第4話最強の剣士を目指して3
北部のショップエリア。
武器から薬、ファッションに至るまで、ありとあらゆる店が並んでいた。
一部の公式ショップを除き、店舗もプレイヤーが運営しているものが多い。
TSOでは、武器や道具の製作も非常に自由度が高く、
生産系を極めるというのも、ひとつのスタイルとして確立されている。
商品には一点ものも多く、品揃えは店により様々。
多くの店が出店しているこのショップエリア、
全てを見て回るのは一日では効かないと言ったところだ。
その商店が並ぶ一角の道具屋に
第9パーティの姿があった。
店内にあるアイテムを物色している。
「うーむ、これとこれとこれと…」
薬瓶のようなアイテムを手に取るタルタルに
ソグは近寄り、周囲に聞こえないよう小声で喋りかける。
「おいタルタル、やべーよ」
「やばい?何がでござるか」
「何がも何もないだろ
なんなんだこのメンバーはよ、おかしいだろ。
あのトラブルメーカーのハゲがいるだけでも腹立つってのによ
明らかに初心者丸出しの魔法使い
フードにマントで全身隠した不気味な奴
デブなのに忍者とか言い張る奴
挙句の果ては着ぐるみでまともに喋りもしねえ奴だぞおい
ギルドメンバーのマカロンさんはいい人っぽいけど
なんかイロモノ集めましたっつう感じまるわかりだろ」
「ソグ氏…、ちょくちょく拙者にボディをねじ込むのはやめるでござる。
ただ、他のパーティーを見るに戦闘タイプが多い中、
このパーティーだけ異彩を放っていたのも確かでござる。
と言っても
ほぼ、あの着ぐるみからその異彩は発生していたようにも思われるが」
「あ、あの…回復薬はこのへんですか?」
二人に話しかけてきたのは、眼鏡の魔法使いエト。
「お、おう、こっちだぜ。
MP用のもあるから買っといたほうがいいんじゃね?」
ソグが応える。
「さっさとしろよなー。
こっちはただでさえイラついてんだ。
さっさとモンスターの一匹二匹ぶった切りたいぜ」
ガルフも近づいてくる。
「ったくよう…なんで俺様が買出しなんかに付き合わされる…
…ってうおおおっ!?」
愚痴を吐きながら、ふと窓の外に目をやったガルフだったが、
とたんに驚きの声を上げた。
そこには着ぐるみの野うさマンが、外からガラスにべったりと張り付いていた。
「はぁはぁ…!なんだ!?驚かせるなよ…!
何やってんだアイツ!?」
「あいつは頭がつっかえて店に入れなかったんだよ
だから外で待ってるんだろ」
ソグが呆れ顔で窓を見る。
「何だそりゃ、取りゃあいいじゃねえか!
ったく本当にどいつもこいつも…」
ぶつぶつ文句を言うガルフを尻目に、タルタル達は買い物済ませる。
その間、フードの剣士アルは何も言わず、店の壁にもたれかかり
案内役のマカロンは、
みなの様子を相変わらずのにこやかな顔で見守っていた。
「ではみなさん~、
お買い物も済んだようなのでぇ、目的地に向かいましょう~」
いよいよ
第9パーティーのダンジョンの攻略が始まろうとしていた。
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エスティリの洞窟。
ナンバリングクエスト29に指定されているダンジョンでもある。
ナンバリングクエストとは
TSOに存在するシステムで、
1から順に指定されたダンジョンや指令をクリアしていくシステム。
番号が大きくなるにつれ、徐々に成功の難易度は上がっていき、
初回攻略時にはボーナスでレアアイテムが入手できる。
ただし、一度きり
同じナンバリングダンジョンを再度攻略しても、固定レアアイテムはない。
その冒険者の強さを語るとき
ナンバリングクエストをいくつまで攻略したかというのも
一つの指針となっていた。
ちなみに、地域や時間帯を限定したクエスト
特定のアイテム所持者。職業所持者にのみ可能なクエストなど
クエストの種類は多岐にわたる。
このダンジョンは街からも近いため、よく人で賑わっていて
冒険者層は主に中級者だが、上級者も付き添いや狩りで時折訪れている。
ソロで挑む者はよほど腕に覚えるある冒険者のみ
大体の冒険者は、5人から10人のパーティーを組むのが通常だ。
ダンジョンの前には試験中と思われるパーティもちらほら
それとは関係のない、一般パーティーも所々に見て取れる。
そんな中、入り口付近に第9パーティーの姿もあった。
「皆さん~
準備はいいですねぇ~、あ、そうそう~
一応ですがこういう時、リーダーを一人決めます。
今回はぁ~、どなたにお任せしましょうかぁ~」
マカロンが皆を見渡す。
「俺が…!」
「俺がやろう」
言葉を発しかけたソグを遮るように声を上げたのはガルフ
「もちろん誰も異存はないよな?
