第20話隠れた才能8


「やっと見つけたよお~、

 まったく人を置いていっちゃうんだから。ひどいなあ~」


「いや…置いていったと言うより、

 アナタが勝手にいなくなったんでしょう」


「まあ…そうとも言うけど……。

 ………………!!

 あれ、この部屋、もしかしてボス部屋!?ボスは!?」


「…………。

 ……お前の下敷きになって消えたよ」


「魔法の実です、どうぞ」


「ああ、すまない」


アーヤはパーティーに回復の魔法の実を渡して回る。


戦闘が終わったボス部屋。

一行はその場に座り、しばしの休息をとっていた。


「キリエちゃんと小町さんはMP回復の実ね」


「うん、ありがと」


「ありがとうございます」


「しかしまさか、ボス部屋の壁をぶち壊して登場するとはな」


ゴサクの言葉にオガワが続ける。


「めっちゃビビったっすよ、

 つーか、もしかして怪物の正体ってコイツっすか?」


「か、怪物って……人聞きが悪いなあ」


「プラチナさん、アナタもしかして

 ダンジョンの他の壁も破壊しませんでしたか?」


小町が尋ねる。


「い、いや…。それは…。

 みんなとはぐれちゃったから、早く合流しないとと思って…」


「それでダンジョンを破壊して回ってたわけか…。

 人騒がせな奴だまったく…。


それにしてもアーヤちゃん、あのような強力な技をいつ覚えたんだ?」


ゴサクがアーヤに尋ねる。


「さっきレベルが上がった時に覚えたみたいなんです。


 実は私、今までまともに戦闘した事もなくて…、

 さっきはとっさの事で、とにかく必死でした」


「それは本当か。初めてであれだけ様になっているとしたら

 相当な資質の持ち主だな」


「アーヤこっち!ちょっと来て!」


部屋の後方からキリエが呼ぶ。

アーヤがその場所に行くとそこには、大量の花が咲いていた。


「もしかして…………これが!?」


「そうです。ネビュロセチア」


小町もそこへやってくる。


「確かに……あの植木に咲いてた花はこういう感じでした」


「道中は色々あったが、終わり良ければなんとやらだ」


そこへゴサクもやってくる。


「よし、花を持って店に戻るとしよう。

 各自、アイテムドロップの確認を怠るなよ」





「……あ!」


自分のアイテム欄を確認していたアーヤが声をあげる。


「どうしたの?アーヤ」


「新しいレアアイテムが入ってる!」


「レアドロップ!?すごいじゃんおめでとう!

 で、どんなアイテム?」


「装備品で、ブーツみたい」


「見せて見せて!」


ウィンドウには


■クリスタルブーツ■

特性:クリスタルウルフの加護により、機動力とキック力が倍増する。


と表示された。


「き、機動力とキック力……………」


「……どうも、ここの運営は

 どうしてもアーヤに格闘士をさせたいみたいね…」




こちらも帰路の支度をしている最中、

ふとゴサクはプラチナに声を掛ける。


「なああんた、ダンジョンの壁をどうやって破壊してたんだ?」


「え?いや、剣でどかーんって」


「剣!?その剣か」


「うん、そうだよ」


「そういえば、竜を呼び出した時も剣に付いてきたとか言っていたな。


 もしや、その剣は神器級の武器か?」


「ああ、これ?これは神器級じゃなくて神……」



ドドドドドドドドドドド!!!!



その時、ダンジョン内に轟音がこだまする。

それと共に今までよりも強い揺れが起こった。

しかも今回は、その音と揺れは一向に収まる気配がない。



ドドドドドドドドドドド!!!!



