第3話最強の剣士を目指して2
大都市ローシャネリアの北部に位置する小城、
ここはギルド「クラインノクス」の拠点となっている建物。
ギルドは拠点として施設を購入し使用する事ができ、
その規模やギルドの功績に伴い、購入可能な拠点が幅広くなる。
TSOにおいても、ギルドメンバー数、実績共に他の追随を許さない大手ギルド
クラインノクスはひと際大きな施設を有していた。
小城の周囲は堀が一周取り囲むように流れ、
出入りは正面にある橋を通る。
門へとつながるその橋には
ギルド入会試験が催される今日、平素以上に多くの冒険者たちで溢れていた。
ギルド入りを目指すソグとタルタルの二人の姿もある。
「すっげーなあ、見ろよ、城だぞ城。さすがは大手だな。
弱小ギルドも星の数ほどあるが、
大体は、掘っ立て小屋とかそんなんだもんなあ」
「左様ですなあ。
…では拙者はこれにて」
城の反対へ歩き出そうとするタルタルの後ろ襟をソグは掴む。
「お前この期に及んでまだごねてんのかよ
事前のエントリーも済んだし、
ここまで来ちまったんだ、もう観念しろよ」
「そう申されてもソグ氏…
拙者、こんな大手に入れるほど戦闘に達者ではござらんし…
大体拙者は動画師ゆえ、最強など到底…」
「何言ってんだ、最強になるのはお前じゃなくて俺だよ」
「しからば、なぜ拙者はここにいるのでござるのか?」
「そりゃお前、俺の礎になるためだよ」
「ソグ氏…
もう少しオブラートに包んで物を言えぬのでござるか…」
「よーーう!お前ソグじゃねえか!」
橋の上で話す二人に話しかけてきたのは、ソグ達よりも若干年上の長身の男。
坊主頭、吊り上がった目、背負った大きな剣、
いかにも強面の戦士と言った風貌だ。
「なんだガルフか…。お前も来てたんだな」
「なんだじゃねだろ、なんだじゃ
それはこっちのセリフだぜ、まさかお前みたいな半人前が
よりにもよってクラインノクスとはなあ
今日は誰かの付き添いか?
まさかお前が入れるとか思ってんじゃねえだろうな、ああ?ガハハ!」
悪態をつくガルフを睨み付けるソグだったが、
やがて呆れた表情へと変わり
一人高笑いのガルフを尻目に、タルタルと共に門へと歩き出す。
「知り合いでござるか?ソグ氏」
「知り合いっていうかなんて言うかなあ…
ダンジョンで何回かパーティー組んだくらいだな
正直、関わりたい類の人間じゃない」
「まあ…それは…なんとなくわかるでござるが…」
「おいおいソグ、つれねえなあ!
せいぜいちびらねえよう気を付けろー!」
ガルフが後ろから声を上げるが、ソグは反応を示さず歩き続けた。
「付き合ってても疲れるだけだ。
ああいうのはほっとくに限る」
二人は門をくぐり、城内へと進んでいった。
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「えー、ではこれより、第32回ギルドメンバー審査会を行います。
まずは、当ギルドの方針など、簡単に説明しますね」
そこは城内にある大広間。
ちょっとした舞踏会ができる程度には広く、天井は高い。
内装や調度品などは中世ヨーロッパを思わせる美麗な趣きだ。
その広間に集まった志願者たちは70人強、
その志願者に向けて、ギルドメンバーが説明などを行っていた。
ソグとタルタルはその志願者群の最後方にいた。
「おい、見てみろ、やっぱすげえな、
ギルメンみんな超いい装備だし
それに志願者も志願者で
みんな見るからに手練れだぜ、やっべえ楽しくなってきたな」
「それはよろしいでござるな。
拙者は今すぐ帰りたいでござるよ。
それにしても…以前に審査に行った知り合いから聞いた話では
参加者は30人程度という事だったでござるが…
今回はいやに多いでござるな」
「そりゃあお前
こんだけTFOじゅうに名が轟いてんだぜ?志願者も増えるだろうよ」
「…左様なれども
この短時間に二倍強になるでござろうか?
それによく見てござれ、
フードの者、仮面の者、いやに顔を隠した者が多くござらぬか?」
「あー、まあな…
つってもよ、大体がこのゲーム
現実の見た目が反映されるからな、
嫌がって顔を隠すやつは珍しくねえけど…っておいタルタル!
