第8話SSランクギルド ギルマス会議

「おい~、まだ街に着かねえのか~もう疲れたぜ…」


「あ!?おめえが歩いて行くって言いだしたんだろうが、ソグ!

 もうすぐそこだ、見えてきただろ」


「お二人とも!早く!急ぐでござるよ!」


大都市ローシャネリアから少し離れた街道を歩く3人。

ソグ、ガルフ、タルタルだった。


ギルドでの演習を終え、街へと帰還する途中。

街に近づくにつれ道は舗装され、モンスターの出現率は低くなる。


「全くおかしいよなぁ、

 馬が手に入ったら、普通のゲームなら乗れるだろ、

 なのにTSOは馬乗るのにも技術が必要って……めんどくせえ

 他のギルメンらはさっさと馬に乗って帰っちまうし、

 残ったのはよりにもよってこの3人かよ…」


ソグがぼやく。


「まったく、まだまだなってねーなぁ」


「お前もな」


「だから拙者は帰還アイテムを使おうと言ったのでござるよ!

 な、なんと!もうこんな時刻でござるか!

 お二人とも!急いで!」


タルタルは急いだ様子で一人、先に進む。


「移動アイテムも何気に貴重品だからなあ、バカにならねぇ…

 つうか、今日は妙に急いでんなあタルタル。

 そういや、他のギルメンたちもなんか急いで帰って行ったけど

 今日、なんかあるのか?」


「なんかあるのかって…、お前今朝、話聞いてなかったのかよ」


「今朝?あーそういやなんか言ってたなあ…

 俺は眠くて全然覚えてねえけど。朝弱えんだよ」


「ったくお前…」


タルタルは慌てた様子でウィンドウを開き

フレンドコールをする。コール先はマカロンだった。


「はい~、何でしょう~?」


ウインドウにマカロンが映し出される。


「マカロン殿!お忙しい中申し訳ない!そちらの様子はどうでござるか!」


「こちらですかぁ~、準備はほぼ終わりですね~、

 後はご来客を待つだけです~、たぶん皆さん~

 そろそろぉ、来られるんじゃないでしょうか~」


「そうでござるか!かたじけない!」


「おうソグ、タルタル最近、よくマカロンさんと話してるよなぁ~

 大丈夫か?

 大好きなマカロンさんがあのデブ忍者に取られっちまうぞぉ~」


ガルフはにやけ顔でソグの方を見る。


「…は?お前何言ってんだ!?馬鹿じゃねえの!?」


「顔真っ赤にしやがって、わかりやすいなぁおめえは。

 剣の腕は、まあそこそこ認めてやってもいいが、

 まだまだそういうところがガキだっつってんだよ」


「うるせ!ほっとけ!

 んな事より、今日やるって、一体何なんだよ?」


「あー、その話な。

 SSギルトのギルマス会議だろ」


「なんだそりゃ?」


「お前…。まじで何も知らねえんだな」


「まあ俺は強くなることしか考えてねーし」


「あーそうかよ。

 SSギルトのギルマス会議っつうのはだな、

 TSO内に山ほどギルドがあんだろ、

 その最高峰がSSランクギルドだ。それが10ある。

 そのギルマスが定期的に会談をして、

 情報交換やら注意喚起やら話し合うって事だよ。

 それが、ギルドランク一位の

 うちのギルド拠点で行われるのが通例ってわけだ」


「えっ…!!!

 まじかよそれ!?

 なんでそれを早く言わねえんだよ!そんなん見るしかねえだろ!

 ギルド最高峰のギルマスって言ったら結局

 全プレイヤーの最高峰って事だろ!?」


「"壊剣"みてえにどこにも属さねえ例もあるし、

 敢えてランクを上げねえギルドもあるらしい、何とも言えねえところだが

 まあ、最高峰に近いのは確かだろうな」


少し前を歩いていたタルタルも話に加わる。


「動画を作る上で、このような絶好な機会はござらぬ!