「…!!!なんすか!?これ!」


「そういえば、途中で会った戦士が言っていたな。

 このままではダンジョン全体が崩壊するだろうと」


ゴサクが周囲を見渡すと、

あたりの壁や床、いたるところに深い亀裂が生じている。


「まさか、本当にそんな事が!?」


「は、早く出た方がいいんじゃない!?」


「えーーと……まさかとは思うけど…」


「アンタのせいっすよ!!」


「急げ!こっちだ!」


一行はダンジョンの出口を目指し、走りだした。






------------



陽は傾き夕暮れの深くなる、そろそろ夜が訪れようというところ。


ローシャネリアの一角、商業地帯。

ノリコのアイテムショップだ。店内にはノリコと客が数人。


カランコロン


「邪魔するよ、女主人」


そこへ新たに客が入ってくる。

三人組、件の商人風の男だった。今回も戦士を二人、脇に控えさせている。


「いらっしゃいませ」


ノリコが挨拶をすると、三人はノリコのもとへとゆっくり近づいてきた。


「おや、もっと動転しているかと思ったが、

 意外に落ち着いているじゃないか女主人。

 どうやら この店を明け渡す決心が固まったようだな」


「ええ、準備ができました」


「それは何より。それで明け渡しの期限なんだが…」


「いえお客様。

 準備というのは、この店を立ち退く準備ではありません」


「…なに?」


「保証の準備ができたということです」


「保障だと!?

 どうせ変わりのちんけな植物で済ませようという魂胆だろう!


 私はあの花以外、いかなる花での保証も受け付けん!

 これは先日話した通りだ!私の気が変わることは、断じてない!!」


「お気が変わってないようで何よりです」


「さっきから態度が気にくわぬな女主人。あまり私たちを怒らせると…」


ガチャ


裏口からアーヤが入ってくる


「あ、お客様来られたんですね」


「ちょうど今いらしたところよ。


 ではお客様、どうぞこちらをご覧ください」


「あああ?」


商人が見ると、店の一角に大きな布がかけられている部分がある。


バサッ!!


その布を、アーヤがひとおもいに取り払った。


「……!!!!!」


その布の下には、数え切れない程大量の植木鉢。

そこに咲いていたのはすべて、正真正銘ネビュロセチアだった。


「なぁっ…!?」


商人風の男は目を丸くする。


「お客様がお持ちだった花と全く同じものです。

 思いのほか、たくさんご用意てしまったので

 どうぞお気の済む限り、いくつでもお持ちくださって結構です」


「バカな…!!!」


商人風の男が大量の鉢植えの元に駆け寄り、その花を確認する。


「これは……そんなバカな!!こんな短期間に用意できるはずが!?」


「お客様?てっきり喜んで頂けるものかと思ってましたが。

 これで商談の方も、無事成立されるのではないですか?」


ノリコが声を掛ける。


バリィン…!!!


商人風の男はその鉢植えを地面に投げつけ叩き割った。


「ふ、ふざけるな!こ、こんな偽物渡されたって

 俺は納得しないぞ!!納得するものか!」


商人風の男は顔を真っ赤にしてアーヤとノリコに迫り寄った。


「本者か偽物かはお調べくださればすぐわかると思いますが?」


「ええい!うるさい!もういい!!

 本物だの偽物だのどうだっていい!!とにかくお前たちには、

 今すぐここを出て行ってもらわなければ困るのだ!!

 つべこべ言わず、俺の言うとおりにしてもらおうか!おい、お前ら!」


するとお付きの戦士たちは、アーヤとノリコのもとへゆっくりと近づいていく。


「面倒な事などせず、最初からこうしていれば良かったのだ!

 痛い目を見たくなければ…」


「見たくなければなんだって?」


そう言ったのは客に扮していたゴサクだった。

商人お付きの戦士の前に立ちはだかる。


「やってることがもう、強盗と何も変わらないよね」


もう一人、プラチナも戦士たちの前に立ちはだかった。


「何なら、俺達が相手してやろうか?」


「うっ………」


戦士に睨みを利かせるゴサク。その迫力に戦士二人はたじろぐ。


「くそなんだこいつら!?


 しかし…こんな事もあろうかと、

 あの人達を呼んでおいて正解だったようだな!!」


「あの人達だと?」


「先生方!お入りください!!」


商人風の男が店の外に向かって大声を出すと、外から二人組が入ってくる。

一人は戦士風の男、もう一人はローブの魔法使い風の男。

商人と横並びになる。


「……………!!!」


魔法使い風の男はその場にいるメンバーを見るや、フードを深くかぶった。


「おまえらどこのどいつだか知らないが、残念だったなあ!

 この私に喧嘩を売ったことを後悔するがいい!!


 この方々は、なんとあのブラッドダッドの主要メンバーの方々だ!

 俺はなぁ、ブラッドダッドにも顔が利くんだよ!はははは!