なんだあいつ!あいつ見ろよ!!」
ソグは興奮気味にタルタルの肩を叩く。
「なんでござるか?何を興奮して…ブホホッ!!
き、着ぐるみ!?正気でござるか!?」
「はーいそこのお二人さん、
今説明中ですので、お喋りはそのくらいに」
ギルメンが声を上げると、その場にいる皆の視線がソグ達に注がれた。
「あ…、ども…すいません…」
「えー、それでは改めて
次は、今から行う試験の内容についてです。
以前当ギルドは、希望者には全員参加してもらっていたのですが、
人数が増えすぎたのと、ギルドの質の維持という観点から、
現在は試験制にさせてもらってます。
ズバリ、これから皆さんには、エスティリの洞窟に行き、
そこを攻略してもらいます。
その様子をギルドメンバーが逐一観察、合否を判断するという流れです」
会場内にざわめきの声が上がる。
ソグとタルタルの二人も顔を見合わせた。
「なるほどな、エスティリの洞窟。試験ってそういう事か、面白ェじゃん」
「拙者もあそこは存じておりますが…
攻略と簡単に申されましてもなあ…
第一、拙者とソグ氏の二人ではいくらなんでも不可能でござろう」
「んー、それはまあな、
あそこは、ある程度慣れたメンバーがフルで揃わないときつい」
「はいはい、みなさん静かに。
先ほど皆さんに登録してもらった端末宛にパーティ番号を送信します。
皆さんには、同じ番号同士の人と一緒にパーティーを組んで
今からダンジョンに向かってもらいますので。
ちなみに、各パーティーには一人ずつギルドメンバーが同行し
戦闘技能はもちろん、
そこに至るまでの 冒険者としての適性などを審査させてもらいます。
自分が該当する各番号の札を持っているギルドメンバーの所に集合してください」
「ほお…、つう事は、俺とタルタルが一緒に行けるかどうかもわからねんだな
お前、番号何番よ?」
「9番でござる」
「おー、よかったよかった。俺も9だ。
お前には 期待してるからよ。
俺のために色々と役に立ってもらわねぇとな」
「同じパーティで良かったような悪かったような…」
「何か言ったか」
「空耳でござる」
周囲の冒険者たちがざわつく中、
1から11番までの札を持ったギルドメンバーが会場内へと入ってきた。
「さあ皆さん、番号に分かれてくださいね」
声に促されるように、ソグ達も
9番の札を持ったギルドメンバーの元へと向かう。
「…それでは
大体パーティーごとに分かれたみたいですね。
この後のことは担当のギルドメンバーから説明があります。
指示に従い、頑張って洞窟を攻略してください。皆さんの健闘を祈ります」
9番の札を持ったギルドメンバーの周りには、ソグ達を含め6人の参加者たちが
パーティーとなるべく集まっている。
その事を確認すると
担当ギルドメンバーが、おもむろに話し始めた。
「それでは皆さん~、集まったようなのでぇ
私のほうから、自己紹介をさせてもらいますねぇ~」
とてもおっとりとゆっくりとした口調。
高く細く可愛らしい声。表情は常ににこやかだ。
身長は小さく、腰のあたりまであるウェーブヘア
仕立てのよいドレスが、いかにも補助職という雰囲気の女性。
「私の名前はマカロンです~。
基本的に、私は~、道中、皆さんの事を見てるだけですのでぇ~
皆さんそれぞれの判断で~動いてもらうことになりますのでぇ~
どうぞ~、よろしくお願いしますねぇ~。
それじゃあまず~、
自己紹介でもいたしましょう~。端から順番にぃ~お願いしまぁす」
「御意。
拙者はタルタルと申す者。忍者をやってござ候。
得意とするは暗殺術と隠密行動。
モンスターにタゲを取られず、背後を取るのが拙者のやり方でござる」
「次は俺だな、俺の名はソグだ!
