第36話来襲クエスト【ニューディライト】2

「……つまりだ。

 この作者の気持ちを読み解く上で重要になるのは、この文とこの文。

 この意味を理解したうえで、この問題文と照らし合わせた時

 問題の回答が見えてくるわけで………」


ホワイトボードに字を書きながら話をしているのはカイセンだ。

ホワイトボードには既に文字が長々と書き連ねてある。


「ここは特に重要なところだからちゃんとメモっとけよー。

 あと、こことここも………。

 ………………………………………………。

 ………………どこにいくんだ?タケ」


「………!!!」


カイセンは振り向くと、

こっそりと場を去ろうとしていた少年を軽く睨んだ。


「遊ぶのは、宿題が終わってからな?」


「っっ………」


少年は嫌々ながら、座っていた場所へと戻る。


それを見たカイセンは

またホワイトボードに文字を書きながら、説明を再開した。


そこには、タケと呼ばれた少年を含め、5人の子供たちの姿があった。

皆、切り株に腰を掛けカイセンの話を聞いているが、その表情は重い。

うんざりしているといった表情。


さらに授業を続行しているカイセンに、たまらず一人の少年が声をあげた。


「なー、カイセン~。いつまでこんなことやってるんだよ。

 こんな場所でこんなことしてるの、俺たちだけじゃんかよ~」


少年は辺りを見回す。

そこは広い草原の真っ只中で空は快晴。TSOのフィールド上だった。


「そうだそうだ。なんでわざわざこんなとこまで来て

 こんな退屈な事しなきゃなんねんだ!」


別の少年が賛同する。


「そりゃあお前達が

 たまには気晴らしで外に出たいって言ったからじゃないか」


「いやカイセンよぉ~、

 外に出たいって、外で勉強したいって意味じゃないんだけど。

 大体なんで、

 ゲームの中までカイセンにつき合わされなきゃならないんだよ~?」


「それはあんたたちが宿題を全然やらなくなっちゃったからでしょ?」


紅一点の少女が少年たちに発言する。


「そうだぞ、お前ら。どうせ宿題はやらなきゃならないんだ。

 それならさっさと終わらせてから遊んだ方がいいだろう?」


カイセンもそれに同意する。


「そんなら別に、ログアウトしても出来るしなあ?」


「ああ、そうだぜ~」


「それをやらないから、

 甲斐先生がわざわざこうやってきてくれてるんじゃない」


「あー、サチ。またお前先生の肩持つのかよ」


「違うわよ!あんたたちがうだうだうるさいからでしょ!」


「ああー!なんだと!」


言い争いを始める子供達。


「おいおいお前ら。………わかったわかった。

 じゃあとりあえず、今日の宿題はこの辺にしとくか」


「っしゃあ!やったぜ……!!」


「ダンジョン行こうぜ!!」


途端に活気づく少年たち。


「先生はこの後どうするんですか?」


女の子が尋ねる。


「そうだな、いっちょダンジョン!

