第5話最強の剣士を目指して4

ザシュ!!!ガン!!キン!

ぐわあああぁぁ!!!グオオオオオオォォォ!!!

ドゴオオォォォォォン!!


剣が弾かれる音、傷に倒れる者の絶叫、

魔法の爆発音、岩壁が崩れる音、モンスターの咆哮。


エスティリの洞窟その内部では、今日もいたるところで

モンスターと冒険者による激しい戦闘が繰り広げられている。


その一角、第9パーティーはいた。

地面には肉球の模様があしらわれたピンクのマットが敷かれ、

その上にメンバー全員が座っている。


手にはサンドイッチ、お弁当タイムだった。


「もぐもぐ…

 ダンジョン内でお弁当というのも…

 な、なにやらシュールな絵でござるな…

 確かに美味でござるが…もぐもぐ…」


タルタルは少し困惑した表情でサンドイッチを頬張る。


「ありがとうございます~、

 今日のために、手作りで作ってきたんですよぉ~

 まだまだありますんでぇ~、どんどん食べてくださいねぇ~」


マカロンが笑顔でみんなにサンドイッチを勧める。


「じゃあ、私もいただきましょう」


次にサンドイッチに手を伸ばしたのはアル。


「すいません、い、いただきます」


エトも食べ始める。


「……」


野うさマンはサンドイッチの入ったかごを至近距離から見つめ続けている。


「どうしたんですかぁ~、どんどん食べていいんですよぉ?」


「おそらく…頭を取りたくないのでござろう、

 その大きな頭を取らねば食べられぬゆえ…」


『( つω;`)ウッ』


野うさマンはそう書かれたボードを持ち、見つけ続ける。


「ソグさんとカルフさんも食べてください~おいしいのでぇ~」


ソグとガルフはマットの両端に座り、そっぽを向き黙り込んでいる。


「もう~、ほんと、子供みたいにぃ~…

 お二人とも、よく聞いてくださいねぇ~、


 最初に説明会場で聞いていませんでしたかぁ~

 案内役の私の言うことを聞いてくださいねって

 このまま私を無視するようであればぁ~、お二人とも不合格ですよぉ」


 (マカロン殿…、口調は元に戻られたが、

 言っている事は何気にえげつないでござるな…)


タルタルがサンドイッチを頬張りつつ様子を見ている。


マカロンの半ば脅迫めいた言葉に、さすがのソグとガルフも

観念してサンドイッチに手を伸ばす。


「もぐもぐもぐ…」


「うん…美味い…もぐもぐ…」


ソグが言葉を漏らすが、ガルフは黙ったまま食べ続ける。


「はい~、では今から~

 仲直りをしてくださいね~、お互いに謝ってください~」


ソグとガルフが同時にマカロンに強い視線をおくるも、

マカロンに引く気配はない。


「もう一度言いますがぁ~、私の指示に従わなければぁ~…」


そこまで言ったところで、二人の表情には怒りよりも諦めが勝っていた。


「………

 あー、分かったよ、分かった。

 ……

 ガルフ、あんたの言う事にも一理あるよ、……悪かった」


「お、おう…

 分かればいいんだよ……

 俺も、その、なんだ……感情的になりすぎたっつうか…」


その瞬間、凍り付いていたパーティーの空気が弛み、

ほどけていくのを、誰もが感じていた。


「はぁい、よくできましたぁ~、

 まだまだサンドイッチありますからぁ~どんどん食べてくださいねぇ~」


 (このマカロンという女人…

 天然で気の弱い女人とばかり思っていたが…いやはや

 この二人を難なくたしなめてしまうとは。

 やはり大手ギルドともなると、メンバーの人となりもさすがでござるな…)