見ての通り剣士。とにかく突っ込んで叩き切る、それだけだ。
一番槍として真っ先に突っ込むからな、みんなサポートよろしく!」
威勢よく自己紹介を終えたソグだったが、
次に話し始めた、ソグの隣の男を見るや、その表情はたちまち曇りはじめた。
先刻、橋の上で会った男だった。
「次は俺か。
俺の名はガルフだ。よろしく。
自分で言うのもなんだが、剣の腕はそこそこのもんだぜ。
まあ、大船に乗った気でいな。
ちなみにこの赤髪とは知り合いで、色々稽古つけてやってたりしてんだ
なあソグ?」
「勝手に話作んなよ…ったく…なんでこいつと一緒なんだ…」
「じゃ、じゃあ次は僕の番ですね」
ガルフの次に話し始めたのは
ソグよりも少し若い印象の少年。
頭は黒いおかっぱ、メガネ、体格はひょろっとしていて
頼りない雰囲気が隠せない。
身なりは、いかにも魔法職といった感じの長いローブだ。
「ボク…え、えっと、名前はエトです。
見ての通り魔法職で…
その…まだ全然戦闘とか慣れなくて…
魔法もあの…まだちょっとよくわからないんですけど…
その…みなさんの足を引っ張らないように
頑張りますので、よ、よろしくお願いします」
所々どもりながら喋るその口調は
見た目の頼りない印象をより鮮明にさせるものだった。
次に順番が回るメンバー、
それはこの場にいる皆が、見て見ぬふりをしていた参加者だった。
服装は いわゆる全身着ぐるみ、モチーフはうさぎ。
全身ピンクで頭に野という字。
それは、説明会が始まった当初からひときわ異彩を放っていた存在。
「…」
「えっとぉ~、あのぉ…次のかた、自己紹介を~…」
案内役のマカロンが恐る恐る話しかけるも
着ぐるみの参加者は声を一切出さない。
少しの沈黙の後
着ぐるみの参加者は、手元にあるボードに文字を書き始めた。
『我は野うさマン。野うさを極めし者。
特技は、かかと落としよろしくね』
「…」
ボードにはそう書かれてあった。
しばし沈黙が訪れるも、マカロンは 取り繕うように話し出す。
「あ、あまりお喋りしたくない方なんですねぇ~
わかりました~、野うさマンさん、よろしくお願いします~
では~、次の人、どうぞぉ」
気を取り直すように
メンバーの視線は最後の一人へと向けられた。
ガルフと同じく高長身。
深くフードをかぶり、全身にマントを身につけ、顔もわからない。
その人物もまた、着ぐるみほどではないにしろ
異様な雰囲気を醸し出していた。
「私の名前はアルです。
剣士なので、特技は剣という事になります。
皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」
外見の不気味さを裏切るような低姿勢とイケメンボイスに、
少々意外といった視線が注がれる。
周囲は戸惑い半分、安堵半分という雰囲気だ。
会場内では全パーティー内で同じように自己紹介が行われ
それぞれに輪を作っていたが、この時間になると
一組二組と、会場の外へと出て行くパーティーも目に付いた。
「皆さんの自己紹介が終わったところでぇ~
早速ですが~、お出かけしましょうかぁ。
エスティリの洞窟はぁ、ここから歩いて行ける近場ですが~
すぐに行ってもいいですしぃ
何かご準備があれば~、どちらかによっても構いませんよぉ~
どなたか希望のある方、いらっしゃいますかぁ?」
マカロンがみんなを見渡す。
「俺は別に」
ソグ。
「私も特にないですが」
フードの男、アル。
「申し訳ない。
よくよく見たら拙者、道具類の調達がまだでござった、
ひとつ 買い出しに行ってもよろしいか」
声を上げたのはタルタル。
眉間にしわを寄せたガルフがつっかかる。
「おいおい、忍者さんよ
これから実技試験て時に、道具も揃えてこねぇとはな。
気が抜けてんじゃねえのか」
「も、申し訳なくござる…」
「つってもよ、即座にダンジョンに行くなんてのは
誰もわかんなかったわけだし、しょうがねえだろ」
ソグのフォローにも、ガルフは引かない。
「冷かしで来んなっつってんだよ。迷惑かけんじゃねーよ」
「あ?誰が冷かしだって?」
睨み合うガルフとソグ。
その間に入ったのは着ぐるみの野うさマン。手に持ったボードには
『まあまあご両人、俺っちも買いたい!』
「あ、あのすいません、僕もちょっとアイテム…」
メガネの魔法使いエト。
「は?なんだお前ら、なってねえな」
「そんなに遠回りでもないですしぃ~
道具屋へ寄ってからぁ、ダンジョンに行きましょう~。
それでは皆さん、出発進行ぉ~。
仲良く楽しくいきましょうねぇ~」
「楽しくって、おいおい…」
少々不満げな顔のガルフを連れ
第9パーティーは試験会場を後にするのであった。
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