まあ見たところこの中では俺が一番強い。
それにだ、ここにもしょっちゅう来てる、俺の庭みたいなもんだな。
まあお前ら、俺の指示をよく聞けよ」
決定事項かのような口ぶりで、みんなを見渡すガルフ。
ソグは一瞬考えるが、
ここで余計な時間を取りたくないため、言葉を飲み込む事にした。
『俺様がリーダー、いや王だ!!』
ボードを掲げている野うさマンの事は
もちろん、みな見て見ぬふりをしている。
「ではガルフさん、よろしくお願い致しますねぇ~」
洞窟の内部は広く、複数のパーティーが同時に進行できるようになっており
所々かがり火が焚かれ、内部は思いのほか明るい。
第9パーティも中へ進む、
道中、所々でモンスターと冒険者たちとの戦闘が行われていた。
「す、すごいなあ…強そうなモンスターばっかり」
メガネの魔法使いエトが、恐る恐る周囲を見渡しながらそう漏らす。
歩きながらガルフが応える。
「何だお前、ここ来んの初めてか?」
「は、はい…。」
「そんなんでここのモンスター相手に戦えるのか?まったく…
よくクラインノクスの試験なんか受けられたもんだな」
「はい…すみません…」
「やはり今日は、いつもより人が多いでござるな」
「まあそうだろうな、この時間帯だし。
何より今日は俺ら、試験組が加わってる。
ただでさえこのダンジョンは街から近いし来やすいとこだしな」
ソグとタルタルも歩きながら話す。
そうしているうちに、いよいよ第9パーティの目前にもモンスターが現れる。
骸骨のモブモンスター、
決して強いモンスターではないがパーティーの左右に5体ずつ、計10体。
一瞬にして周囲を取り囲んだ。
「へっ、やっときなすったか。
逆に来てくれないと困るんだよ、この俺様の妙技を披露できねえからな」
ガルフが意気揚々と剣を構え、パーティーメンバーもそれぞれに戦闘態勢に入る。
「ガルフお前は右、俺は左へ行く」
剣を構えながらソグが言う。
「オイ!何勝手に決めてんだよ、
リーダーは俺だ、俺からの指示を待て!」
「んなこと言ってる場合か!」
「ソグ、お前は俺の後ろに付け!俺があらかた片付ける!
取りこぼしをお前はやれ。
ほかのやつら俺をサポートだ」
ガルフが声を荒げる。
「え、え、ボクはどうしたらいいんですか!?」
エトは慌てた様子で左右を見渡している。
アルは何も言わず 、剣を構えてはいるものの、動く気配はない。
タルタルも姿勢を低くして様子を伺っている。
野うさマンは近くの岩に頭をぶつけ
首が180度回転、前が見えずそこらに激突している。
そんなパーティーの様子を、マカロンは少し離れた位置から見守っていた。
「揃いも揃って使えねえ奴らが!」
ガルフが声をあげると同時に、モンスターの方から襲い掛かってきた。
最前列にいたガルフとソグが、その攻撃をいなし対応する。
「ちっ、先手を取られた!
まあいい!どうせ大体の敵は俺が片付けてやるんだからよ!」
ガルフは剣を振り下ろし、モンスターに一撃。
一旦少し距離を取り、もう一度走り出したその時、
モンスターに軽い落雷が襲い、その衝撃で走り出していたガルフもたじろぐ。
エトの簡易的な雷系魔法だった。
「何やってんだお前!見えないのか!?
俺が今やってんだよ!モンスターなら他にいくらでもいるだろうが!!」
ガルフが強い口調で言い放つ。
「ひ、ひぃっ!すみません!」
その隙をつき、ガルフの後方からモンスターの攻撃。
それをアルがすばやく動き、防いだ。
「戦闘中に、よそ見はいけませんよ」
「はぁ!?なんだお前、余計なことすんじゃねえ!
