第10話SSランクギルド ギルマス会議3

ローシャネリアの中心街ショップエリア、

ファッションの店が立ち並ぶ一角。その店内。

相変わらずジト目の少女に引きずり回されるソグの姿があった。


「な、なんで俺が

 こんな見ず知らずのヤツに付き合わせれなきゃなんねぇんだ…

 うっわ…もう完全にギルマス会議始まってるしよ…


 おい、もういい加減離してくれ!」


しかし少女は聞く耳を持たず、ソグの服を掴んだまま店内を物色している。

相変わらず目は据わっているものの、多く並ぶ服を目の前に、やや興奮気味だ。


「いらっしゃいま…

 え、何あの二人?カップル?

 それにしても女の子若すぎない?」


「ひそひそ…」


行く先々、店々で、二人には疑惑の眼差しが向けられる。


「もう終わりだ…

 最強の剣士になっても、その上に変態という冠付きだ…

 "変剣"とか呼ばれんのかな……

 俺の輝かしいロードが…ハハハ…」


虚ろな目で虚空を見つめるソグだったが、少女はお構いなしだ。

一通り買い物が済んだのか、

店を出て周囲をキョロキョロと見まわしている。


そして何かを発見し、ソグの服を強く引っ張る。


「……食べたい…」


「はあ?」


「……あれ…」


そう言って少女は、アイスクリームの露店が出ている場所を指さした。

馬車を改造した移動型店舗の前に、

パラソル付きのテーブルと椅子がいくつかこしらえてある。


「あー、そうですか…」


ソグは呆れを通り越し、すでに争う言葉すら失っている。


アイスクリームの移動露店の前にやってきた2人。

その前には、すでに客が3人ほど並んでいた。


「…席……取ってる…」


そう言って少女はソグを列に残し、

近くにあるテーブルの椅子にちょこんと腰をかけた。


「…何これ?俺が金払うの?ほんと何なんだ今日は…

 厄日だ…厄日に違いない……」


「おーい、何ぶつぶつ言ってんのお兄さん?

 アイスクリーム買うの?」


そう言っている間にも、

気付けば前にいた客は捌け、ソグの順番だった。


「…あ、あー、すんません、買います。

 1つ……あ、いや、2つで」


「2つね、毎度~」


ソグががアイスクリームを買って振り向くと、

先ほど少女が座っていたテーブルの周りに、3人ほど人が集まっていた。

周りにいるのは男性プレイヤーたち、

少女に向かって、しきりに話しかけている。


「うっわ、超可愛いじゃん!」


「ね、こんなとこで何してるの?」


「萌え~、お兄さんたちとどっか行こうよ!」


少女は問い掛けにも返答をせず、

相変わらずの無表情ながら、少し困っている様子も窺えた。

その様子を見てため息をつくソグ。


 (はぁ~、ロリコン共が……

 なんで俺がこんな面倒事に…………いや、待て待て。

 今だったら普通にこのまま帰れるじゃねえか。

 俺があの女をどうこうしてやる義理もねえ

 てかそもそも、あいつも三人も遊び相手ができて良かったろ。


 今城に戻れば、会議の終わりのくらいには間に合うかもしれねえ。

 よっしゃ、俺はこのまま消えさせてもらうとするぜ)




------------


クラインノクス拠点内の大会議場では、

SSギルドギルマス会議がなおも続いていた。


「………」


リミットブレイカーのギルマス、ゴルゴンゾーラは終始寡黙。

腕組みをしながら眉間にしわを寄せ、眼を閉じている。


「それでは次に、私の方から別件でお伝えしたい事がひとつあります。

 説明の前に実際にご覧頂いた方がいいでしょう、

 この録画したゲーム内映像をご覧ください」


そう言ってアルフォートが場の全員に見せたのは、

先日のギルド試験時に起こった、

ブラッドラッドメンバーによる襲撃の様子だった。


「おおこれか。動画サイトに上がってんの俺も見たぜ

 やっぱこれ、マジだったんだなあ」


ジークハイルも興味深げだ。


「これは先日、当ギルド審査会場で起こった出来事です。

 志願者の中にブラッドダッドのメンバー、およそ二十名が潜み

 試験参加者に剣を向け、あわよくば試験そのものを

 破綻させようという魂胆だったようです」


「ふーん、なるほどね……」


リングの表情には言葉に反した含みが感じられる。


「またこの輩たちか、このような痴れた行為を……

 まったく嘆かわしい事だ」


アイゼンは軽く首を振り、呆れた様子。


「金品が目当て……というわけではなさそうじゃのぅ」


焔が口を開く。


「動機を聞けば、面白いからと、そう言ってましたね」


「らしいっちゃらしいな」


「この動画にあるように、

 今回は、私をはじめとしたギルドメンバーが紛れる事により

 なんとか事なきを得ました。


 しかし今後も、彼らがこういう行動に出る事が考えられます。

 我々のところに矛先が向く可能性もありますが、他のギルド

 特に目立っている、SSランクギルド、

 つまり皆さんのところへ仕掛けてくる可能性も比較的高い

 そう考えておいた方がいいでしょう」


「会議には来ない、他のギルドに平気でちょっかいを出す

 PKが絶対悪いとは言わないけど

 もうちょっと行儀よくしてもらいたいものね」


リングの言葉に六氷が応える。


「そもそもが…素行の悪い連中の集まりだ。

 やつらにはおそらく、口で何を言ったところで無駄だろう」


ザッハトルテも口をはさむ。


「野蛮な方々ですわね。

 ま、わたくしのところは女性限定ギルドですので、

 この動画のような心配はないかもしれませんけれど」


アルフォートがそれに応える。


「いえ、油断は禁物です。

 我々が得た情報によれば、女性メンバーの存在も複数人確認されています」


「まあ…嫌ですわ~」


「とにかく、

 ギルドメンバーの危険を可能な限り解消するのも我々ギルマスの仕事、

 このようなケースもあるという事を、頭の隅に置いて頂ければ幸いです。


 …と、私の方から今回はこのくらいでしょうか。

 他に案件がなければ、今回の会議はお開きとさせて頂きますが?」


「ちょっといいかしら?」


そこに手を上げたのはリングだった。

皆の視線が集中する。


「そういえば、リングさん

 誰かに聞きたい事があると言っていましたね?

