第18話隠れた才能6



「マーク・サチュレイション!!」


ゴサクの技が発動。

この技は、周囲のモンスターのターゲットを自分に絞らせるものだ。

効果の精度は技レベルにより変化する。


「かかってこい骸骨兵ども…!!」


モンスターは四体。鎧を身につけ、剣を手に持った骸骨兵。

四体が一斉にゴサクへと切りかかる。


ガキィ……!!!


その攻撃を盾で受けるゴサク。

さらに盾を豪快に振り切り、逆に骸骨兵たちを怯ませる事に成功。


「軽い軽い!!!」


「ヒャッハァーーー!!!」


間髪を入れず、男が後方からゴサクをジャンプで飛び越え、

モンスター達に両手の二本の短刀で切りかかる。弟分のオガワだった。

骸骨兵にヒット。一体は倒れる。


「ッシャア!!まだまだァ!!」


振り返りざま。残り三体にも素早い斬撃を与える。


「シャフリーズ・ミィル!!!」


そこへジャストタイミングで氷系の攻撃魔法が炸裂。

骸骨兵は全員、エフェクトと共に消え去った。

魔法を放ったのは小町だ。

そこへキリエの回復魔法が三人へかけられた。


「すっご!あっという間に倒しちゃった…!

 私たちの出番なかったね、アーヤ」


「う、うん。すごい…」


「ゴサクさんとオガワさん、あなた方、かなり手慣れていますね。

 言うだけの事はあります」


「ラクショーっすよこんなの」


「もっと手強いと聞いていたんだがな。こんなものか」


ゴサクとオガワは武器を鞘へとしまう。


「油断は禁物です。最深部には無論の事、ボスがいます。

 そこまではなるべく消耗を最小限にしなければ」


「そうだな。俺たちにリトライは許されない。


 しかし……

 さっきから分かれ道が多いが、本当にこっちで合っているのか」


そう言いながらも、

ゴサクがパーティーの先頭を切り、先へと進んでいく。


「思ったより頼りになるじゃんあの人たち、

 この調子ならいけるかも、アーヤ!」


「………」


「ほらどうしたのアーヤ?行くよ」


「うん……」

 (本当は私が一番頑張らないといけないのに

 人に頼るしかないなんて…。

 冒険スキルも少し上げておけばよかったかな…)





さらにダンジョンの中を進む一行。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



そのとき、ダンジョン内に地鳴りのような音が響き渡った。

それとともに地面も揺れ、天井からパラパラと小石が落ちてくる。


「……!」


体勢を低くし、揺れが止まるのをその場で待つ面々。

程なくして揺れは止まった。


「またか……この揺れ、ダンジョンに入ってから何回目だろうか」


ゴサクが眉間にしわを寄せ、辺りを見回す。


「なんなのでしょうか?

 ここのダンジョンについては、ある程度ネットで知識を入れてきましたが。

 このような現象についての記述は、どこにも載っていなかったですね」


小町も首をかしげる。


「どこかで何かが爆発してるような、そんな感じじゃないっすか?