お弁当タイムが続く中、タルタルは一人感心していた。




-----------



エスティリの洞窟最深部、ボスゾーンの手前、第9パーティーの姿があった。


「いよいよですね…」


エトの言葉にみな頷く。


休憩後、パーティーの空気は一変し、連携も徐々に形になり始めた。

被害も少なく、最初の戦闘が嘘かのようにここまでの道のりはスムーズ、

そして残るはいよいよダンジョン最後の砦だった。


ダンジョンクエストは多くはボスを倒すと終了となる。

そしてそのボスも、大きく分けて2種類。

一つは固定型。

ソロでもパーティーでも挑戦者のレベルによっても変わらない

いつ誰が行っても同じタイプ。

もう一つは変動型。

パーティーの人数やレベル、職業などに応じて

モンスターの種類や数が変動するタイプ。

ここエスティリの洞窟も、変動型だった。


ちなみにダンジョンの行程は全パーティ共通の空間であるが

ボスの部屋だけは個別空間となっており、

たとえ別パーティーが連続してボスの空間に入ったとしても、

そこでパーティー同士がバッティングすることはない。


一同はボス対策について話し始める。


「まず、ボス経験者は?」


ガルフの問いに、エト以外の全員が手を上げる。


「6人中5人か、まあそうだな。

 ここまでの感じからしても、十分攻略できる範囲内だ」


「どういうモンスターが出てくるんですか?」


エトがガルフに尋ねる。


「俺の時は、

 大物のガルオーク一体、後は小物モブが周囲に10」


「拙者の時はガルオーク単体のみでござった」


「そういえばここは変動型なんですよね、怖いなあ」


「変動と言っても別にランダムで変わるわけじゃねえ

 パーティー戦闘力に応じて変わるだけだ、

 とんでもないことにはならねぇ。

 このメンバーならそうだな…ガルオークと、モブ5ってとこか」


「このメンツでの戦い方も、大体つかめてきた。

 この調子でいこうぜ」


ソグも声をかける。


「ああ、いけるだろう。

 細かい指示はねえ、今まで通り冷静に順に片付けてくぞ、いいな?」


ガルフの声にみな頷く。

ここまでの戦闘を経て、パーティーには小さな団結力が芽生えていた。

それぞれに目を見合わせボスの領域へと踏み込んだ。



ゴゴゴゴゴゴゴ……


広いボスの空間、入り口の石が音を立て閉じる。

真っ暗な部屋の中にひとつふたつかがり火が灯っていき、

大きな空間の全貌があわらになる。

そこにボスとなるモンスターの姿が浮かぶ。


身の丈4メートルはあろうかという巨大なオーク。

ただ予想と違った点、それはそのオークが五体いたこと。

その光景に一同は驚愕の表情を浮かべた。


「な、なんだあ、こりゃあ!?」


「ボスが…5体!?しかもあれ……」


最前列のソグとガルフが驚愕の声をあげる。


「え!?きききき、聞いてた話と違うような…」


エトもうろたえている。


「これは…」


「あらあら~」


アルとマカロンも驚きの表情だ。


「ソ、ソグ氏、これはどうしたことでござるか

 ガルオークが5体!?」


「いや、よく見てみろ、…あれはガルオークじゃない」


ソグはボスの方を一直線に見つめながら険しい表情だ。

ガルフも同意する。


「そうだ、ありゃガルオークじゃない。よく見てみろ

 ガルオークよりも明らかに大きい…色合いも違う。

 信じたくはねぇが

 こいつら多分、ガルオークの上位種だぜ……」


その言葉に、タルタルは驚きの表情はより一層濃くなる。


「上位!?下位ではなく上位でござるか!?

 そんな無茶苦茶な…!!」


「そそそそんな!バグ!?バグですか!?」


エトが後ずさる。


「それはどうでしょうね」


アルが声をはさむ。


「さすがにこんなバグは聞いた事がねえ…

 それよりも…可能性があるとすりゃあ…」


ガルフの言葉をソグが続ける。


「この中の誰かが

 モンスターのグレード引き上げてる…」


みなの視線が、一瞬マカロンに集中する。

マカロンもその事に気づく


「いや私はそんなに~…」


その言葉に、みなの視線がマカロンから外れる。

ガルフが静かに語る。


「正直、俺より強い奴と来たこともある。

 だがその時でも、せいぜいモブのほうの数とグレードが上がる程度。

 こんな事態は聞いたこともねえ。

 ……仮にだ、

 これがこの中の誰かのレベルによってなってるんだとしたらそいつは…」


「きますよ!」


声を上げたのはアルだった。


五体のオークの内二体が

パーティーへめがけ、ものすごいスピードで襲いかかってきた。

手に持った巨大な刀剣を振り下ろし、凄まじい爆音とともに

地面を粉々に粉砕する。


アルの一言があったため、

初撃は誰一人として被弾することなく回避したものの、

パーティーは二つに分断される。


「ソグ氏、気が付かれたか!?」


「ああ、バーサクモードだ!」


バーサクモードとはモンスターの状態の名前であり

バーサクモードになったモンスターは目が赤く光る。

攻撃や魔法に怯まなくなり、

非常に積極的に襲い掛かってくる特性が付与される。

自らより強い相手に対しても、全く怯むこともなく

相手にする冒険者にとっては非常に厄介なモードとして恐れられる。


「おいおいおい、どんだけだよ!」


ゴアアアアアアアァァッ…!!


