第19話隠れた才能7


「この地図を見る限り、おそらくこの先がボスの部屋で間違いないだろう」


アーヤたち一行は、

ついにダンジョンの最深部、

ボスモンスターがいるであろう場所のすぐ手前まで辿り着いた。


「結局、プラチナさんとは合流できなかったですね」


アーヤが呟く。


「それは仕方ない。もしかしたらもうダンジョン内にはいないのかもしれんな」


「このダンジョンを長く一人で歩き回って、無事で済むとも思えませんしね」


ゴサクと小町の言葉にオガワが反応する。


「俺ら帰り、どうなるんですかね。まさかローシャネリアまで

 歩いて帰るなんてことにならねえといいんすけど」


「またそういう縁起でもない事を…」


キリエがオガワを睨む。


「このダンジョンを出れば、パーティー解除がなされていない限り

 パーティーコールで連絡が取れる。

 そうすれば、そんな事にはならないだろう」


ゴゴゴゴゴゴ……


大きな地鳴りと共にダンジョン全体が揺れる。


「また……。しかもどんどん音が大きくなってるような…」


キリエが辺りを見回す。


「怪物が近づいてきてんすかね、

 いよいよボスだって時に、ボスと怪物の強力タッグなんて勘弁すよ」


「なんであんたはそう縁起でもない事しか言えないのよ」


「ああ?」


「ま、まあまあ二人とも…」


睨み合うキリエとオガワをアーヤがなだめる。


「怪物も気になるが、しかし

 それよりも今俺らが考えるべきはボスにどう立ち向かうかだろう。

 幸いここまで甚大な被害はない。

 しかし、さっき出会った戦士たちの話や、今までのモンスターを総合するに

 我々の少々状況は厳しいかもしれない」


ゴサクに小町も同意する。


「それは私も思います

 もともと、ここに来れる事自体が半信半疑でしたが。

 冷静になって戦力分析をすると、少々心もとないですね」


「あと一組、攻守のペアがいればある程度安定しただろうが、

 今そんなことを言っていても仕方がないな。


 俺に一つプランがある。

 ここはひとつ、そのプランに乗ってみないか?」


「…他に選択肢はないようですね」






しばらくの後、一行はついにボスのいるエリアへと足を踏み入れた。


非常に大きな空間。周囲にはいたるところにクリスタルがあり

そのクリスタルが一斉に光を放った。


見れば、大部屋の奥に高さ三メートルはあろう、巨大な狼。

所々体がクリスタルに侵食されている、ボスモンスター、クリスタルウルフだ。

クリスタルウルフの周囲に十体の狼モンスター、ワーウルフが配置されていた。


「やはりか……。これは正攻法でいってもダメだ。

 さっき伝えた作戦、みんな、いいな?」


ゴサクの言葉に皆頷く。 


「はい」


「わかりました」


「了解っす」


「わかった」


モンスターたちは、徐々に間合いを詰めてくる。

一塊になるパーティー。

キリエと小町は即座に呪文詠唱を始めた。


「ゴサクさん、よろしくお願いします」


そう言って、アーヤはゴサクに

ガードアップの魔法の実を手渡した。それをひとかじりするゴサク。


「ああ。アーヤちゃんの魔法の実で力100万倍だ」


そこからパーティの塊を飛び出したのはゴサクだ。

一人、モンスター達の元へと近づいていく。


「マーク・サチュレイション!!」


そこでゴサクは技を発動させる。


「さあ!こいつら全員請け負ってどれくらい耐えられるか!

 男の見せ所だ!!ゴサク!」


ゴサクは自らに気合を入れるように声を張るや

ワーウルフが一斉にゴサクへと襲い掛かった。


「ぐっ…!!!」


ゴサクは盾を巧みに使いそれらをガードするが、多勢に無勢。

全方向からの攻撃に、さすがのゴサクも徐々にダメージをもらっていく。


「エア・ブレス・フィズ!」


そこで、キリエの補助魔法がゴサクにかけられた。

一定時間、物理防御を上昇させる魔法だ。


「うおおおおおお!!!」


さらに防御力が増加したゴサクは、ワーウルフたちの攻撃をはねのける。


「まだまだ軽い!!こんなものか!!」


その時、

ゴサクのマーク・サチュレイションの効果を逃れたワーウルフが一体、

後方の一団へと迫った。

それを引きつけたのはオガワだ。


「アニキの取りこぼしを抑えるのが、俺の役目…!!」


ワーウルフの行く手を阻む。



なおもワーウルフの攻撃を耐え凌ぐゴサクだったが、

ついに、ボスモンスタークリスタルウルフがゴサクの前に立ちはだかる。


「グッ…!!いよいよか!」


「ガオオオオオオオォォォ…!!!!」


すさまじい咆哮と共にゴサクに近付き、

クリスタルウルフはゴサクの盾に噛みついた。


ギギギギ……


ゴサクの持っている盾がきしみ始める。


「なに!?盾を狙って…!クソッ!こいつ!離せ!!