 まさか山が噴火するイベントとか、そんなんじゃないっすよね?」


オガワの言葉にキリエが反応する。


「え、縁起でもない事言わないでよ……」


「しかし恐れて止まっているわけにもいかない、先へと進もう」


「兄貴、ちょっとストップ、そこの壁」


「ん?壁?」


見れば、壁の一部分が不自然に色が変わっている。


「またトラップですか」


「ちょいと失礼しやす」


そう言うと、オガワが壁を調べ始めた。


「そういえば、シーフは罠の解除スキルがあるんでしたね」


小町が感心して呟く。


「やつもかなりのダンジョンで修羅場をくぐっている。

 そのあたりもお手の物ということだ」


「最初からそうしていれば、

 あの人もあんなことにはならなかったのでしょうが」


「オーケーっす」


そうこうしている間に罠が解除された。

一行が先へ進もうとしたその時、パーティー全員のウィンドウが自然に開く。

ウィンドウには赤くヘルプコールの文字が点滅している。


「!!!」


「…これは!」


TSOにはプレイヤーサポートとしてヘルプコマンドというのが存在する。

戦闘中やダンジョンで窮地に追いやられた時など、そのボタンを押す

すると、近くにいるプレイヤーにヘルプボタンを押したプレイヤーの場所が

一斉に通知される仕組みとなっている。


「どうやら俺ら以外にも、ここを攻略している連中がいるらしいな」


ゴサクの言葉にアーヤも続ける。


「…!助けを求めてるみたいですね」


「どうしますか?」


小町はパーティーを見回す。


「私達だって、余裕があるわけじゃないけど…」


と、キリエ。


「いやこういう局面だからこそ、数少ない同胞は貴重だ。行くぞ」


ゴサクの言葉に、

パーティーがそれぞれにアイコンタクトを交わし、頷く。

面々はヘルプの表示がある場所へと向かった。






「くそっ…!!ここまでか!?」


「ガルルルルル…!!」


満身創痍の、戦士とおぼしきプレイヤーが二人、

周囲には三体の狼型モンスターが取り囲んでいた。

二人の背後には壁、絶体絶命だ。


「シャフリーズ・ミィル!!!」


氷系の魔法がモンスター後方から発動、

狼型モンスターたちは一瞬にして凍りついた。


「今のうちにこちらへ!!」


そう言ったのは小町だった、

戦士たちは 小町の方へと走ってくる。


「まさか、こんな場所でヘルプを見てくれるやつがいたとは!

 すまん!恩に着る!!」


「ああ、まかせろ!」


戦士二人と入れ違いに、ゴサクとオガワはモンスターへと切りかかって行った。


「大丈夫ですか?」


キリエが戦士二人に回復魔法をかける。


ゴサクとオガワが痛烈にモンスターを攻撃する中、

モンスターの中の一体が、ゴサクたちの元を離れ飛び出した。


「…ちっ!しまった!タゲが外れたか!」


その一体は後方のグループをめがけ走る、

そのターゲットは、一人少し離れた場所にいたアーヤだ。


「……!!」


「アーヤちゃん!!逃げろ!」


ゴサクの声が響くが、

モンスターはアーヤのすぐ目前でジャンプすると

一直線にアーヤに跳びかかった。

ゴサクもオガワもフォローできる距離ではない。


「危ない!!!」


キリエが叫ぶ。


「……!!!」


「…………」


「…………??」


アーヤは瞬時に身をかわし、モンスターの攻撃をギリギリで回避した。


「……!ナイス回避!

 おいオガワ!あそこだ!急げ!」


「うっす!!」


オガワが素早く駆けつけ、その一体も撃破。

モンスターは全滅した。


「アーヤ!怪我ない!?

 すごいじゃん!あんな攻撃避けちゃうなんて!びっくりした!」


「う、うん」


咄嗟の事だったが、アーヤは少しの違和感を感じていた。


 (襲われる瞬間…一瞬スローモーションに見えたような……


 いや、気のせいかな……)





「本当にすまない、助かったよ」


モンスターに襲われていた戦士たち二人は頭を下げ、小町がそれに応える。


「被害がなくて何よりです。

 あなた方も、このダンジョンを攻略中というわけですね」


「まさか二人だけで来たわけじゃあるまい?」


「ああ、もちろんだ

 最初は八人パーティーだった。

 しかし、山を登る道中とダンジョン内で随分やられちまってな。

 残ったのが、俺ら二人ってわけだ」


「そうだったのか。それで、この後はどうするつもりなんだ?」


「さすがに戦士二人じゃどうにもならないからな。

 モンスターの目を盗みながら、おとなしく帰るさ」


「ならば、俺たちと一緒に攻略しないか?