 さあお二人、このバカどもに痛い目を見せてやってください!」


「…………………」


「…………………」


しかし二人からの返答はなく、場にしばしの静寂が訪れる。


「ど、どうした!?さっさとやっちゃってくれ!!」


ブラッドダッドの一人、戦士風の男がやっと声を出した。


「……おいどうするよ、エト」


「あー、僕パス。気が乗らない」


「……だよな。

 ウララさんからも適当にやってと言われただけだし、


 ……………面倒だ、帰るか」


「か、帰るだと!?ちょっとあんたら何を言って!?」


商人風の男の顔色が変わる。


「そういうことだ。じゃ、俺らはこれで」


「ちょちょっと待て!!ちょっと待てお前ら!!

 俺はお前らの上に金払ってんだぞ!言うことを聞かねえと…」


「聞かねえと……なんだって?」


「……………!!」


ブラッドダッドの戦士が商人風の男を睨みつけると

商人風の男はぐうの音も出ない。


「俺らに文句あんだったら、いつでも金を取り返しに来なよ。


 まあ俺らも、はいどうぞと渡すほど、人間できちゃあいないがな」


カランコロン


その言葉を残し、ブラッドダッドの二人は店を後にした。


「…………………………。


 クソ!!なんなんだあいつら!俺がいくら払ったと思ってんだ!

