由を謳歌してらっしゃるように見えますよ。
学校で講演会をしても良いほどに濃いお話でございました。実に教養が深まりました。
「ところで、貴女達は付き合ってるの?」
「は???」
「え???」
「え?違うの?」
「そんな風に見えておりますか?」
「ええ。とてもお似合いよ」
「んな訳あるかーいっっ!」
と珠子嬢と笑い飛ばし、2回目のShowTimeの始まりと共に櫻子さんとはお別れをいたしました。
人が人を好きになる事に良いも悪いもございませんよね。
今頃、櫻子さんのお胸は何ccになっているのかしらん、、さぞかしグラマラスにおなりのことでございましょう。
どうかお幸せでありますように。
それぞれの悩みや欲望を取り込みながら、宴はまだまだ続くのでございました。
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