 拙者がギルドに入ったのも、このような好機があるゆえ。

 少なくとも会談が始まる前に、拠点に戻らねば!急ぐでござるよ!」


「オーケーわかった、急ぐぞ!

 こんな事なら、ケチらずにアイテム使ってりゃあよかったなあ」


3人は急ぎ気味に街へと歩を進める。

場所はちょうど街の北門。

街の中に入れば、ギルド拠点まで歩いてさほど掛からない。





「にしてもよう、

 最近入った新入りは全くもって骨がねぇよなぁ、根性が足らねえ」


「…もうベテランのような口でござるかガルフ殿。

 拙者らとて、大して変わらぬでござる」


「何言ってんだよ俺らもうベテラン…いてっ!?」


そう言いかけた時、ガルフは前を歩いていたソグに軽くぶつかる。


「何急に止まってんだよソグ!ぶつかるだろうが!さっさと歩け!」


「いや、こいつが……」


「は?こいつ?誰かいるのか?」


そう言ってガルフがソグの前を覗き込むと、ソグの目の前に一人の少女がいた。

行く手を阻むように、ソグの方を向いてピタリと静止している。

歳は12、3といったところ、フリルの多い薄ピンクのワンピース。

髪は花緑青色、ツインテールで地面に付くほど長い。

左右の大きなリボンが特徴的だ。

その恰好に反し、目は据わっており、表情からは感情が読み取れない。


ソグが避けようと左に行けば、すかさずその少女も左へ。

右へ素早く移動すると、ほぼ同時に右へ。

バスケットのディフェンスを彷彿とする動きで行く手を阻み続ける。


「おい、何やってんだお前…通れないんだけど」


「……」


ソグの問いかけにも黙ったまま、その少女はソグをジト目で見つめている。

ガルフがそんな二人に声をかける。


「何やってんだお前ら?て言うか珍しいな、

 こんな年頃の女がこんなところ一人でいるなんてな。

 大体は保護者とか友達とか一緒にいるだろ、もしかして…迷子か?」


「ゲームで迷子でござるか…?」


その間も、ソグとジト目の少女の睨み合いは依然続いている。


「…………」


「…………」


ソグはノーモーションで左へダッシュ、

急停止、一度右に行くと見せかけ、さらに左にダッシュ。

しかし少女は全てのフェイントをものともせず、ピタリとくっつき

ソグの動きを踏襲する。


「…………」


「…………」


「ソグ、お前好かれたんじゃないか?」


「はぁ?なんで俺が」


「よかったでござるなソグ氏。

 しばし遊んであげてはいかがでござるか?」


「ふざけんじゃねぇ!こっちはさっさとギルドへ帰りてんだよ!

 おいお前!そこどけ!邪魔なんだよ!」


しかし少女は言葉を発しない。退く様子もない。


「あいにく俺はそういう趣味はねぇんだ。ワリィな、先に戻ってるぜ」


困っているソグの肩をポンと叩き、

ガルドはソグの横を涼しげな顔で通り抜ける。


「拙者ももう少し成熟した女性が…ゴホン、もとい

 動画師としてやらねばならぬ仕事がある故、失礼つかまつる」


タルタルも同じように肩を叩き、通り過ぎる。


「あっ!おい!お前ら!何勝手なこと言ってんだよ!

 ちょ、おい!待てコラ!!」


二人はソグを置き、街の中へと歩いて行った。


「あ、あいつら…後でコロス……」


恨めしそうに拳を握るソグ。

するとジト目少女はソグの服を手で掴み、初めて口を開いた。


「……はぐれた…」


「はぐれたってやっぱお前迷子かよ!そんなんその辺探しゃいいだろ別に

 モンスターが出てくるわけでもあるまいしよぉ!」


「…一緒に来て…」


「一緒に来てって……

 …なんで俺がそんなことしなきゃなんねぇんだ!?