そんな事はわかってんだよ…!!」
たじろいだモンスターに、ソグの一撃、
さらに後ろへ回ったタルタルも背後へ一撃、モンスターは倒れる。
「おまえら勝手に動いてんじゃねえ!!
それは俺の獲物だ!何してくれてんだよ!!」
「だからそんなこと言ってる場合か!次来るぞ!」
気が付けば、四方をモンスターに取り囲まれており、
今にも襲い掛かろうという体勢を取っている。
「どいつもこいつも!ザコ相手に何手間取ってんだよ!」
ガルフはなおもイラついた様子だ。
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ひとしきり戦闘が終わり、第9パーティーは一息ついている。
しかし、モンスターの強さ以上に被害が多く
面々の顔は曇っている。
特にガルフは、今にも爆発しそうと言った形相だ。
「な、なんとかしのぎましたね…」
ふとエトがこぼした言葉だったが、
それがガルフの導火線に火をつけてしまった。
「しのぎましただと!?冗談!!
あの程度のモンスター、いつもの俺ならノーダメージだっておかしくねえ!
それがどうだ!この被害は!
どいつもこいつも、俺の足を引っ張りやがって!
魔法使いお前もだよ!もう少しタイミングを考えられねえのか!
着ぐるみ野郎は全然使えねえ!ソグとそのお友達も言うこと聞かねえ!
俺の邪魔しかできねえのかお前ら!」
野うさマンは壁に突進し疲れ、地面に寝そべっている。
アルは特に声を出さず、傍観している。
「…何だお前、自分だけはちゃんとやったみたいな言い方だな。
お前だってみんなの邪魔になってんだよ!」
「おうおうソグてめぇ、
いつからそんなでけえ口叩けるようになったんだ!?お!?
ちょっと前までは剣技も覚束なかったクソガキがよお!」
「前々から言おうと思ってたけど、
ガルフお前さ、その性格どうにかなんねーのか
お前が輪を乱して、みんなの足を引っ張ってんだよ!」
パーティー中に険悪なムードが流れる中
タルタルは言いあう二人を困った様子で見ている。
「ま、まあソグ氏、そのへんで…」
エトは何も口にできず、下を向いてしまっている。
たまりかねてマカロンが口をはさむ。
「まあまあ~、急ごしらえのパーティーですしぃ~
1回目の戦闘ですしぃ~、これからぁ、改善していけるところは~
改善していけばぁ~」
しかしガルフは引こうとしない。
「あんたは黙っててくれ!これは俺たちの問題だ。
改善も何も、こいつらの実力が、全然俺についてこれてねえんだからよ!
こいつらが試験に落ちるのは勝手だが、こっちまで巻き添えにされたんじゃ
たまったもんじゃねえ!!」
ソグも平常心を失っている。
「それはこっちのセリフだよ!!
お前みたいなトラブルメーカーがいたんじゃ、
攻略できるダンジョンも攻略できねえよ!
前にパーティー組んだ時もそうだよな!
お前が勝手に一人で独走して、みんな慌ててお前の尻拭いをさせられた!
気づいてねえのか!?」
「何勝手なこと言ってんだ!
あれは俺がいなきゃどうしようもなかっただろうが!
俺の力があったからこそ攻略できたんだ!
お前らみたいな弱い奴は、だまって俺についてきてりゃいいんだよ!」
「だったら1人で行ってろ!
ご自慢の剣技でボスでもなんでも倒してみてくれよ!なあ、ほら!」
「テメー、喧嘩売ってんな?よーしいいぜソグ、やってやる」
「おーいいぜ、一度その腹立つツラに剣をお見舞いしてやりたかったんだ」
「クソガキが!甘く見んじゃねーぞ!」
二人は剣を構え、雰囲気は一触即発。
今にも決闘が始まらんとする勢いだった。
「お二人とも!!いい加減にしてください!!」
剣を構えていた二人も一瞬目を奪われる。
大声をあげたのはマカロンだった。
「今は試験の最中という事をお忘れですか!!
決闘をやりたいのなら、試験が終わった後にしてください!!」
今までに聞いた事がないほど強いマカロンの口調と声量に、
ソグとガルフも固まり、目を見開いている。
「さあ剣をしまってください!いったんお弁当にしますよ…!」
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