 と言いたいところだが、先生は用事があるんだ。悪いな」


「用事って何ですか?」


「この前連絡が来てな。

 ニューディライトを拠点としているギルドのギルマスが集まるんだと。

 ちょっとした作戦会議ってとこか。それに出席しないといけなくてな」


「マジかよ!作戦会議とか楽しそーじゃん!!」


「会議って、何についての会議なんですか?」


別の少年がカイセンに尋ねる。


「お前達、来襲クエストって聞いたことあるか?」


「来週クエスト………あるか?」


「いや、俺はない」


子供たちは皆、首を横に振る。


「俺も聞きかじりで詳しくは知らないんだけどな。

 都市にモンスターが大群をなして襲いかかってくる、

 そういうイベントが時折発生するらしい。それが来襲クエスト」


「マジで!?超楽しそうじゃん!」


「てお前なあ、まだ倒せるモンスターなんか少ないじゃないか。

 この前ゴブリンで死にかけてたのは誰だっけなあ?タケ」


「ああ!?カイセンに言われたかねーよ」


「へへーん、お前らよりかは強いね」


「今日は、それについての会議なんですか?」


「おうそうだ。この街のギルマスには結構声がかかっているらしい。

 やっぱりそういう非常時に備えて、

 情報共有やら連携やらが大事になってくるんだろうな。

 それにそのクエスト、失敗するとこの街が大変なことになるらしい」


「ええ!?どうなっちゃうんですか!?」


「なんか………怖い…」


「臆病だなあ、サチは、ようは勝てばいいんだろ勝てば」


「まあ、その辺の詳しい話も含めて聞いてくるさ」


「カイセン~、俺たちもついてっちゃダメなの?」


「この街のギルドったって相当な数だろ。

 しかも俺達みたいな弱小ギルドにまでその声かかるんだ。

 きっとギルマスだけでも相当な数になる。

 主要ギルド以外は一人で参加が基本というような記載があったんだよな」


「弱小ギルドって、自分で言ってて虚しくならないのかよ、カイセン」


「いやカツヤ、別に俺はこのギルドをすぐ強くしたいとか、

 そういうふうには考えてないぞ」


「つまんねえなあ、もっとさ、ギルドランクもバンバン上げて、

 有名なギルドにしてえじゃんかよ」


「そうかそうか。

 じゃあその前に一人でモンスターを倒せるようにならないとな。

 大体お前達はまだ若すぎるんだよ。時間はたっぷりある。

 勉強もやりつつ、ゲームを程よくやって

 長い目でプレイしていけばいいじゃないか」


「そうだよ。小学生でこのゲームやってるのも結構珍しいんだし。

 私たちもこれから色々技とか覚えて強くなっていけば」


「俺は今すぐ強くなりたいんだ!そして懐剣を倒す!!」


「またそれですか。本当にカツヤは懐剣が好きですねえ」


「まあカッケーしな」


「懐剣、カイセン、名前は似てるのになー、天と地だぜ……」


「おい聞こえてるぞカツヤ。懐剣と比べられても困るっての。

 おっと、いけね。そろそろ街に向かわないと間に合わなくなる」


「なあなあ、俺たちもついていっていい?」


「別にいいけど、会場には入れないかもしれないぞ」


「その時はその時、みんなも行くだろ?」


「おう!行く行く!!」


「わ、私も、行く」


子供たちは皆、乗り気だ。


「わかった、じゃあさっそく街に戻るぞ。みんな準備しなさい」


カイセンと子供達5人は、ニューディライトへと向かうのだった。





ニューディライトのとある多目的ホール。

その規模は大きく、用途は様々だが

事前に手続きをすれば団体や個人で借り受けることも可能。

公共の施設としてもニューディライト屈指の広さを誇っていた。


今日、そこには非常に多くのプレイヤー達が集まっている。

来襲クエストについてのギルドマスター会議が行われていたからだ。

会場の内外問わず、

ギルマスたちをはじめ、多くのプレイヤーたちでごった返していた。


その中にカイセンと5人の子供たちの姿もある。



「うわすげー!むちゃくちゃ人多いな!」


「強そうな人ばっかじゃん!なんかワクワクしてきたな」


「ワクワクってお前らなあ、モンスターが襲いかかってくるんだぞ?」


「でもよ、こんだけいればどんなモンスターが来たって大丈夫じゃね?」


「来襲クエストって、いつ起こるかもわからないんですよね?先生」


女の子がカイセンに尋ねる。


「そうだな。もしかしたら何年も後かもしれないし

 もしかしたら………明日かもしれない」


「お、脅かさないで下さいよ………」


「ハハハ、ごめんごめん。

 お、どうやらあそこが受付らしいな。ちょっと行ってみるか」


カイセンたちは多目的ホールの入口付近の受付に向かった。


数人の列ができていたものの、

10分程度待ったところでカイセンたちの順番が回ってくる。

受付にいるスタッフらしき女性が声をかけた。


「はぁい、次のかたぁ~、ようこそぉ、ギルマス会議へいらっしゃいました~、

 お名前とぉ、ギルド名をお願いしまぁす」


「あ、ああ、名前はカイセン。ギルド名はグリーンヒルだ」

(な、なんかずいぶんおっとりした話し方の女性だな………)


「グリーンヒルのカイセンさんですねぇ~、

 ………はぁい、確認が取れましたのでぇ、どうぞぉ、ご入場ください~。

 あら?そのぉ、お連れの方々は~?」


「あ、えっと、この子達はうちのギルドメンバーなんだ。

 もし問題なければ、一緒に中に入らせてもらうことはできないだろうか?」


受付の女性はしばし困り顔を浮かべたのち、申し訳なさそうに応えた。


「あのぉ、大変申し訳ありません~、基本的にぃ

 ギルマスのかた一人という決まりになっていましてぇ~………。

 あまり中の人数が増えすぎるとぉ、情報が皆さんに行き渡らなくなって

 しまう恐れがありましてぇ~………」


「あ、やっぱりそうだった?