 おい!ちょっと…!やめろ…!」


ジト目の少女はソグの服を引っ張り、無理やり街の中へと連れていった。





------------



ギルド、クラインノクスの拠点として使われている小城。

そこでは今日、ギルドマスター会議が開かれるべく準備が行われていた。


広い会議場には大きく長いテーブルが置かれ、

その一番奥にアルフォートが一人、静かに座っている。


アルフォートのウィンドウに連絡が入る。


「各ギルマス様、到着されました」


「分かりました。それでは、会議室へお通ししてください」


「了解しました」




しばらくすると、そこへ8人の人物が入ってくる。

各々、用意された長いテーブルの席に座り

全員が着席したところで、会議室のドアが閉められた。


「………………

 皆さん、お久しぶりですね。

 お招きする立場でありながら、このような場所から失礼致します」


「あなたの嫌味を聞きに来たんじゃないんだけど?」


「ガッハッハ!!まあそうピリピリすんなよ!」


席に着いた者たちから声が上がる。


「情報とは即ち力。

 されども、ワシらも惜しい時間を割いてここに来ているのじゃ。

 有意義な会議にしようではないか」


そう言ったのは

ギルドランク第2位、豊穣商連のギルマス、焔(ほむら)だった。

髪は長い黒髪、肌は白く、眼の赤い化粧が印象的な女性。

年頃は二十代半ばといったところだ。

キツネの耳と尾を持ち、十二単のようないくつも折り重なった着物を着ている。

キセルをふかしながら話す雰囲気は、妖艶さを醸し出していた。


豊穣商連は、世界の各主要都市にその拠点があり、生産系ギルドの頂点

実質的に全ての生産ギルドや商店を

管理下に置いていると言っても過言ではないギルド。


ギルド要員の規模は第1位のクラインノクス以上とも言われているが、

戦闘系のプレイヤーが少なく、ギルド戦において少々不利があるため、

二位に甘んじている、という節もある。


「ま、たまにはいいんじゃねえの?