 詠唱はまだ終わらないのか!!」


オガワはワーウルフと交戦中。

そこへ、ゴサクの技の効果を逃れたワーウルフがもう1匹、

アーヤとキリエ、呪文詠唱中の小町が固まっている所へと向かった。


「アーヤこっちきた!小町さんに近付かせちゃダメだよ!」


「うん!わかってる!」


「エア・ウォール!」


キリエが簡易的な障壁を作るの魔法を発動させると、

ワーウルフはその障壁に追突、一瞬ひるむ。


「えいっ!」


そこへアーヤが黄色い結晶石を投げつけ、ワーウルフに見事ヒット。

この結晶石は、対象を一定時間混乱させる効果を持つ。

混乱したワーウルフは、あさっての方向へと走り出した。


「よしっ!やった!」


一方ゴサク。

クリスタルウルフは盾に噛みつき離れない。


「くそ…盾が…!!」


バキバキバキ!


盾はクリスタルウルフの牙によって、歪み、潰されていく。


ついには、ゴサクの腕から無理やりもぎ取られてしまう。

クリスタルウルフは盾を牙で粉砕すると、そのまま吐き捨てた。


その間にも、数匹のワーウルフがゴサクに前後左右からの攻撃を続けている。


「ぐっ…!?さすがに…限界か…!?」


「エア・ヒール!!」


キリエの回復魔法が、ゴサクへと掛けられる。


「すまない!」


「お待たせしました!」


そこでいよいよ、小町の詠唱が終わる。


「シャフリーズ・エキソディール!!!」


その魔法がクリスタルウルフに見事ヒット。

クリスタルウルフはその全身を、一瞬にして氷で固められた。


「やった!」


キリエが思わず声をあげる。


「指示の通り、これが私の魔法の中で一番長く足止めできるものです!

 効果時間は 対象を攻撃しなければ、およそ40秒!!」


「この間に、全員で雑魚を片付けるぞ!!」





「私の魔法でボスを足止めすればいいんですね」


「そうだ、それが成功するか否か、そこがまず第一段階だ。

 ボスと取り巻きを同時に相手するのは物理的に不可能、

 明らかに人数が足りない。

 どう相手の戦力を分散させて戦うかがこの作戦の肝。

 詠唱の間、オガワは俺の取りこぼしを、

 さらにそこから抜ける奴がいたら…」


「私とアーヤの出番ね」


「そうだ。よろしく頼む」


「わかりました」


「相手がボス一人になれば戦い方はいくつか考えられる。


 第一段階が成功したとして、

 ボスを足止めしている間に周囲の雑魚を一掃できるか、そここそが

 この戦いの真のキーポイントになるだろう」






「さっきはよくもやってくれたなザコ共!うおおらあああああ!!」


守りから一転、攻撃に転じたゴサク。

剣の威力も高く、ワーウルフたちを次々に無力化していく。


クリスタルウルフは凍結状態で動かない。


「しゃらアアアァァ!!楽しくなってきたぜ!!」


オガワもワーウルフを翻弄、両手のナイフで切りつけ、

ダメージを確実に与えていく。


「シャフリーズ・ミィル!!!」


小町の氷系魔法も炸裂。


「こんなものでも少し足しになれば…!」


アーヤは赤い結晶石をモンスターで投げつける。

この結晶石は、対象に僅かながらダメージを与えられるものだ。


攻撃されたワーウルフはアーヤに攻撃態勢を取り、襲いかかる。


「エア・ウォール!」


キリエの障壁魔法が、再度ワーウルフを食い止め、

さらにゴサクの剣技が炸裂。

ワーウルフは消滅エフェクトと共に消え去った。


「やっと半分か!少々きついが……いけるか!?」


ピシ…ピシ……!


クリスタルウルフの氷に大きな亀裂が入った。


バリーーン!!


クリスタルウルフを覆っていた氷が粉々に砕け散る。


「……!!!!」


「なっ!?」


小町もそれを見て驚きの表情。


「そんな……!

 まだ硬直時間は半分程度のはず…!!なぜこんなにも早く!?

 もしかして……このモンスターには効果時間の変化が!?」


「アニキィ!後ろだ!!!」


凍結状態が解除された瞬間、運悪くクリスタルウルフの目前にいたのは

ゴサク。そのやや後方にアーヤ。


「くそ!まだワーウルフは残っているというのに!