 ハハ、いや、こちらこそ無理を言って申し訳ない。

 分かりました。じゃあ僕だけで行くので」


「すみませぇん、よろしくお願いしますねぇ~」


そそくさと受付を後にするカイセンたち。

少し離れた場所で話をする。


「なんだよつまんねーな、やっぱ入れないのかよ」


「せっかく来たのにな」


「文句言わないの、先生だって入れないって言ってたじゃない」


「だけどよお~」


「悪いな。で、お前たちはどうするんだ?

 ここで待ってるか、それとも他んとこ行ってるか?」


「うーん、ちょっと考えようぜ」


「そうだな」


「じゃあカイセン、また後でな」


「しっかり話聞いて来いよ」


「………お前らに言われるまでもないってんだよ。

 お前たちこそ気を付けるんだぞ。変なプレイヤーには付いていくなよ」


「へいへーい」


子供たち5人はカイセンから離れていった。


一人受付を抜け、ギルマス会議の会場へ歩を進めるカイセン。

相変わらず周囲はプレイヤーでごった返している。


 (このホール、中に入ったのも初めてだが、さすがに広いなあ、

 これ貸し切るのにも相当金かかるんだろうな~)


周囲を見回しながらさらに奥へと進む。


 (本当に強そうな奴ばっかだ。

 やっぱりみんな、ギルド戦とかしのぎ削ってるんだろうな。

 ウチみたいにのんびりしたギルドばかりじゃないだろうし………)


「おい、カイセンじゃないか!!」


ふと後ろからの声に振り向くと、そこには昨日酒場で話をしていた

マスターの姿があった。

手を上げてカイセンに近付いてくる。


「おおっ!マスターじゃないか!こんなとこで何やってんだよ。出前か?」


「ばか言え。ここに来る目的なんかひとつだろう。お前と同じだよ」


「マスター、あんたギルマスだったのか!?」


「おうよ。何か文句でもあるのか?」


「いやないけどさ。意外だな」


「馬鹿野郎、俺も戦闘スキルはちょっとしたもんだぜ?」


マスターは腕に力こぶを作って見せる。白い歯がきらりと輝いた。


「あの辺の商店の経営者たちでちょっとしたギルドを結成してるのよ。

 クロス通り商会っていう。まあギルドつっても

 メンバーでダンジョンに行くとかそういう機会はなくてな。

 ちょっとした商店街組合みたいなもんだが」


「ここにものんびりしたギルドがあったってわけか」


「あ?何の話だ?」


「なんでもない。

 とりあえず俺も知り合いがいなくて心細かったんだ。丁度いい。

 説明聞いてこーぜ」


「おう、そうだな」


二人は建物のさらに奥へと進んでいった。


間もなく大ホールへと出る。

そこには椅子が大量に並べられており、

一番奥には主催者席と思しき長テーブルとマイクなどがスタンバイされていた。

席はもうすでにギルマスたちでほぼ埋まっており、

カイセンとマスターは最後列近くの席へと腰をかけた。


「はーこりゃあすごいなマスター、この都市のギルド、

 結構な割合で参加してんじゃないのか」


カイセンが声を出した。


「そりゃあ、あの天下のクラインノクスのお声掛けだぜ?

 そうそう無下にもできまい」


「クラインノクスねえ………。

 TSOの全ギルドの頂点。俺でも一応、名前は聞いた事あるけどさ。

 ただ疑問だったんだが、あいつらの拠点はローシャネリアだろ?