 俺たちは最深部を目指しているんだ。人手は多い方がいい。

 良いだろう?アーヤちゃん?」


「ええ、もちろん歓迎です」


戦士たちは少し目を見合わせ考えるも、その提案を断った。


「いややめておこう。そうじゃなくても今日、

 このダンジョンには恐ろしい怪物が潜んでいる。

 とてもじゃないが、これ以上先に進むという気にはなれない」


「怪物?それってボスモンスターのこと?」


キリエが尋ねる。


「いや違う。あんたらも、

 さっきから轟音と地鳴りのようなものを感じないか?」


「ああ。…俺たちも気になっていた」


「あの地鳴りは、ここの壁や床や天井が破壊される音なんだ。

 

 "あいつ"は途方もないパワーで あらゆるものを破壊しながら

 このダンジョン内をさまよっているんだよ。

 

 あんな事を続けられたら、ダンジョン全体がいつ崩壊してもおかしくはない」


「"あいつ"だと?見たのか、その怪物を」


「……ついさっき出くわした。

 高さ五メートル以上はあろう壁を、木っ端微塵に砕いて俺らの前に現れたんだ。

 ほんと、今生きてる事が奇跡だよ」


「どのようなモンスターなんですかそれは?」


小町が尋ねる。


「いや、土煙と落石がひどくてな、身を守ることで精一杯だった。

 詳しくは見ていない。

 だが、恐ろしい気配を感じた。あれは間違いなくとんでもない怪物だ」


「だから、俺らはもう帰ると決めていたんだ。

 助けてもらったのに力添えできなくて悪いな」


「そうか、わかった。気をつけて帰れよ」


「あ、そうそう。俺らのパーティーに地図書きがいてな。

 このダンジョンの内部をある程度地図化してある。今コピーしてやるよ」


「助かります」




「じゃあ、俺らはこれで」


そう言うと、戦士二人は帰っていった。


ゴゴゴゴゴゴゴ……


再度、地鳴りと共にダンジョンが激しく揺れる。


「これ、あの人たちが言っていた化け物の仕業?」


キリエがダンジョン内を怯えた表情で見渡す。


「なんか…さっきより揺れがでかい気がしますぜ、アニキ」


「ボスとは別に特殊な魔物が出現する、あり得る話でしょうか?」


小町は怪訝な顔だ。


「まあない話ではないかもしれんな。

 ダンジョンを破壊しながら進むなんてのは前代未聞だが。


 何にせよだ、地図は手に入った。

 なるべく最短距離で

 その怪物とやらに出くわさないよう行けば問題はないだろう」


アーヤも不安げな表情。


「そ、そうですね…」


パーティーは、ダンジョンのさらに奥へと歩を進めていく。





「これは…!?」


パーティーは目の前の光景に唖然とする。ダンジョンの大部屋、

その右の壁に直径10メートル近い巨大な穴が口を開けている。

元々の構造ではなく、何者かによって開けられた事を示すように

辺りには巨大な瓦礫が散乱していた。


「どうやら…あいつらが言っていた事もまんざら嘘ではないらしいな」


「しかし、これは困りましたね」


「どうしたんですか?小町さん」


アーヤが尋ねる。


「先ほど頂いた地図によれば、この部屋をまっすぐ突っ切れば

 ボス部屋は目と鼻の先。

 しかし、その道は瓦礫で塞がっています。

 横穴からも進めますが、だいぶ遠回りになりますね」


「この瓦礫をどうにかするしかないってわけか」


「面倒っすねえ」


ゴサクとオガワは瓦礫の前へと進む。


「あ、私たちも!」


アーヤも瓦礫に近付こうするが、ゴサクはそれを制止する。


「いやこれは男の仕事だ。アーヤちゃん達はそこで休んでてくれ」


そう言いながら、ゴサクとオガワは瓦礫をひとつずつどかし始める。


「……では、お言葉に甘えて、私たちは一旦休憩としましょう」


小町がアーヤとキリエに声を掛ける。




「でも本当さ、あの二人がいてくれてよかったよね、実際」


近場の岩に腰をかけ、話すキリエとアーヤ。


「うん…」


ふと自分の手元に目をやったアーヤは、

まだ件の手袋をはめていることに気がついた。


 (そういえば、まだこれつけたままだったんだ……

 装備しててもしょうがないし、外そうかな)


手袋を外そうとするアーヤにキリエが声をかける。


「その手袋結構可愛いじゃん、外しちゃうの?」


「あ、この手袋はね、昨日プラチナさんにもらったんだけど…」


アーヤは簡単に手袋の説明をする。


「そんなすごいアイテムなんだそれ…」


キリエは手袋をまじまじと見つめている。


「私の才能はわかったし、もうつけててもしょうがないかなって」


「ちょっと待ってアーヤ、

 あの植木の花は、枯れる細工がしてあったかもっていう話でしょ?