 使えねぇクズどもが!!」


「残念でしたね」


その言葉を発したのは、

プラチナとゴサク同様、客に扮していた小町だった。


「お前らなんださっきから!!全員グルか!!」


商人風の男は後ずさる。


「グルなのは、あなたとどこぞのお店でしょう」


「………!」


「私は豊穣商連のものです」


「ほ、豊穣商連…!?」


その言葉に、さらに商人風の男の顔色が変わる。

小町は商人風の男の前まで歩き、真正面で睨みながら話し出す。


「ちなみにですが、ここにも書いてある通り

 この店には今日から防犯ビデオが設置してあります。

 今日、店に入ってきてから今までのやり取りは全て

 防犯ビデオに録画されていますので。


 あなたが強盗まがいの事をした事、ブラッドダッドに金を払って連れて来た事

 さらには、そのブラッドダッドに対してはいた暴言もね」


「だだ、だから何だというのだ!?小娘が!」


「この材料があれば、我々豊穣商連にはいくらでもやりようがあると、

 そう言っているのです」


「お、脅しのつもりか!?」


「先に脅したのはあなたの方でしょう。

 あなたが店で用意したネビュロセチアの鉢植えを破壊した時点でもう

 そちらに正当性はひとかけらも残っていない。

 いやむしろ、こちらの方こそ、あなたに賠償請求をする立場。


 それをお分かりですか?」


小町がさらに近づき、男を威圧する。


「ぐぐ、ぐぐぐぐ…!!!」


「あ、あの、俺ら金で雇われただけで…。関係ないんでこれで……」


そう言って、商人風の男に付き従っていた戦士二人は

逃げるように店を出て行った。


「さあどうしますか?ブラッドダッドも、お付きの戦士も

 もうあなたの味方は一人もいませんが?」


「う、ううう………くそぅ………」


商人風の男は、その場に力なく崩れ落ちた。






カランコロン


商人風の男は肩を落として店を後にした。


「これで大丈夫でしょう。

 もうこの店には一切関わらないと、そう約束しました。


 依頼主の店の名前も白状しましたし、

 もしその店がまたちょっかいを出してくるようであれば、その時は

 またこの映像と私たちの出番というわけです。


 おそらく、その店ももう手を出してはこないでしょうが」


ノリコ、アーヤ、キリエ、ゴサク、オガワ、小町そしてプラチナ。

皆の顔に晴れやかな表情が灯る。


「アーヤ見た?小町さんすごい迫力だったね!超怖かった!」


「うん、すごかったね」


「怖かったというのは心外ですね…。交渉術は商いの基本です」


「これで一件落着っすね」


「ああ、首尾は上々のようだ」


「店も続けられるね。よかったよかった!」


ゴサクはおもむろに右の拳を斜め上へとかざした。

その拳に交差させるように、オガワも拳を上げる。


「よくクエストクリア時にやるんすよ」


オガワが言う。

キリエも駆け寄り、拳を上げ交差させる。


「アーヤも、ほら!」


キリエの言葉にアーヤも駆け寄り、拳をかざす。


「プラチナさんも」


「オッケー!」


そこへプラチナも加り、あと二人入れば円陣は完成する。


「ほらほら、小町さんとノリコさんも」


キリエが急かすように言う。


「え!?」


「わ、私もですか!?いや私は…」


戸惑う二人。


「いいからいいから」


円陣からいったん離れたキリエが二人の背中を押して円陣へと引き込む。


「しょうがないですね……」


「…………では…」


小町とノリコもそこに拳を合わせ、円陣が完成したところでゴサクが声を張る。


「みんなお疲れ!!俺たちの勝ちだ!!」


「「「シャーーーーッ!!」」」


全員で拳を上げ、高らかに声をあげた。







「皆さん本当にありがとうございました」


ノリコが他メンバーに向けて深々と礼をする。


「困ったときはお互いさまってね」


「気にする事はない女主人、俺達としても良い経験をさせてもらった」


「じゃあおばさん、私そこまで見送りに行ってくるね」


アーヤとと他のメンバーは、ノリコを残し店を後にした。

外は夕暮れも過ぎ、紫色の空。

二つの月と幾千の星が輝き、夜でも非常に明るい。


「じゃあ、私はこれで失礼します」


まず声をあげたのは小町だった。


「小町さん、本当にありがとうございました。

 小町さんのお知恵がなかったら、今頃どうなっていたか…」


アーヤの言葉にゴサクも続ける。


「ダンジョンもそうだ。

 あんたの魔法がなければ、おそらく攻略は不可能だったろう」


「お礼を言われるような事はしていません。

 私は豊穣商連の者として役目を果たしたにすぎませんので。

 お店が安心して経営できるように計らうのが、我々の役目。


 では、失礼します」


そう言って立ち去ろうとした小町だったが、少し進んだところで立ち止まると

やや間をおいて、振り返った。


「………………………。


 ………あの…今度は…豊穣商連としてではなく…


 いち客として、お店にお邪魔させてもらっても……

 かまわないでしょうか?」


「はい!もちろんです!お待ちしてますよ!」


にっこりと笑うと、小町はその場を後にしていった。



「じゃあ俺たちもこれで」


「ゴサクさんオガワさん、本当にありがとうございました」


「さっきも言ったが、俺達もとても良い経験をさせてもらった。

 むしろ、こちらから礼を言いたいくらいだ」


「なんだかんだで結構楽しかったっすからね」


「ところで、ものは相談なんだがアーヤちゃん」


「なんでしょうか?」


「さっきの戦いで見た、あの鋭い動きと技、俺は感服した。

 まさかあのような才能を持っていたとはな」


「そ、そんな、本当にそんなたいしたものじゃ…」


「いや、俺もレベルの高い格闘士をギルドで何人も見てきたが、

 あの動きはその中でもトップクラスだ。


 聞けば、ギルドにも入っていないという。

 これも何かの縁、アーヤちゃんさえよければ俺たちのギルドに入らないか?」


「え!?私がですか!?」


「ああそうだ。

 あの力があれば、うちのギルドとしても非常にありがたい」


アーヤとゴサクの間にキリエが割って入る。


「ちょっとちょっと!

 どさくさに紛れて何言ってんのよ!


 アーヤ、だめだよ、そんな言葉にホイホイ乗っかったら。

 どうせ男だらけの汗臭~い、貧乏ギルドに決まってるんだからね!」


「キ、キリエちゃん…」


「お前…。当人を目の前によくそんなことが言えるな…」


ゴサクは呆れた表情。


「ちなみに、言い忘れていたが、我々のギルド名はクラインノクス。

 名前くらい聞いた事があるだろう?」


「クックッ、クラインノクス!?……うっそ!?まじ!?

 すごー!超大手じゃん!!


 やっぱりなんていうか、凄みがあるっていうか、

 やっぱりすごいギルドの人は一味違うんですね!」


キリエは目を輝かせてゴサクを見つめる。


 (言ってることが変わったな…)


 (口調が変わった…)


 (声色が変わった…)


 (キリエちゃん……)


「は、はい、名前はもちろん知ってます。

 でもあそこは、入るのに試験があってすごく難しいって聞いてますが」


「まあ正規のルートはそうだが。

 ギルドメンバーの推薦者がいれば話は別。

 俺が推薦すれば、即メンバー入りというわけだ」


「なんといってもアニキはクラインノクスでも古参メンバーっすからね。

 ギルマスにだって顔が利くんすよ」


「ほんとに!キャー!すごい!」


ひと際興奮するキリエ。


「…………………」


「植物を育てるのも好きなので、

 あまり長くご一緒できないかもしれませんが…」


「ああ、構わないさ。時間がある時に来てもらえばそれでいい」


「それでもいいのなら…」


「…………え!?入るの!?

