第21話潜入!ロリータコルセティア


夜も深まり、あたりは幾千の星と二つの月が照らしている。

ここはTSOの大都市セントティアラの一角、冒険者たちの集う酒場だ。

冒険者たちは今日も集まり、店内は賑わっていた。

その中でも際立って声の大きいグループの男たちの会話が聞こえる。


「お前それで、"壊剣"には会えたのか?」


「いやまだだ。なんせ決まった狩場もない、神出鬼没だからな。


 ただ、俺の力は確実にヤツに近付いてるぜ」


そう言って男は、傍らに置いてある自らの武器に手を置く。

それは身の丈に近いほど巨大な剣だった。


「俺も絶対そのうち"壊剣"ぐらい強くなって、名を上げてやるぜ」


「"壊剣"が 大会で連覇なりをしだして騒がれた頃だよな。

 お前みたいに、でけえ武器持って黒い格好のいかにもってやつが増えた。

 壊剣チルドレンとでも言うか」


「馬鹿野郎が!俺をそこらのやつらと一緒にしてんじゃねぇよ。

 確かにそういう輩は増えたが、俺はちげえ、

 いずれは必ず、"壊剣"に追いついてやる!」


「おい見ろカウンターのアイツ、

 でっけえ武器持って真っ黒、やつもまさに壊剣チルドレンて感じだな」


見れば、酒場のカウンターで一人ジュースを飲んでいる剣士がいる。

全身を黒い衣装で覆い、やはり身の丈程の大剣を横に置いていた。


「何言ってんだ!!俺をあんなチビと同列に語るんじゃねえ!

 あんな奴じゃあ、武器に振り回されるのがオチよ!」


「ハハハ!言ってやるなよ!!」


ひと際大きな笑い声を上げる男たち。

一方、カウンターで一人黙々と飲み続ける剣士。

その様子を見かねた店主がその剣士に声をかける。


「ああ見えて、彼らも悪気があるわけじゃ…。

 最近ハメ外しすぎるヤツが多いんですよ、もう一杯どうです?」


「……いややめておこう。


 別に俺は、あんな連中の言ってる事なんか気にしちゃいない。

 所詮は有象無象。壊剣壊剣と騒いどきながら

 実際、足元にも及ばないようなザコばっかりだからな。


 マスター、お勘定だ」


その剣士はお代を置き、店から出ていった。


ギィ……


店を出て、夜空を見上げる剣士。


「狩場にでも行くか?……いやその前に、こっちが先客か」


そう言って振り返ると

先ほど酒場内で大声をあげていた三人グループが後ろに立っていた。


「見送りを頼んだつもりはねえけど?」


「まあそう言うなって。お前に一つ忠告しといてやるよ。


 陰口だったら、もう少し音量に気をつけることだな。

 口は災いの元って言うぜ」


凄みをきかせ、三人組の中の一人の戦士が迫る。


「奇遇だな、

 俺もお前らに全く同じ忠告をしてやりたかったところだよ」


「ああん?やるか?このチビ?」


「……ああ、いいぜ。狩り前のウォームアップには

 お前らみたいなザコがもってこいだ。

 どうせなら全員で来いよ?」


「俺たちも、こんなチビにとことんナメられたもんだな……!」


そう言って三人の戦士が剣を構える。

黒づくめ剣士も、静かに大剣を構えた。






「ま、まじかよ…信じらんねぇ…。


 三対一で、手も足も出ねぇなんて……」


三人組の戦士は全員、その場に突っ伏していた。

それを見下ろす黒ずくめの剣士。


「その程度で"壊剣"に追いつく?ハハハ!

 笑わせるのはお前のそのツラだけにしてくれ!」


「くっ…!!!」


「それに奴に追いついたところで、それがなんだってんだ。

 強いやつはぶっ倒してこそ意味があるんだろうが!


 俺の名はレィル。"壊剣"を倒す男だ。よく覚えとけ」


そう言ってレィルは、三人の戦士を捨て置き、その場を去っていった。





夜の街を歩くレィル。

入り組んだ路地に入る。夜という事もあり、ひと気も少ない。

しばらく進んだところで、ふと歩を止める。


「おーい、

 あんたら、俺が目障りとかそういうアレか?