 だとしたら、その手袋と植木が枯れたのは関係ないのかもよ」


「……うーん、そうなのかな」


「一応、まだつけておいたら?」


「う、うん。そうだね」


「それでさ、やっぱりステータスとかは変化ないの?」


「うん。大雑把にしか見てないけど、多分」


アーヤは自らのステータスを改めて見直してみる。


「そう言えば、才能値はステータスには現れないって聞いた事ある。

 いちいち全部試さなきゃいけないなんて、なんかめんどくさいよね」


「……あれ?なんだろこれ?」


「どうしたの?」


「技一覧見たら、知らない技が新しく追加されてる。

 さっきの戦闘でレベル上がったし、その時かな…?」


「ちょっと見せて。ん?…いちの…かた?何の技だろこれ……」


「だめだ!こりゃ動かんぞ!」


ゴサクの声に、座っていた面々も視線をやる。


「キリエちゃん、行ってみよう」


「あ、うん」


おおかたの瓦礫をどかし終えたゴサクとオガワだったが

中でも一際巨大な瓦礫が行く手を阻んでいた。


女子三人もそこに集まる。


「あの、ゴサクさん、お疲れ様です」


「あ、アーヤちゃん。

 いや、このでかい瓦礫だけがどうしても動かなくてな、ハァハァ…」


「ゼェゼェ…、こいつだけは動かすの無理ですぜアニキ」


「これをどかせさえすれば通れるんだがな…」


「あ、そうだ、必殺剣技でも撃ってみたらどうっすかね?」


「馬鹿野郎。そんな事をしてみろ、神器級の武器ならともかく、

 普通の剣なら一発で剣がオシャカだ」


「そ、それもそうっすね」


「神器級」とは、TSOに存在するアイテムの価値を表す言葉だ。

神々が使ったとされる伝説の神器、

それを精巧に模して造られたという神器級装備はどれも非常に強力、

かつ耐久力にも優れており、さらには現存数が極めて少ない。

非常に高価なものとして扱われている。



キリエが提案する。


「小町さん、氷の魔法得意だよね、

 岩の下を凍らせて、つるーっと、とかいかない?」


「私の魔法を使ったところで、この岩が凍るだけですよ。

 岩と地面が密着している以上、その接着面に氷は張りません」


「ひとまず、私たちも含めて全員で一回押してみるのはどうでしょう?」


アーヤの提案にオガワが反論する。


「いやいやいや、俺らでピクリともしなかったんだぜ。

 女子が加わったところで……」


「まあ物は試しだ、一度全員で押してみよう」


ゴサクの言葉に、全員が岩の片側に並んだ。

それぞれに手をかけ、体重を岩の方へとかける。


「よし、いちにのさんでいくぞ、いいな?」


ゴサクが合図を出す。


「いち、にの、さん!!」


「フンッ!!!」


「うーーん!」


「おりゃあああああ!!」


「ふうっ…!!」


「んんんんん!!」


全員が力の限り岩を押す。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


すると、音を立て、巨大な岩はあっさりと動いた。

驚く面々。


「…なんだこりゃ!?」


「動いたぞ!」


「??…意外に軽かったように感じましたが」


拍子抜けした表情の小町。

その他の面々も同じだ。


「おかしい。さっきは確かに動かなかったんだが……。

 まあとりあえず、これで前に進めるな」


「……なんかよくわからないけど、これで行けるねキリエちゃん」


「え、う、うん」


キリエが不思議そうな顔でアーヤを見ている。


「どうしたの?」


「う、ううん、なんでもない」


そしてパーティーはその大部屋を抜け、

ボス部屋へと向けて歩を進めるのだった。

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