第6話最強の剣士を目指して5


「フード野郎はいまいち信用できねぇが

 もうこうなっちまったんだ、やるしかねぇ!」


声を掛けたガルフとソグが最前列。

少し後方にタルタルとエト、さらに少し後方にマカロンという陣形。

互いに今までの戦闘を思い出す。


バーサクモードのオークの目は赤く光り、巨大な刀剣を構えている。


「アッパー系の魔法をかけます、少しお時間をください!」


声を出したのはマカロンだった。


「了解!っしゃあ!!」


ソグはオークへ向け、弓なりに走り出し、オークの足に切りかかる。

オークもそれに反応し武器を振り下ろす、が

走った勢いのままにソグはそれを回避。


「切った時の感触が全然違う!防御力も段違いだぜ!」


オークの攻撃モーションが終わるとほぼ同時、

今度はガルフが走り、飛びかかる。大剣で縦に一閃。

たじろぐかに見えたオークだったが、一瞬にして大勢は攻撃に切り替わり

着地直後で無防備なガルフにと巨大な刀剣が襲う。

そこに、エトの魔法雷系の魔法が命中。

詠唱時間の短い簡易魔法のため、ダメージは期待できないものの

モンスターの攻撃モーションを静止させることはできた。

その隙にガルフはもう一太刀を浴びせ、間髪を入れず、ソグの連撃。


「お命頂戴でござる!」


オークの後方に現れたタルタル。短刀による攻撃を繰り出す。


「こんだけやりゃあ少しは効いたかよ!」


ゴアアアアアアアァァッ…!!


しかし、オークは怯まない。

攻撃を受ければ受けるほどその勢いを増し攻撃の威力も鋭くなる、

これもバーサクモードの特徴だった。


凄まじい勢いで刀剣を振り下ろすと、そこに小さな竜巻のようなものが現れる

オークの技の一つだ。


「危ない!!」


エトが叫ぶも、

オークの周囲にいた3人に竜巻の風が襲いかかる。

弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる3人。


「ぐっ…!!!

 くっそ!あのデカブツ!ダメージ入ってんのか!?手応えがねえ!」


「皆さん!こちらに!」


マカロンの呼びかけに反応し、

体勢を立て直した3人がマカロンにすばやく近づく。


「フェイタル・エイト・ラゥム!」


マカロンが詠唱したのはステータスアップ系の魔法。

一定時間パラメーターを上げる。

その中でもやや高位に位置する魔法だった。


魔法は強力な魔法になればなるほど詠唱時間が長くなる。

魔法職の強さ、それは

魔法の威力、詠唱時間の短さ、この二点によって測られる。


「すまねぇ!!」


「これが効いてる間に畳み掛ける!」


ガルフの声にみな頷くなか、

ソグがタルタルに問いかける。


「影縛り、できるか?」


「無論でござる」


「おいガルフ!俺らで隙を作る!」


「あーわかったぜ、しっかりやってくれ、忍者さんよ」


その会話中にも、オークはパーティーへ向け突進してきている。

エトはやや後方へ移動、魔法詠唱を始めた。

ソグとガルフは二手に分かれ左右からオークを切りつける、

オークの反撃により攻撃を被弾するも、すかさずマカロンの回復呪文。

怯まず、左右から連携した攻撃を繰り出すソグとガルフ。

オークが少したじろぎ膝をついた。


「今だ!!」


「言われるまでもござらん!」


オークの背後に現れたタルタルは、手で印を結び始めた。

忍者固有の技だ。


「柔よく剛を制す!! 影縛り…!」


オークが片膝をついたまま静止。

この技には相手の動きを少しの間封じると共に、防御力を下げる効果があった。


「カウントは10秒でござる!!」


「十分…!!」


「スラッシュ・レイヴ!!」


「グリズリー・ダンク!!」


ソグとガルフの必殺剣技が炸裂。

技の終わりと共にエトの声が響く。


「お二人!離れて!…サンル・シル・エデム!!」


咄嗟に2人が離れるとほぼ同時、雷の中位魔法が発動。

以前動きの鈍いオークに見事命中。


ゴアアアアアアアァァッ…!!