 なんでわざわざニューディライトの事に首を突っ込んでんだ?」


「俺もバーの客から聞きかじった話だが、

 ひと月くらい前に行われたSSギルド会議でそういう話になったらしい。

 確かにこのニューディライトは人こそ多いが、初心者率も多い。

 そこへきてギルド同士の連携も取れていないからな。

 そんな中で来襲クエストが起こったら、万が一ということがある」


「………万が一ねえ」


「店をやってる俺らからしたらそれこそ死活問題よ。

 正直、クラインノクスには感謝してるぜ」



そんなことを話しているうち、

ホールの一番奥手、主催者席の長テーブルへプレイヤーが数人やってきた。

その中の一人がマイクを使って声を出した。


「あー、あー、テストテスト。


 はい皆さん、そろそろお時間になりますので、

 対来襲クエスト、ギルマス会議を始めさせていただこうと思います。

 来襲クエストに向けた重要な会議となりますので。

 会議の内容は各自、録音やメモを取るなどして、

 よおく覚えて帰ってくださいね」


「お、始まったな」


雑談で騒がしかったギルマス達も、その一声で一斉に静かになる。

皆、一番奥手の長テーブルに注目していた。


「えー、特別ゲストの方も来られる予定なんですが………

 ちょっとまだ来てないみたいで………」


「ゲスト?誰だろうな?」


「さあ………わからん」


カイセンとマスターも疑問に思いつつ耳を傾ける。


「まあいいでしょう。とりあえず、

 会議を主催したクラインノクス幹部メンバーの挨拶から始めさせて頂きますね。

 では、クラインノクスサブマスター、キサラギさん、お願いします」


その言葉に、静まり返っていた会場内はざわついた。


「おい、サブマスターだってよ」


「まじかよ、すげーな………」


「俺初めて生で見るぜ……」


バーのマスターも思わず声を漏らす。


「ナンバー2のご登場とはな。

 向こうさんも結構本腰を入れて動いてくれてるみたいだ」


「おいマスター、キサラギってすごいやつなのか?」


カイセンが尋ねた。


「お前知らないのか?

 サブマスターのキサラギって言ったらちょっとした名だぞ。


 通称氷のキサラギ、剣の腕もギルマスに匹敵すると噂だ、何より、

 クラインノクスがここまででかくなった要因に

 サブマスターの手腕がかなり関係してるって話だ」


「ほおーさすがマスター、情報通だな。

 つまり、強い上に切れ者って事か」


マイクが長テーブルの隣の人物に渡った。

見ればその人物は女性、歳は20代中頃と見られる。

クリーム色のロングヘアーで様相は女騎士といったいでたち

釣り上がった目に少々きつい印象があるものの、整った顔の美人だった。

マイクを手に話し始める。


「紹介にあずかった、私がクラインノクスサブマスター、キサラギだ。


 今日はそれぞれ忙しいなか、この会議まで足を運んでくれたこと

 まず礼を言いたい。 しかし、

 この最も人口の多い都市、ニューディライトにおいての来襲クエスト。

 人に任せておけばまず問題ないだろうと高を括っている者もいるかもしれない。

 クエストの詳細は体験談を含め、おいおい伝えるが

 諸君らが思っている以上に厳しいクエストだ。心して聞いてほしい。


 TSOはゲームだ。ゲームは皆が楽しくプレイする、それが基本。

 私も異存はない。しかし

 この来襲クエストに限っては少しわけが違う。


 TSOには通貨相互換金システムがあることで、

 TSO内のものの価値は、現実のそれに準じた価値がある。

 それが、このクエストに失敗することによって失われる可能性があるからだ。


 この都市に家を買う、拠点を買う、店を出店する、

 多額の投資をした者は決して少なくないだろう。

 それは皆の財産と言って相違ない。

 その財産を守る意味において、

 このクエストに成功する事は非常に大きな意味を持つのだ。


 このクエストに限って言えば、それはもはや"遊び"の範疇を超えている。

 それをまず各々認識してほしい」


キサラギの厳しい言葉に、それまでの気楽な空気から、

周囲の雰囲気は一変した。


「おいおい、遊びの範疇を超えるって………なんかすごい話になってるな…」


カイセンも息をのみ、その様子を見守っていた。






一方、会議が行われているホールの外にはカイセンの生徒5人組の姿があった。



「ちぇー、行きたかったぜ。どんな話してるんだろうな?」


「行ったら行ったで、退屈だー帰りたいー、とかどうせ言い出すんじゃないの?」


「うるせえよサチ」


「なあ、どうにかして会場に入れないかな?」


「何を言い出すんですかタケ、さっきダメだって言われたでしょう」


「そうよ。入り口だって閉まってるし、見張りっぽい人もいるわよ」


「だからよお、他にどっか入れるところはないのかって話。

 ちょっと見てみようぜ」


「あ!ちょっとタケ!」


一人の少年が会場周囲の柵沿いに進んでいき、他4人もそれに続いた。

少し進むと、一部分、柵の高さが低くなっている箇所を発見する。


「おい!ここ!この柵なら上がれるんじゃないか!?」


「いやタケ、どう考えても届かないじゃない」


「そうだ!肩車すればどうかな!」


「それだ………!」


「ちょっとちょっとあんたたち………」


「おいカツヤ、下になってくれ」


「ちっ、わかったよ」


少年が別の少年を肩の上に乗せると、柵へと寄っていった。


「もうちょい前、もうちょい前、………くそっ!届かねえ!

 もう少しなのに!もっと高くならないか!?」


「む、無理言うなよ………」


「ほらあー、無理だって。おとなしく諦めなさいよ」


「もうちょっとなんだよ!!あ、フトシ!お前台になれ!