 それとも金が目当ての追い剥ぎ…か」


一人、夜の闇に言葉を投げかけるレィル。


「まあなんでもいいや。


 わざわざこっちから、ひと気のないところに歩いて来てやったんだ。

 気配にはとっくに気づいてる。さっさと現れたらどうだ?」


「………………」


しばしの静寂の後、辺りに声が響く。


「あらまあ、勘の良いお方ですのね」


「女の声?」


レィルが見上げると、近くの建物の屋根の上に人影が見えた。


「で、お前は俺に何の用なんだ?」


「気に食わないわけでも、因縁をつけるわけでも、

 ましてやお金が欲しいわけでもございませんわ。


 ただあなたと少し遊びたい、それだけでしてよ」


その人影はレィルを見下ろしながら話す。

風で髪とスカートがなびいているのが見える。


「だったら、そんなとこにいねぇで降りてきたらどうだ。

 そんな格好であんまり高いところにいっと、パンツ見えるぞ」


「ご覧になりたければ、ご自由にどうぞ」


カツカツカツ


「…………!」


レィルは自らの前後に気配を感じ目をやると

レィルを囲むように前後から一人ずつ、人影が近付いてくる。


カツカツカツ


さらに近づいてくると、月明かりにその人影が照らされる。


二人とも女性。腰に剣を差し、剣士と見られる。

フリルの多い、いわゆるゴスロリ衣装に身を包んでいる。


レィルから若干の距離を置いて、歩を止めた。


「…ん?これはあんたのツレか?」


「はい。そうですわ」


「ずいぶんと回りくどいことをするな。目的は何だ?」


その答えを待たずに、ゴスロリ二人組が同時に剣を抜き、

前後からレィルに向かって剣を構えた。


「ふーん。問答は無用ってわけか。

 まあいいや、あんなザコ相手に物足りなかったんだ。


 フザけた格好して、お前ら少しは楽しませてくれるんだろうな?」


そう言ってレィルも剣を構えた。




ダダッ!!


前後からゴスロリ服の女剣士がレィルに迫る。

そこは街中の路地裏。決して広い空間ではなかった。


ガキイン!!


剣と剣が当たる音。それは女剣士同士の剣が当たる音だった。

見ればレィルは上、咄嗟にジャンプで回避している。


「上!!!」


すかさず二人の女剣士は、レィルに追随し飛び上がると

その勢いのままに、下から切りかかった。


「やはり…ここまでの流れは御見通しか。

 だが、これはどうかな?」


「カイゼルクラッシャー!!」


高く飛び上がった状態から、発動された必殺拳技。突進の剣技だ。

レィルの大剣がオーラをまとい、そのまま急降下。


下から追撃を試みていた二人の女剣士にヒット。


「ぐっ…!!!」


「…あらまあ。

 大きな口を叩くだけのことはありますわね。


 だけど…その程度でやられるこの子達ではありませんわよ」


女剣士はダメージを受けつつも、前後に分かれ着地。

剣技後の着地、レィルの一瞬の隙を狙った。


女剣士が再度、前後から切り掛かる。


瞬時にそれを察知するレィル。

大剣を地面に突き刺すと、その剣を中心に時計の針のように回りだした。


「…………!!!」


ドカッ!!!


回転力を伴った勢いは、そのまま蹴りの威力へとつながり、

前後の女剣士を一斉に弾き飛ばした。


「妙な格好してるわりには、そこそこじゃないか。だが…!!」


すかさずレィルは一人の女剣士の元へ走り、大剣で切り掛かる。

女剣士は咄嗟に剣で受けるも、大剣の勢いは重く、凄まじい。


「どうしたどうした。このまま潰しちまうぞ!」


「はああああぁっ…!!!」


後方より、もう一人の女剣士がレィルの背後を襲う。


ガキィン!!!