 ここはひとまず距離をとって…!」


咄嗟にクリスタルウルフから距離を取ろうとするゴサク、

しかしそこへワーウルフの攻撃。ゴサクの脚に噛み付いた。


「ぐっ…!!こいつ!!」


片膝をつくゴサク。

クリスタルウルフはゴサクに対し攻撃モーションに入っている。


「…!くそっ!避けられん!!!」


その刹那、ゴサクの前に飛び出したのは、なんとアーヤだった。


「!?アーヤちゃん!?何をしている!?

 俺の事はいい!早く逃げろ!」


「ゴサクさんがやられたら、

 私たちパーティーに勝ち目はありません。だったら、一か八か…!!」


そう言ってアーヤは、両拳を構えた。


「な!何を!?」


「アーヤ!?」


「アーヤさん!?」


その様子を驚きの表情で見るメンバーたち。






「よし、ボスの作戦については以上。

 少し休んだらボス戦だ。

 各自、アイテム使用などでステータスを万全にしておいてくれ」


パーティーはそれぞれに準備をする。


「ねえ、アーヤ」


「なに?キリエちゃん」


「こんな時になんだけどさ。

 さっき見せてくれたアーヤの技名、私あれ見たことあるの思い出した」


「え!?ほんとう?」


「うん。前に他の人とパーティー組んでダンジョンに行った時

 その人が使ってた技がたぶんそれだったんだよね。


 その人……格闘士だったの」


「か 格闘士!?

 ……でも、なんでそんな技が私のステータスに…」


「この洞窟に入ってからのアーヤを見てきたけどさ

 敵の攻撃をギリギリで避けたりしてたよね、

 あと、あの大きな瓦礫をどかした時、アーヤが力を入れたら

 急に瓦礫が動いたように見えたんだ」


「え!?私…全然、そんな力ないよ!?」


「さっき手袋の話してたじゃない、その技を覚えてる事といい、

 もしかしてアーヤの才能って……」


「そんな……まさか……」






ドガァ…!!!!



「…!!!!」


「…!!!!」


それを見ていた他のパーティーメンバーたちは我が目を疑った。


クリスタルウルフのかぎ爪攻撃を、アーヤが拳で弾き返したのだ。

その光景を後ろで見ていたゴサクはひと際驚愕の表情。


「ヤツの攻撃を……素手で…返した…!?

 馬鹿な……!!」


「アーヤすごい!やっぱり才能があったんだ!」


キリエに疑問を投げる小町


「な、なにがどうなって!?才能!?なんの事ですそれは!?」


一瞬ひるむクリスタルウルフ。


「やっぱり、攻撃が……見える…!!

 今なら……いけるかも!」


そう言うと、アーヤはすばやくウィンドを出し、

先ほど覚えた技を選択した。


しかし、アーヤにとっての誤算、

それはその技が発動モーションの長い技だということだった。


アーヤは拳に気を集中させるモーションに入った。


その隙を見て、クリスタルウルフがアーヤに攻撃を仕掛ける。


 (…ダメ!間に合わない!!)


アーヤがそう思った矢先、アーヤの前に魔法の障壁が現れる。


「…させない!!」


それを発現させたのはキリエ。

しかしその障壁も一瞬クリスタルウルフを怯ませるのみ、

いともたやすく破れてしまった。


「オラァ!おすわりだワンコロ!!」


オガワが駆けつけ、クリスタルウルフの脚部に攻撃を入れる。


「うおおおおおおおおおお…!!」


ゴサクも逆側の脚部に剣撃を打ち込む。


「シャフリーズ・ミィル!!!」


小町の魔法も発動。クリスタルウルフを一瞬たじろがせる。


そこで、ついにアーヤの技発動モーションが終わった。

アーヤはその全身に赤いオーラをまとっている。


「…………はああああああぁぁぁっっ!!!

 一ノ型……鉄砕……!!!」


目にも留まらぬ、痛烈な正拳突き。

クリスタルウルフの鼻先に見事クリーンヒット。


ドガアアアアァァァァン!!!


クリスタルウルフはそのままボス部屋最後方まで吹き飛ばされ、

崩れた岩壁に埋もれた。


「すごい!すごいよアーヤ!!」


「ハァ…ハァ…、私に…こんな力が…」


「アーヤちゃん……なんだ今の凄まじい技は……」


「待って!まだボスは生きています!」


小町が声を上げる。


「そうだ!ヤツが怯んでいる今がチャンスだ!