 いつものアーヤなら断ると思ってたんだけど、大手に目がくらんだの?」


 (そりゃアンタだろ……)


オガワが心の中でツッコむ。


「いつもはお店にばかりいたけど………、

 今日ダンジョンに行って、みんなと冒険して……

 なんだかすごくワクワクしたんだ。


 もしできるなら、また、そういう経験してみたいなって…」


 (ア、アーヤが何かに目覚めようとしている……)


「あのあの!私もギルド入ってないんですけど!

 よかったらアーヤと一緒に入れてもらいたいなー、なんて!」


笑顔を作ってゴサクににじり寄るキリエ。


「……あ、ああ、構わんが」


「やったー!ありがとうございまーす!」


 (汗臭い貧乏ギルドと煽ったのがわずか数秒前……。

 竜に乗ったときもそうだが、この根性の図太さはある意味才能だな……)


呆れを通り越し、内心で感心するゴサク。


「そういえばプラチナと言ったか。


 お前もギルドに入っていないらしいが、

 もしよければうちのギルドに入らないか?

 剣の実力は確認できなかったが、あの竜の事といい、ただ者ではあるまい」


「…あ、うん。こないだギルマスさんにも誘われたんだけどね。

 ……………………。

 悪いけど、ギルドとかはボクにはちょっと合わないかな」


「なに?ギルマスと知り合いなのか?」


「ちょっと昔なじみでさ」


「そうか、それは残念だ。


 じゃあアーヤちゃん、ギルド側に話は通しておく。

 これからはギルドメンバー同士だ。改めてよろしく」


「はい、よろしくお願いします!」


ゴサクとアーヤは握手を交わす。


「とは言えだ。俺らも今までと変わらず、

 今後もこの店には客として来させてもらう。また明日にでも来るよ


「はい、お待ちしてますね」

 

「ではこれで失礼。行くぞオガワ」


「うっすアニキ。じゃあまたな!楽しかったぜ~」


そう言うとゴサクとオガワは去っていった。




「やったねアーヤ!めちゃくちゃ有名なギルドに入れちゃった!

 私たちもこれで同じギルドメンバーだね!」


「うん、頑張ろうね!」


「あ、やば!私そろそろログアウトしないと!

 じゃあ今日はこれで帰るから」


「うん。

 キリエちゃん、今日は一緒にいてくれて本当にありがとう。

 今度、絶対お礼させて」


「いいっていいって、私も楽しかったし。

 あ、じゃあそうだ、今度アイスおごって。現実でね。


 それじゃ。プラチナさん、また竜に乗せてくださいね!」


そう言うとキリエは去っていった。


残されたのはアーヤとプラチナ。


「えーっと、じゃあボクもそろそろ行くね。


 なんか…その………任せろとか息巻いたわりには

 ダンジョンであまり力になれなくて……なんというか………」


「いえいえ!そんなことないです。

 プラチナさんがいなければ、花を取ってくる事も絶対できなかったですし

 この店ももしかしたら…

 すごく感謝してます」


「そ、そうかな…。照れるなぁハハハ…。


 じゃあ、行くね」


そう言って歩きだすプラチナ。


「………………………」



「……………あ、あの!」


呼び止めたのはアーヤ、その声にプラチナが振り返る。


「ん?何?」


「私、今までこのゲームで知り合いを増やそうっていう気がなくて…

 地道に一人でやって満足してました。


 でも、今日だって、プラチナさんや他の皆さんの協力があったからこそ

 こうやって今、私は笑っていられるんです。

 もし一人だったら、全て投げ出して、TSOを辞めていたかもしれない…。

 

 なんていうか……

 友達や仲間を増やしていく事の大切さとか、

 楽しさを少しだけわかった気がしてて…。


 プラチナさん!

 よければ………フレンド登録しませんか!」


「………………」


「………………」


「え!?してくれるの!?