少し離れ、片膝をついてその様子を見守るソグとガルフ。


「ハァハァ…ざまあみろよデカブツ…」


「ゼェゼェ…ダメージ量は相当入った、いけるか?」


TSOにはHPゲージとは別に、スタミナゲージというものが存在し

あまり連続して激しく動けば、

スタミナゲージが減る事で、動きが鈍くなったり一定時間動けなくなる。


魔法エフェクトの終了と共に、黒焦げになったオークの姿があらわになった。

動かなくなったように見えた、次の瞬間、オークの目が赤く光る。


「マジか…!?」


オークはおもむろに立ち上がる。

バーサクモードのモンスターに、スタミナや瀕死状態の概念は存在しない。

一方で、ソグとガルフはスタミナが切れ、未だ動けずにいる。


「…!!い、いけないっ!今攻撃されたらっ!!」


マカロンがバリア系の魔法詠唱始め、とっさに走り出そうとする。


「奥義・雪華掌…!!」


オーク後方から響いたのは、タルタルの声。

オークは立ち上がった体勢のまま瞬時に凍り付き、

タルタルの一閃によって氷ごと砕け散った。


オークはそのまま、消滅エフェクトと共に消え去る。


「ハァハァ…

 ……油断大敵でござる!」


その様子を見たマカロンも胸をなでおろし、魔法詠唱を止めた。


「しゃあ!!見たか!豚野郎!」


ガルフが声をあげる。

ソグの表情も緩み、

スタミナ切れでへたり込むタルタルに手を差し伸べる。


「へっ、ったくお前…

 なんだかんだ言って、おいしいところ持っていきやがって」


「ほ、他のオークたちは!?」


エトの一声に、

ソグ達も、咄嗟に置かれている状況を思い出す。

慌ててボス部屋全体を見渡すものの、そこはとても静かで、

他4体のオークの姿はどこにも見られなかった。


そこに、アルと野うさマンの姿。ソグ達のもとへと歩いてくる。


『おつおつ~』


野うさマンはそう書かれたボードを抱えている。


「他のオークは!?」


ガルフの問いかけにアルが応える。


「はい、もう大丈夫です。

 おそらくこちら側の4体はフェイクでしょう。

 軽く攻撃したら消えてなくなりました。

 あまり同じモブモンスターばかりでも飽きられるので、

 ちょっとした運営の趣向という事ではないでしょうか?」


「おいおい…なんだ、そういうことかよ


 てことは、俺らだけがキツイの任されたってことか?

 まったくカンベンしてほしいぜ~」


安堵の表情を見せるガルフ、ソグ、エト。にこやかな表情が戻るマカロン。

しかし、タルタルだけはやや晴れない表情だ。


ドロップアイテムなどを確認、少しその場で休憩した後、

ボス部屋の奥に開いたダンジョンの出口に向かい

静かに歩き出す第9パーティーの面々。


「おい、タルタル、いつまで休んでんだよ、出口に向かうぞ」


ソグが、一人その場に残るタルタルに話掛ける。


「ソグ氏、おかしくござらぬか…?」


「おかしい?何が」


「仮にあの4体のオークがフェイクだったとして、

 アル殿は最初からそれを分かって、我々に指示を出したのでござろうか?」


「うーん、見たところ、本物そっくりだったしなあ…

 たまたまじゃね?」


「そもそも、拙者にはあれがフェイクだとは思えないのでござるよ」


「何言ってんだお前、フェイクじゃなかったら

 あれを4体倒したって事になるぞ?そんなの普通無理だろ」


「オークとの戦闘の合間、少し向こうの状態を確認したのでござる。

 あのアルと名乗る御人、見たことのないような技、目にも留まらぬ動きで

 オークを圧倒していた。あの動きは尋常ではない…。

 ………

 不自然に多い試験参加者。その中に見られる顔を隠す者。

 そして、イレギュラーなボス。

 どうにも腑に落ちぬ事が多くござらぬか?

 拙者、なにやら嫌な予感がするでござるよ」


「ったくお前は余計な心配をしすぎなんだよ。

 とりあえず敵は倒せたんだ、しかもギルメンにアピールもできた、

 上々じゃねーか」


「それはそうでござるが…」


「お二人とも~何をしてるんですかぁ~もう出ますよぉ~」


マカロンの声に促されるように、ソグとタルタルも出口へと急いだ。






ダンジョンの出口外は、開けた広場になっており

そこから街にも帰れるようになっている。

見れば、他の試験参加パーティーも、そこに集まっている。

第9パーティーが一番最後の到着だった。


先頭を切って歩いていたマカロンが振り返り、メンバーに声を掛ける。


「皆さん、お疲れ様でしたぁ~

 これで試験のほうは、ひとまず終了ですねぇ

 見たところ、他のパーティの方々も、もう集まっているようなので~

 すぐにギルドの担当者の方からぁ、説明があると思います~

 こっちへ来て、待機していましょう~」


多くの冒険者が集まるところへ第9パーティも合流する。

相変わらず少し表情の硬いタルタル、

そのパーティだまりに知り合いを見つけ、声をかけた。


「これはこれは。ソリクト氏も参加していたのですか」


「おー、タルタルじゃないか。意外だな、お前も参加してたのか」


「まあそのなんと申すか、付き合いでと申そうか…

 お疲れのところ申し訳なくござるが、ひとつ、お聞きしてもよろしいか」


「なんだよ?」


「そちらのパーティー、ボスはどうでござったか?」


「おーそうそうそれだよ、ここでも軽く話題になってるんだがよ、

 なんかいつもより強かったって、みんな言ってるぜ

 俺のとこなんか、ガルオーク3体出てきたんだぜ!いやーまいるよな~」


「そうでござるか、……かたじけない、

 うーむ…」


 (洞窟の仕様が変わったのでござろうか…、

 いや、それにしても他はガルオーク止まり…うーむ…)


考え込むタルタルにソグが話掛ける。


「おいタルタル、ギルメンの説明始まるぞ」


「はいみなさん試験終了です。聞いてくださいね」


参加者の輪の中心あたりで、ギルドメンバーが声をあげた。


「皆さんお疲れ様でしたー。

 どのパーティーも、攻略失敗する事がなかったですね。

 皆さんのレベルの高さが伺えます。

 合否ですが、こちらで担当のギルドメンバーと話をさせてもらい…」


そこまで話した時だった、

試験参加者たちが途端にざわつき始めた。というのも

参加者の中から数人が一斉に歩き出し、

参加者の輪を外から取り囲むような陣形を取り出したからである。


「え?なんだ?」


「説明の途中に何やってるんだあいつら?」


動いたメンバーは、70人以上いるメンバーの中からおよそ20名、

その中には第9パーティーにいたエトの姿もあった。


「あれは…、エト?つかなんだあいつら?

 急に動き出して、知り合いか?」


怪訝な表情のソグ、その近くにいるガルフも眉を顰める。


「なんつうか…ヤツら様子が変だな…」


「ちょっとそこのあなた達!

 説明はまだ終わってないので勝手に動かないよう…」


ドゴオオオオオォォォォォォォ!!


言いかけたギルドメンバーに雷系の攻撃魔法が直撃。

ギルドメンバーはダメージを受け片膝をついた。


ギルドメンバーに対して魔法を放ったのは、なんとエトだった。

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