宛先不明の手紙

『この手紙が読まれている時に、ウチはもう人間ではなくなっているでしょう。


 正直、獣還りについては今まで深く考えたことはありませんでした。

 皆が素晴らしいものだって言うし、それが当たり前の事だと思っていました。


 けど、一人だけそれとは違う意見を持っている人がいました。それは太一です。


 太一は大きな声では言わないけどずっと獣還りはおかしいと言い続けていて、ウチはなんでだろうとずっと思っていたのですが、自分がそうなりかけていると気付いてから、太一が言いたい事のほんの少しだけ理解できたのです。


 だってウチはまだ何にもできていない普通の高校生だったから、そうやって獣になって、誰からも忘れられて置いていかれるのが怖かったのです。


 ウチには好きな人がいました。

 ウチはその人にとってはなんてことない存在で、友達でした。

 でもウチはその人の事が好きだったのです。


 もうウチにはそんなに時間が残されていません。

 なんとなくそういうのがわかっちゃうんです。

 だから、ウチは最後にその人に好きだって告白しようと思います。


 それが上手く行ったらウチは幸せなままいなくなって、もしダメだったとしても相手には申し訳ないけど、タイミング的に覚えておいてもらえると思います。どっちにしても相手に迷惑をかけちゃうんだけど、人生最後のわがままだからそれぐらい許されるよね。


 告白の時間はお祭りの日、花火の後にしようと思います。ドラマチックだし、吊り橋効果ってのをこの前テレビで見たのできっと上手く行くでしょう。


 最後に、この手紙が読まれているという事はウチは告白前に獣還りしちゃったんだと思います。

 できれば読んでもらえるように頑張りたいけど、どこまでできるかわからないので、きっとこれを読んでくれているはずの人に向けて二つだけ言わせてください。


 好美に、抜け駆けしてごめんなさいって伝えておいてもらえませんか?

 それだけできっと伝わると思います。


 そして、


 太一へ、ずっとずっと好きでした。

 大好きでした。

                               千和小町より』

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