 何か気になる事がおありですか?」


「またしょうもねえ事じゃねえの~?」


ジークハイルは気持ち半分という態度だ。


「べつに、無理強いはしないわよ。

 興味がない人は、どうぞご自由にご退席ください。


 私が話に挙げたいのは、他でもない"竜の女"についてよ」


「……!!」


少しの静寂が流れるが、席を立つ者はいなかった。


「ウフフフ、やっぱり皆さん気になるようね。

 それはそうよね。時の人だものね、ウフフフ…」


リングは不敵な笑みを、アルフォートへと向けていた。




------------


「ねぇねぇさっきから黙ってどうしたの?」


「いいじゃんか!ちょっと遊びに行こうよ!」


アイスクリームの移動露店の近く、

テーブルに座る少女の周りには、相変わらず男たちが囲み、

しきりに話掛けている。


「おい、俺の妹に何か用か?」


そこへ割って入ったのはソグだった。

男達はソグを見ると途端に表情を曇らせる。


「…んだよ、一人じゃなかったのかよ…」


「なんでもないわ、じゃあな~」


男たち三人は、文句を言いながら場を後にする。


「まったく、帰れやロリコンどもが」


「………」


小声で毒を吐くソグを、少女は相変わらずのジト目で見つめていた。


「お前が何も言わねえから、ああいうのがつけあがんだぞ

 やるときゃビシッとやらねえと


 ………ほらよ、アイスだ」


そう言ってソグはアイスをひとつ少女に手渡す。


「……ありがと…」




アイスを食べ終え、また少女に引っ張られながら街を歩くソグ。

もはやギルマス会議の事は諦めた様子だ。


「…おいおい、

 お次はどこ行こうっていうんだよ、もう気は済んだろぉー?」


「……そろそろ終わる…」


「終わる?何が終わんだよ?」


「…あの子の…用事」


「あ?用事?あの子?


 あーそうかそうか、わかった。要するに、

 お前のツレは用事があって迎えに来られなかったんだな。

 で、その用事が終わると。

 じゃあそろそろそいつに連絡しろよ、迎えに来てもらえ」


「…こっちから行く…」


「………あーそうなのね。

 それでもちろん俺も行かされると、はぁ~、ったくよう…」


そう言ってまた歩き始めた二人だったが、

少し進んだところで、少女の目前をまた男が二人立ちはだかった。


先ほどの男たちより、体格のいい二人、

決して綺麗な身なりとは言えない、屈強な戦士という風貌の二人だ。


その内の一人が、少女を凝視しながら声をあげる。


「おい!やっぱこいつ間違いねえ!奴だ!!」


「おいテメェ、俺らの事覚えてるよなあ?」


いかつい男たちが、さらに顔をしかめて少女を威圧する。


「……誰……」


「お、おいおいおい!!マジか!?

 覚えてねえってどいう事だ!?


 ひとんところのギルド拠点、焼け野原にしといてよぉ!

 こっちはおめえの顔、忘れたくても忘れられねえのよぉ…!」


 (また絡まれてるよコイツ…

 つか、ロリコンしかいねえのかここは…)


その様子を後ろで見ていたソグだったが、少女のと男たちの間に入る。


「あんたら、こんな子供に因縁つけてどうしろって言うんだよ

 んな事やってる暇があったら…」


「あ!?お前は黙ってろ!」


ドン…!


「うわっ!?」


屈強な男はソグを手で強く突き飛ばす。

ソグはやや後方へと尻もちをついた。


男たちは、なおも少女へ迫る。


「おいこいつ…もしかして、今一人なんじゃね?」


「そうだなあ、どこにもあの女の姿が見えねえ。

 こりゃあ、チャンスかもなあ…あの時の礼をするよぉ。


 あの女さえいなきゃあ、コイツなんか大したことねえからなあ!」


「………」


男たちは少女へさらに近づき、睨み付ける。

ジト目の少女は相変わらず無表情のまま、微動だにしない。


「なあ、今から決闘しようぜ?」


二人組のうちの一人の男が、少女に言う。


「は?決闘!?女相手に何言ってんだオッサンら!?」


その言葉に、ソグも慌てて立ち上がったが

男はかまわず、少女の鼻先すぐまで顔を近付け挑発する。


「あの女がいねえと何もできねえってか?あ?

 怖くて逃げるか?ああ??」


「………」


「おいおい、オッサンら落ち着けって!

 焼け野原とか礼とか、こんな子供に何言ってんだよ!?

 人違いしてんじゃねえのか?」


「……2対2…」


「ケッケッケ!そっちのガキか!

 よしいいぜえ!2対2!決まりだな!」


「…は?……

 …………はあああああぁぁぁ!?


 何言ってんだお前!?なに決闘なんか受けてんだよ!?

 正気か!?」


「…やるときは…ビシッと……」


少女はソグに向かって、親指を立てて見せる。


「………………。


 いやいやいやいや!!

 そういう事じゃなくて…!!」

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