洞窟全体が揺れるほどの大きな咆哮と共に、巨大なオークが襲いかかる。

そのターゲットは一番近くにいたアルと野うさマン。


「やばい!逃げろ…!」


ガルフの声が響くとほぼ同時、モンスターの刀剣による横からの一閃。

アルはすばやく攻撃をかわすが、

先ほどの攻撃で首が180度回転してしまっていた野うさマンは

その攻撃をもろに被弾、ボス部屋奥まで弾き飛ばされてしまった。


「野うさ!」


ソグが声をあげる。

ガルフもその様子を神妙な顔で見ている。


「こんな状況でもあいつは相変わらずかよ…

 と言うか、今のでやられたか…?


 おい!いったん距離を取れ!陣形を立て直す!」


ガルフの一声で、近くにいたソグ、タルタル、エトが後方に走る。


「ガルフ、どうするよ、

 正直俺は、こんなやつと戦ったことがねえ!」


「俺もねえよソグ、だが逃げるってのは納得いかねえな」


「そこは同感」


そこにマカロンも合流。


「しかしお二人、冷静になってくだされ!

 これはもう、戦略云々の話ではござらぬぞ!

 残る3体もいつこちらに走り出してもおかしくない状況、

 そうなれば、あっという間にパーティーは全滅でござる!」


「ぜ、全滅…」


エトの顔が青ざめる。

マカロンにも少し焦った表情が浮かんでいた。


そこへ、アルが合流する。


「逃げる必要はありません。戦いましょう」


「逃げる必要はないって…、まさか

 やつらのレベルを釣り上げてんのはお前か!?」


ガルフがアルに強い口調で言う。


「それを今明かしたところで何か解決しますか?

 時間がありませんので、よく聞いてください。

 今、私たちを攻撃してきたうちの1体、

 ここから一番近くにいる、左側のオークだけ他4体から距離がある。

 あれをあなた方にお任せします。

 マカロンさん、あなたは彼らのサポートを」


「はい、わかりました」


 (わかりました?

 …ギルドメンバーは戦闘に手を出さないはずでは?

 いや、この特異な状況ゆえか…)


タルタルに一瞬疑問がよぎるが、すぐに思い直す。

アルの提案に、ソグが声をあげる。


「お任せしますっつったってよ…!

 いや…回復補助がいればなんとかなるのか…?」


ガルフも口をはさむ。


「仮にだ。1体なんとかとかなったとして、他の4体はどうすんだよ!

 その間じっとしてくれるってのか!?

 1体でも加勢に来られたら話にならねえぞ!」


「それは確かに。

 でもその心配はいりません。残り4体は私とあの方で引き受けますので」


アルが視線を向けた先には

ボス部屋奥で、オーク達にバスケットボールのような扱いを受けている

見るも無惨な姿の野うさマン。


「引き受けるってお前…!

 第一、もうあいつは生きてるのか死んでるのかも…」


ゴアアアアアアアァァッ…!!


一番手前のオークが咆哮と共に姿勢を低くする。

今にも跳びかかってくる事は目に見えて明らかだ。


「では、頼みました」


そう言い残し、アルは

残り4体が集中しているボス部屋後方へ向け走り出した。


「きますよ!戦闘態勢を!」


一瞬唖然とするソグたちに、マカロンが声をかける。


ソグ、ガルフ、タルタル、エトは互いに目を合わせ、

腑に落ちないながらも、覚悟を決めた表情を浮かべた。


「とにかく、ダメもとでやってみっか!」


ガルフ。


「しゃあねえ!」


ソグ。


「ほ、本気でござるか!?」


タルタル。


「ひいいいぃぃぃ…!」


エト。


4人はオークへ向けて攻撃態勢を取った。





一方、オーク4体が集中している地点に到着したアル。


オークたちからバレーボールのような扱いを受けている野うさマンは

オークの鋭いスパイクを受け、

アルの足元付近に叩きつけられるように転がり落ちてきた。

それを見下ろすアル。


「………

 いつまで遊んでいるつもりですか?」


「………」


野うさマンは地面に倒れ込んでいる。


「あなたと私で2体ずつ、これでいかがです?」


「……あれ?もしかして、バレてる?」


「ええ。…お互いにね」

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