 こうやって昔馴染みの腐れ縁連中と、ツラ合わせるってのもよお」


そう言うのはギルドランク第3位、

フェンリルゲイツのギルマス、ジークハイル。

二十代半ばの屈強な大男。鎧に身につけ、大剣を背負う姿は

いかにも手練れという雰囲気だ。


フェンリルゲイツは一般的に

一位のクラインノクスの陰に隠れてしまいがちだが、

中堅以上の冒険者の間では、戦闘系ギルド筆頭として知らぬ者がいない。

戦いと強さに対して非常にストイックなギルド。

どの都市にも主要となる拠点を持たず、小さな街に仮の拠点を作る事もあれば、

森や山等のフィールド上にテントを構え拠点とすることもある。

ギルド全体からしても珍しい、回遊型のギルドだ。


「でも、私は都合が良かったわ、

 ちょうど今、旬なネタがあるのよ。あの人にちょっと聞きたい事がね。

 ウフフフフ…」


そう言って不敵な笑みを浮かべるのは、

ギルドランク第4位、ウィザードリィアカデミアのギルマス、リングだ。


20歳前後の女性。

サイドが開き、非常に露出度の高いいわゆるボディコンという格好。

髪は黒く、セミロング。ピアスや首輪、指輪、

ギラギラとした装飾品が多いのが目につく。

口の横のほくろも特徴だ。


ウィザードリィアカデミアは

西方にある都市、セントティアラに拠点を置く魔術師系ギルド。

魔法職を志すときに、まず選択肢の筆頭に上がる、

攻撃系魔法職の登竜門と言っても差し支えのないようなギルドだ。

魔法職内におけるシェアは非常に大きい。


「あのような悲劇を生むまないためにも、この会議は必須。

 私は喜んで参加させてもらう」


次に発言したのは、ギルドランク第5位、

西方鉄機騎士団のギルマス、アイゼンだ。


全身、物々しい鎧で覆われており、顔にも兜、体格が大柄という以外、

その容姿は窺い知ることができない。

西方鉄機騎士団も西のセントティアラに拠点を置き、

ギルドメンバーは皆、全身鎧に身を包んだスタイルが基本だ。

内部の規律が厳しいと周囲ではもっぱらの噂、

戦闘に関しても彼らなりのこだわりがあり、

攻撃よりも守りを重視した、堅実な戦い方に重きに置く。


「うむ、その通りだな……」


多くを語らず腕組みをし、じっと目を閉じる巨漢の男、

ギルドランク第6位、リミットブレイカーのギルマス、ゴルゴンゾーラだ。


三十代半ば、坊主頭に髭、その体格はこの場の誰よりも巨大で筋骨隆々。

いかにもパワー型の戦士といった風貌だ。


リミットブレイカーは中央都市ローシャネリアに拠点を置き、

その名の通り、力の探求を主とするギルド。

ギルド内でも男性の比率は非常に高く、荒くれ者も多いなか

その全てをまとめあげられているのは、

ギルマスの圧倒的なパワーを裏打ちしているものだろう。


「…左様。俺もその件で相談がある」


ギルドランク第7位、六氷組のギルドマスター、六氷(ろくひょう)。

着物に羽織、懐には刀。その容姿はいかにもな侍。

右目には眼帯。顔には刀傷がある。

髪は長いが、後頭部でまとめて結ってある。


六氷組はこの中では唯一、東方の都市、ヤマトに拠点を置くギルド。

その内情はあまり知られていないが、

ギルド戦などの戦闘面においてはどのギルドからも一目を置かれる。


ヤマトは純和風をモチーフにした都市であり、

他の国とは若干色が異なる都市であると同時に、

他の主要都市との繋がりが薄いという特徴もある。


「また9位のかたはお休みですの?

 わたくしだって、色々な予定をキャンセルして来ていますのに…。

 まったく良い御身分ですわね」


そう言いながら怪訝な顔をするのはギルドランク第8位、

ロリータコルセティアのギルマス、ザッハトルテ。

歳は非常に若く、12、3といったところ。

服装は白いミニのゴスロリ服。髪は金髪のセミロングで縦ロール。

いかにもお嬢様といった雰囲気だ。


ロリータコルセティアは西のセントティアラに拠点を置くギルド。

メンバーは皆、ゴスロリやフリルの多い服を着るのが決まりだ。

ギルドに入れるのは女性限定で、容姿の良さと戦闘の実力を兼ね備えた者のみ。

TSO内で最も入るのが難しいとも言われるギルド。


ネット上における人気も非常に高く、ファンサイトなども存在するが

その中でも特に注目されているのは

ギルマスのザッハトルテと、筆頭魔術師のティッティ。

容姿端麗もさることながら、この二人がタッグになった時

TSO内で勝てる者が存在しない、という噂まである。


「いやー、すごいなあ!有名人ばかりだ!

 僕もこの場でご一緒できるなんて感激ですよ!嬉しいなあ~

 あ、ザッハトルテさん!よかったら後でサインを…」


話しだしたのはギルドランク第10位、

クルーアンドグルーのギルマス、ロクトール。

顔半分に仮面をつけ、もう半分の顔にもペインティングが施されている。

ピエロのような格好だ。


クルーアンドグルーは南方の都市、ニューディライトに拠点がある

いわゆるネタ系キャラのギルド。

メンバーは皆、仮面や着ぐるみ、その他奇抜な衣装を身に着けている。

前回会議までは少し下のランクにいたものの、

ギルド戦などによるギルドランクの変更に伴い、今回初の会議参加となった。


今回空いている第9位の席、

そこはギルドランク第9位のブラッドダッドのギルマス用の席だが、

ブラッドダッドのギルマスは、会議発足以来、

一度もこの場に現れた事はなかった。

ギルドランクも、

PKなどによるペナルティが差し引かれた順位となっているため

ブラッドダッドの実力に関しては未知数な部分が多かった。



集ったメンバーを一通り見渡し、

ギルドランク第1位、クラインノクスのギルマス、

アルフォートがにこやかに話し出す。


「普段はギルド戦など、いがみ合う事も多い我々ですが、

 今日ばかりは休戦ということで。

 第13回、SSギルドギルドマスター会議を始めさせて頂きます」

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