「…………!!!」


女剣士の剣を受けたのは地面に突き刺さっている大剣。

見るが、そこには剣のみ。レィルの姿はない。


「どこへ!?」


「また上か…!!!」


そう言って二人が上を見上げた時


「そんなボワボワ膨らんだスカート履いてっから

 視界が悪くなるんだろうが」


「…………!!!」


女剣士たちの真下からの声。


レィルはそのまま下段の蹴りを放ち女剣士の足を薙ぎ払う。

バランスを崩して地面へと倒れる一人の女剣士。

さらに、後ろから斬りかかろうとする女剣士の腕を持ち、

その勢いのまま、一本背負い。


ドガァッ…!!!


女剣士二人は同じ場所へと倒れこんだ。

そこへ、大剣が突きつけられる。


「…チェックメイトだ」


そう言って少しの間を置き、レィルは剣をおろした。


「おーい、これがお前の言う遊びってヤツか?」


声をあげるレィル。


タッ!


屋根の上に乗っていた人影はジャンプ。地面へと降り立った。


「なるほど。大剣一本と思いきや、

 たくみに体術を織り交ぜ、緩急で相手を翻弄。…お見事ですわ。


 そして何よりも、そのお顔。……合格でしてよ」


「顔?合格?何言ってんだお前。

 "遊び"が終わったってんなら、俺はさっさと狩りに行かせてもらうけど?」


「何をおっしゃるの。

 これはただの前戯。本番はこれからですわよ」


その人物がさらにレィルに近づくと、月明かりに照らされ姿があらわになる。

金髪で縦ロール、年の頃は十二、三とみられる少女。

服装はやはりゴスロリと言われるものだ。


「……………………。

 お前、見たことあるな。


 その服装といい、正体わかっちまったんだけど。

 いいの?顔の売れた身分で、こんな夜盗紛いの真似してよ」


「あら、夜盗紛いだなんて言いがかりですわ

 わたくしはただ、メンバーのスカウト活動に勤しんでいるだけ。


 ギルマスとして、至極当然の事」


「スカウト活動だあ?

 お前んとこのギルドは確か女限定だろ。

 入れもしねえ男を闇討ちして、それのどこがスカウトだ?」


「………………………」


少女は何も言わず、おもむろに武器を取り出し構える。

その小さな体に見合わない巨大な斧だ。


「…………やる気って事か。

 いいねえ、俺としても丁度いい。


 そろそろ試してみたかったんだ。世間で名の知れたTSO古参連中に

 俺の剣がどれだけ通用するのか、ってのをさ」


レィルも大剣を構え、しばしの沈黙。



「普通にやっても面白くありませんわ。

 わたくしの"遊び"に付き合って下さらない?」


「………"遊び"だと?なんの事だ」


武器を構え合いながら話す二人。


「簡単な事。"負けた方が勝った方のいう事を何でもきく"。


 それだけですわ」


「………いくら古参っつっても、

 お前みたいなお子様に負ける気はしない。


 だが、お前に何をしてもらおうが興味がねえ。

 自分に何もメリットのない条件をのんでやる義理はねぇな」


「何でもと言いましたのに、勿体ない。

 こう見えてわたくし、

 一部の性的趣向の殿方達からは、それなりの人気があるんですのよ?」


「性的趣向って……、お前一体

 自分が何されることを想定してたんだよ…」


「……では、これはいかがかしら?」


そう言うと少女は自らの服に首元から手を入れ、まさぐり始めた。


「ちょ、おい!何やってんだ!?」


「あら、下着でも出すと思いまして?

 …これですわよ」


少女は首にかかっているアクセサリーを引き出して見せる。


「なんだそりゃ?」


「ガーディアンロザリオ。神器級装備ですわ」


「……神器級だと!?」


レィルはそのアクセサリーをまじまじと見つめる。


「いかがかしら?

 無論、わたくしに勝てたら、差し上げますわよ」


「………………いいぜ、乗った。


 偽物だったら承知しねえぞ。

 言っておくが俺は、嘘が何よりも大嫌いなんでな」


レィルは力を入れ、大剣を構え直す。


「ウフフフフフ……。交渉成立ですわね♪


 その言葉、よーく覚えておきなさいな」


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