第9話SSランクギルド ギルマス会議2

「皆さん~手作りのケーキです~、どうぞぉ、お召し上がりください~」


そう言いながら、会議室の長いテーブルに

マカロンがケーキとお茶を置いて回る。


「あらマカロンさん。ごきげんよう、今日もお可愛らしいですわね」


ロリータコルセティアのギルマス、ザッハトルテが話掛ける。


「こんにちはぁ~お久しぶりですねぇ」


「マカロンさん、まだこのギルドにいらしたんですの?

 うちのギルドには、いついらして下さるかしら?

 あなただったら、いつでも歓迎いたしますのに」


「わ、私も~、もうここ、結構長いですのでぇ」


マカロンは少々困り顔を浮かべている。


「ザッハトルテさん、メンバーの引き抜きなら、

 できればギルマスの見えないところでやって頂けるとありがたいのですが」


と、アルフォート。

西方鉄機騎士団のギルマス、アイゼンも話に加わる。


「そう言うならザッハトルテ殿。

 貴女こそ、我がギルドへ向かい入れたい。

 貴女のその類稀なる能力、まさに我々が理想そのもの。

 そのような仮装ギルドにおられるより、我がギルドが最適ではないだろうか」


「アイゼンさん…、

 アナタはわたくしを、引き抜きたいのか怒らせたいのか

 はっきりして頂けますこと?

 それにわたくしから見れば、

 あなた方のほうがよっぽど仮装ギルドに見えましてよ?」


その言葉に、クルーアンドグルーのギルマス、ロクトールも反応する。


「おっと聞き捨てなりませんね~。仮装と言えば僕たちクルーアンドグルー

 その点は譲れませんよぉ~」


「どうでもいいわそんなの。

 それより、うちの妹は元気にしてる?」


ウィザードリィアカデミアのギルマス、リングがザッハトルテに問い掛ける。


「元気かどうか知りたければ、直接会って聞けばよろしいでしょうに。

 あなた方は現実で姉妹なんでしょう?」


「は?顔もしばらく見てないわ。見たくもない」


「今日は、ここの城下町でショッピングでもしているのではないですか

 もしお会いになりたければ、ご自由にどうぞ」


「は?冗談」


「さあ皆さん、世間話もいいですが、そろそろ本題に入りましょうか」


アルフォートは改まって話し出す。





---------


「おいコラ!離せ!どこに行くってんだよ!?」


一方その頃、ソグ。

ツインテールのジト目少女に服を引っ張られ、

ローシャネリアの街の中を歩かされていた。


「ちょっと、あの二人、何かしら?」


「事案か…?」


周囲のプレイヤーからは、怪訝な目が注がれている。


「おいおいちょっと待て!勘弁してくれ!

 変な噂が立っちまったらどうすんだよ!」


引っ張られながらソグが話しかける。


「私……気にしない……」


「ちげえよ!こっちが気にするんだよ!

 大体、どこに向かってんだよ!?

 知り合いとはぐれたんだろ、

 ていうか知り合いはこの街にいるんだろ!?」


「うん……この街にいる……」


「だったら!さっさとそいつと連絡取れよ!

 迎えに来てもらやぁいいじゃねえか!」


「…今は無理……」


「無理ィ!?どういう意味だ!?

 おいちょっと!だから引っ張るな!服が伸びる!」


二人が着いたのは、中心街のショップエリア。その中でも、

主に女性ファションの店が多く連なっている地域だった。

ジト目の少女は、わずかながら瞳を輝かせている。


「これ……見たい……」


「はぁ!?じゃ一人で見ろよ好きなだけ!