 うんうん!しようしよう!絶対しよう!」


「あ、ありがとうございます!」


「また竜に乗りたかったらいつでも言ってね!」


「…いや、あれはちょっと……」



フレンド登録を終えると、プラチナは場を後にしていった。





カランコロン


「アヤちゃんおかえり。お見送りは済んだの?」


ノリコが店内で出迎える。


「うん」


「本当にアヤちゃん、今日はありがとうね」


「いえいえおばさん。


 あ、それと、さっき私、ギルドに誘われちゃって。

 もしかしたら、これからたまにお店休ませてもらうかも…」


「そうなんだ。よかったじゃない。

 お店は気にしないでほんと。

 私も、一年中お店空けてるわけでもないし、

 気が向いた時に来てもらえれば、それで大助かりだから。


 それよりも、今日はどうやってあの花を手に入れたの?

 ダンジョンに行ったっていう話だったけど、すごく遠いよね?」


「あ。おばさんにはまだ言ってなかったね。

 さっきいたプラチナさんっていう剣士さんが、すごい乗り物を持ってたの。

 それに乗ったらあっという間!」


「すごい乗り物?」


「そう、白い竜。ものすごくおっきい竜。

 それにみんな乗って、一時間ぐらいで着いちゃった!」


「白い……竜…………」


ノリコの顔色が若干変わる。


「………竜の女…」


「え?竜の女って何ですか?」


「あ!いやいや、何でもないの。

 それよりアヤちゃん、そろそろ片付け始めちゃいましょう」


「はい、おばさん」


こうしてノリコの店の平安は

アーヤを始めとした冒険者の活躍によって守られたのだった。


アーヤはこの出来事をきっかけとして、さらなる冒険へと

歩を進めていくこととなるのだが、それはまたいずれかの機会に。






ノリコ店から少し離れたところ、歩くプレイヤーの姿が二人。


「なんか最近よう、

 俺らをヤクザかなんかと勘違いしてる奴が増えだしたよなあ。

 そう思わねえかエト?」


「確かにね。僕たちはただ、自由に戦いたいだけなのに」


「ただまあよお、そうじゃなくったって、

 あそこの店にはどうやっても手を出せないけどな。

 店入って超ビビったぜ」


「ウララさんも案外適当だから。

 そのへんしっかり確かめてから、仕事受けて欲しいよ」


「全くだ。いくら俺達でも、姐さんの店には手ェだせねえっての」


「いつもと雰囲気違うから、よく見ないと気付かなかったけどね」


「肝を冷やすぜ、ったくよお。


 そういやお前あの時

 真っ先に顔隠して、自分だけ逃れようとしたろ?わかってんぞコラ」


「ち、違う。あれはそんなんじゃない…

 ………………………。

 なんかクラスメイトに似てるヤツが店にいたんだ」


「はぁ?クラスメイト?

 ああ、そういやお前まだ学生だったなあ」





さらに別の場所。歩く一人の姿、プラチナだった。



「………………………」


「仲間を増やす大切さ、か。……耳が痛いなあ」


「………………………」


「でも確かに今日はすごく楽しかった。


 ギルドのお誘い。乗っかっちゃってもよかったかな…。

 ………………………。

 いや、だめか。そういう約束だもんね」


「………………………」


「……あれ?なんか大事なことを忘れてる

 ような……………………


 うーーん、気のせいかな???」


プラチナは歩いて行った。


そしてノリコの店の裏の畑では、

今日もアーヤの木に、

黒々とした魔法の実が得体の知れない瘴気を放っていた。






------------



今日も激しい風が吹き荒れているネビュロア山脈。


その地区を歩く一団。

屈強な戦士たちがついに、その頂へと到達しようとしていた。


「ハァハァ…。ついに頂上だ!やっと着いたぜ!」


「一時はどうなる事かと思ったがな」


「なぁに、俺らにとっちゃあこのくらいは朝飯前よ」


「ってお前、竜にビビってたのはどこのどいつだよ」


「ああ?ビビってねえし。竜だろうが相手になってやるぜ!

 行く手を阻む奴は俺がぶっとばす!」


「おいお前ら、まだこれからだぞ。

 山頂のダンジョンを攻略する事こそが俺らの目的だ」


「んな事ぁわかってる、

 モンスターだろうが何だろうが俺らを止められる奴はいねえ!

 あれが入口か。よっしゃあ!早速行こうぜ!」


ふと目をやると

ダンジョンは崩落しており、入口は完全に瓦礫で塞がっている。


「誰も……俺らを……止め…………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「……………………」



「うん。えーと、なんか…………

 ……………………やっぱ降りよっか?」


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