 その上にカツヤが乗るんだ!!」


「ええ~いやだよう……」


「いいからやれって!後でゴブリン饅頭おごってやるから!」


「つべこべ言わず、さあ乗りなよ!!ムフーッ!!」


小太りの少年は鼻息荒く、柵の近くで四つん這いになった。


「フトシ…あんたねえ………」


少女は呆れた様子で見ている。

四つん這いになった少年の上に、肩車をした少年が乗る。

よろよろと不安定ながらも、何とか柵の一番上に手が届く高さになった。


「よしいける……!!届くぞ!!」


「ッ………!!重いよぉ!!」


上に乗った少年が柵に手を伸ばすが、

一番下の少年は重さに耐えきれず傾く、

それによって全体のバランスは崩れ、柵に伸ばした手は空を切った。


「………!!おいコラフトシ!もう少し耐えろ!!」


「お、おれもうダメ!!」


「ああああああああ……!」


いよいよ3人のバランスは崩れ、後方に大きく傾きだした。


「お、落ちるっ!!!」


「危ないっ!!!」


ガッ……!!!



「………………」


「………………?」


思わず目を閉じてしまった少女。

3人が倒れて落下する音が聞こえるという想像に反して、辺りは静か。

不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。


するとそこには先ほどまではいなかったプレイヤーの姿があった。

二十歳手前、赤い髪の戦士と思しき格好のそのプレイヤー。

倒れそうになっていた3人はその戦士によって後ろから支えられ、

寸でのところで転倒を免れていた。



「あ、あぶねえ………死ぬかと思った………」


一番上の少年が汗を流しながら声を漏らす。


「………お前ら、とりあえず降りろ」


そう言ったのは戦士だ。


「あ、ああ………」


肩車された少年は降りる。


「あ、ありがとうございます!」


少女が少年に代わり戦士に礼を言う。


「なにバカなことやってんだお前ら」


あきれた様子で戦士が話掛けた。


「だ、だってよう、俺らこの中に入りたかったんだよ!」


「ハァ?中で何やってるかわかってんのお前ら?

 子供が入ったって邪魔なだけだっつうの!帰れ帰れ」


ふてくされた顔の少年。その少年が赤髪の戦士の腕の腕章に気付く。

それは、ついさっき受付にいた女性がしていたものと同じだった。


「あ…!こいつ、さっきの受付のヤツの仲間だぜ!!」


「まじかよ!……逃げろ!!」


「え!?ちょ、ちょっとアンタたち!」


少年たちは残らず一目散に逃げていった。少し遅れてその後を追う少女、

律儀に、戦士に一礼をして去っていった。

後を追うでもなく、あきれた表情で少年らの背を見る戦士。


「………べつに、取って食やしねえっての」


少年たちが立ち去った方向に視線をやり、その場で佇む戦士だったが、

しばしの後、ウィンドウが開く。コールの着信だ。

ウィンドウをタッチすると、そこに先ほどの受付の女性の姿が映し出された。


「あ!ソグさん~、どうですかぁ?あの方たち、いらっしゃいましたかぁ?」


「うーん、いや、見たところそれらしい奴らはいないな。

 変なガキらならいたけど」


「??変な~?」


「いや、なんでもない。

 とりあえずヤツらが来ないか、ここで待ってるよ」


「すみません~、もし来られたらぁ~、会議ホールまでご案内

 お願いしますねぇ~」


「わかってる。じゃあな」


ギルドコールを切った。


「………はぁ~、

 奴らも大事な時にハデに遅刻してくれるぜまったく……」


戦士は辺りを見回しながら、入り口の方向に歩いて言った。




会議会場から数十メートル離れた場所。

そこに、数人のプレイヤーのグループの姿がある。

何やら話をしている彼ら。彼らには一つの特徴があった、

皆、紫色のバンダナをつけているのだ。


「………おい、間違いねえんだろうな?」


「はい、まちがいねえっすよ。昨日、酒場にいたヤロウ。

 さっきこの辺で見たんすから」


「フードと赤メガネ、どっちだ?」


「赤メガネっす、つい数分前、妙なガキら連れてました」


「妙なガキら?………まあいい。数分前にいたって事は、

 まだその辺うろついてるかもしれねえ!手分けして探すぞ!!」


「………あ!!」


「?なんだ?どうした?」


「あれっす!あれっす!あそこにいる5人のガキっすよ!

 赤メガネが連れていたの!」


近くにいる子供5人組を指さす。


「………ほう、そうか。赤メガネの知り合いか?

 まあいい……上手くすりゃ

 あのバカを探す手間が省けるかもな…クックック……」


男は不敵な笑みを浮かべた。

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