 俺は帰らせてもらうか…おい!やめろ!コラ!」


ソグは服を引っ張られ、店の中へと引きずり込まれていった。





---------


一方、クラインノクスの会議室。

一番奥の席に座るアルフォートが声を出す。


「まずは襲来クエストについて。何よりも、これが第一でしょう」


襲来クエストとは、街や都市に対して、

モンスターが群れを成し襲いかかってくるイベントだ。

それはギリギリで予告あるものの、ほぼ抜き打ちに近い形でで行われ、

その場に居合わせたプレイヤーが協力し、

モンスターを払いのける事でクエスト成功となる。

クエストの中でも難度の高いレアクエストのため、報酬も大きいのだが

同様にリスクも高い。


「ノースフェンリル陥落の後、ギルマス間で自主的に始まったのがこの会議じゃ。

 あのような災害を未然に防ぐ、それがこの会議の本懐であるからの」


豊穣商連のギルマス、焔だ。

リングも追随して問い掛ける。


「そういえば、ジークハイルさん。

 前々から聞こうと思ってたけど、

 あなたはギルドの名前の通り、ノースフェンリル出身だそうね?」


フェンリルゲイツのギルマス、ジークハイルが少しの間をおいて話し出す。


「そういや、こういう場で話した事なかったな。

 ……………………

 あーそうだ。

 まったく"アレ"には参ったよ。


 正式サービスが始まってそんな長い日にちたっちゃねえ時さ、

 みんなやっとこさ戦うのに慣れてきたかってとこだ。

 都市間の連携はおろか、街の中でさえまともな統率なんてとれてやしねえ。

 そして急遽起こった来襲クエスト。あえなく失敗。

 だからもう今後、この都市はホームとして使えません、ってな。

 全く、運営もやることがエグいぜ」


「実際、それが原因で引退した者も多いと聞く」


六氷組のギルドマスター、六氷も話に入る。


「あー、そりゃもう地獄絵図だったからな。

 俺のツレも何人もやめちまったよ」


「地獄絵図…ひえぇ~…

 ここの運営は、

 たまに何を考えているのかわからない時がありますよねぇ」


ロクトールは大げさに身震いのジェスチャーをする。

アルフォートも声を出す。


「それが良さでもあり、悪いところでもあるのかもしれませんね。


 で、ここローシャネリアは相変わらず、人口戦力共に右肩上がりです。

 中堅以上の力を持ったギルドも多く、我々もいる。

 おそらくは来襲クエストにたいして、無難に対処できると予想されます。


 セントティアラも見たところ、着実に戦力が整ってきているように窺えますが、

 いかがですか?」


アイゼンがそれに応える。


「うむ、確かにな。人口も増えている。

 新進気鋭のギルドも、次々と頭角を現している」


「むしろクエストが楽しみなくらいでしてよ?」


ザッハトルテも同意する。


「問題があるとすれば残り2つ…」


「俺も、その事を今日は話したい」


六氷が口を開く。


「ヤマトの人口は相変わらずの横ばいだ」


「あそこは、人を選びますものね」


「他の都市にホームを移すギルドも増えている。

 もし、大規模で難易度の高い来襲クエストが起こったとして、

 果たして我々だけでホームを守りきれるか、

 不甲斐ない話だが、なかなか言い切れない現状がある」


ロクトールも慌て気味に手を上げる。


「はいはい!それを言うなら僕たちのニューディライトもそうですよ!

 確かに人口はローシャネリアに次いで多いですが、

 ルーキーばかりなんですよ。

 なぜか大手ギルドもいないし、

 戦力はあるけどそれをまとめ上げる人が足りてないんですよぉ」


少し考えて、アルフォートが口を開く。


「なるほど。状況はわかりました。


 ヤマトに関しては近々、

 我々のクラインノクスの支部を作るという計画が出ています。

 今、その派遣メンバーや支部の場所についても検討している段階ですので

 もしそうなれば、いざという時、力添えをすることができる」


「うむ…背に腹は代えられぬか。俺は歓迎する。


 ただ…ヤマトは他都市の者を排他しようとする勢力も多い…。

 すまないが、少し覚悟をもって来てもらうのがいいだろう。

 俺にできる事があれば、協力をさせてもらう」


「そういう気質は相変わらずじゃのう、あそこは。

 ワシももとはヤマトの出、今は物資の充実くらいしかできぬが、

 他にできる事を探しておくとしよう」


焔がキセルをふかしながら話す。


「…かたじけない」


「ニューディライトについては、潜在的な戦力は高いように見受けられます。

 あそこの中小ギルドのギルマスには、私の知り合いも多い、

 いざというときのため、話し合いの場の設立を提案してみましょう」


アルフォートがロクトールに向け話す。


「ありがとうございます!いやぁ~さすがに顔が広いなぁ~」


ジークハイルも口を開く。


「俺らも今、たまたまその近くの狩場をよく使うんでな。

 ニューディライト近隣にいる事も多い。

 俺らがいる間は、何か起これはすぐに駆けつけてやる」


「それならばいっそ、ニューディライトに正式な拠点を置かれては?

 あなたたちがいてくれれば、

 僕ら結構安心して過ごせるんですけどねぇ~」


少しの沈黙の後、ジークハイルが応える。


「悪いな、俺らやっぱ今は根無し草が性に合ってる。


 まあ…なんつうかな、そんな事言ってみても、

 うちの連中はみんな思ってんだよ、いつかあそこに帰りたいってな。

 やっぱりなんだかんだ言って、"あそこ"は俺らのホームだからよ…」


場にしばしの静寂が訪れる。


「ワリィワリィ、なんかツマンネェ空気にさせちまったな」


アルフォートが話す。


「陥落があった以上、おそらく…いや、ほぼ間違いなく

 それを奪還するための何らかのクエストも行われるはずです。

 その際は、私どもも参加させて頂きますよ」


ザッハトルテも同意する。


「ま、退屈な日々の暇つぶしには、丁度いいかもしれませんわね」

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