 雑魚を一掃するぞ!」


「うっす!!」


吾作の言葉と共に、全員はワーウルフに対しての攻撃を再開した。


ワーウルフの牙がアーヤを襲う。

それをアーヤは、すんでのところで見事に回避。


 (やっぱり…!相手に集中すると、動きが遅く見える!)


素早く振り向き、ワーウルフに対しパンチを放つ、

その威力は凄まじく ワーウルフは吹き飛び、

そのまま消滅エフェクトと共に消え去った。


ゴサク、オガワ、小町も次々とワーウルフを撃破。

ついにワーウルフは全滅した。


「よしザコは一層した!後はあのデカブツだけだ、いけるぞ!」


そう言って全員が部屋の奥へ目をやると

クリスタルウルフは黄色く発光し、立ったままその場に留まっている。


「あれは…一体!?」


「まてよ……攻撃を受け怯んでいるものとばかり思っていたが、

 さすがに時間が長すぎる。

 それにあの発光…。嫌な予感がするな。


 みんな気をつけろ!ヤツの技がくるかもしれん!」


「グオオオオオオォォォォォォォ…!!!!」


その瞬間、クリスタルウルフは天地を揺るがすほどの激しい雄叫びを上げた。

その凄まじい音は、超音波にも似て、

パーティー全員の体が小刻みに振動、思うように体が動かなくなった。


「こ、これは…!?」


「体が…うごか…ない!」


「しまっ…た!!」


すると依然発光しているクリスタルウルフは、凄まじい速度で猛突進。

一番近くにいたオガワをかぎ爪で吹き飛ばした。


「ぐおっ!?」


大ダメージを受け吹き飛ぶオガワ。


「オガワ!!

 あのデカブツ…こんな最後っ屁を残していやがったか!!」


さらにクリスタルウルフの動きは止まらない、

次に近くにいたアーヤに猛突進、

アーヤは未だ、しびれ動けずにいる。


「……!!!!」


そこへ割って入ったのはゴサクだった、

アーヤに代わり、その猛烈な体当たりを体で受け止めるゴサク。


「ゴサクさん!?」


「はは…!男として、

 助けられっぱなしというわけにはいかないからな!」


クリスタルウルフは首を大きく振り、ゴサクを弾き飛ばす。


「グハァ…!!」


ゴサクも壁に打ち付けられ、大ダメージだ。

オガワ、ゴサク共に息も絶え絶え、立ち上がるほどの力も残っていない。


「クソッ!ここまで追い詰めたってのに…!!」


「グオオオオオォォォォ…!!」


クリスタルウルフはさらに雄叫びをあげ、高くジャンプ。

アーヤを飛び越え、その奥にいた小町とキリエの前へと着地。

二人に向かってかぎ爪を振りかぶる。


しびれが治り始めたキリエと小町だったが、

そこは丁度、ボス部屋の角。背面は壁で逃げ場がない。


「逃げられない…!!」


「ど、どうやらここまでのようですね…」



ドガァ…!!!!



「……!!!」


キリエと小町は無事、クリスタルウルフの攻撃を止めたのはアーヤだった。


「アーヤ!!!」


「アーヤさん!」


「早く……今の…うちに……」


しかし、アーヤのスタミナもほぼ尽きようとしていた。

アーヤは勢いに負け、そのまま後方、キリエと小町の所へと弾き飛ばされる。


「ぐっ…!!!」


そこへ、クリスタルウルフが容赦なく牙を向けた。


「ここまで…なの……?」




ドガアアアアアアアアアァァァァァァァン……!!




ボス部屋内に凄まじい爆音が鳴り響いた。

それはクリスタルウルフが攻撃した音ではなかった。


「なんだ!?何が起こったんだ!?」


片膝をつき、爆音の方を見るゴサク。


土煙が上がり、周囲には大量の瓦礫が散乱していた。


「キリエちゃん!小町さん!大丈夫!?」


「うん、私は…大丈夫」


「私もなんとか…。今の音、

 い、一体何が起こったというのですか!?」


「わ、わからないけど、急に壁が崩れて……」


徐々に土煙が引いていく、まずあらわになったのは

ボス部屋に空いた十メートルはあろうかという巨大な穴だった。

そしてその穴が開いたことにより崩れた、巨大な瓦礫の山。


クリスタルウルフは、その山の下敷きとなっていた。

クリスタルウルフはエフェクトと共に消え去る。


「た、倒した……のか!?」


クリスタルウルフを下敷きにしたその瓦礫の上に、何者かの気配があった。

それは、この壁を破壊した張本人に他ならない。



「……ヤッ…ト……ミツ……ケタゾ…!!!」



舞う土煙の中、不気味な赤い目がギラリと光った。

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