第2話最強の剣士を目指して


20XX年、後に社会現象にまで発展するような、ある出来事が起こる。


フルダイブ型VRMMORPGの発表。

その名を「ThousandStars Online」通称「TSO」


それは、実現まであと数十年は掛かるであろうと思われていた技術だった。


全世界のゲーム関係者に留まらず、

医療化学、脳科学、軍事技術、携わるありとあらゆる科学者たち。

現代化学の数歩先を行く技術に、その全員が驚愕し括目した。


さらに驚くべきは、

それを発表した企業がその時点までまったく無名の企業であったという事だ。

社名を「Cascade社」

Cascade社については、不明確なところが多く、

財源、代表の国籍、過去の経歴、正確な規模、何よりその高すぎる技術力、

現在においてもその「謎」は枚挙にいとまがない。


視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚

五感のすべてが完璧に再現された

その仮想世界はまさに現実そのものといえる完璧なクオリティ。

それが全世界的に広がりを見せるのに、さほど時間は掛からなかった。


さらに「TSO」は独自の進化を辿った。


「Time Compression System」(タイムコンプレッションシステム)


一言で表すならば時間圧縮技術、

仮想世界の時間と、現実での時間とで体感時間を変化させるシステムだ。

これにより、

現実的には僅かな時間でも、仮想世界での長時間の活動が可能となった。


「Mutual Realization System」(ミューチュアルリアライゼーションシステム)


ゲーム内通貨換金システムだ。

現金でゲーム内通貨が購入できる事はもとより、

ゲーム内通貨を再度現金に戻す事が可能。

もちろんの事、換金レートは前者後者で異なるが、

その異常とも言える良心的なレートは、プレイヤーを歓喜させ

ゲーム業界人を驚嘆させた。

これにより、実質的な「プロ化」が成されたと言って過言ではないだろう。


「RealTime Translation System」(リアルタイムトランスレイションシステム)


即時翻訳機能だ。

世界中の主要な言語に対応、プレイヤーはゲーム内において、

自然に話すだけで、世界のありとあらゆる国籍の人々と

リアルタイムで非常にスムーズな会話が可能となった。



ゲーム発表から数年の月日が流れた現在においても、

フルダイブ技術はCascade社の独占技術であり続けており、

「TSO」のプレイ人口は増加し続けている。


果たして今後、Cascade社は、そして「TSO」は

どのような道を辿る事となるのか。私にはわからない、何故なら

それはアナタ自身がこれから作っていく歴史に他ならないのだから。


なお、今なら新規登録得点として

「初心者お助けセット」「魔法の実10個セット」「カスケード君ぬいぐるみ」が

もれなくもらえる!この機会を見逃すな!


さあ、今すぐレッツプレイ!!





「……何この動画…」


「ふふーん!拙者の新作動画でござる!どうでござったか?」


「………………」


夕暮れが紫色のグラデーションを作る

外はそろそろ夜が訪れようというところだった。


ThousandStars Online(TSO)においても

重要な拠点や施設が数多く点在している大都市ローシャネリア

その一角にある小さな酒場。


酒場とはいうものの、ゲーム内においてお酒は存在しないため

ソフトドリンクと食事などが豊富。

食事を楽しむ者、数人でダベり話す者、ひたすら手元のモニターに見入る者。

賑やかな店内は皆、思い思いに時間を過ごしている。


そこで話し込む二人の男。歳は20手前というところ。

一人は短髪赤髪の、いかにも戦士という風貌。名をソグ。

もう一人は 豊満な体型、一言で言えばデブ。名をタルタル。

全身を黒で多い、頭には黒い頭巾をかぶっていた。


「名付けて"5分でわかるTSOの歴史"でござる!」


「どうも何もねえよ、タルタル。

 全部、誰でも知ってる有名な話じゃねえか。

 それにお前、後半 運営の回し者みたいになってんぞ」


「ソグ氏はご存知ないかもしれませぬが、

 TSOにゲーム内録画システムが実装されてからというもの、

 動画界に激震が走りましたのでござる。

 世はまさに群雄割拠、まさに戦国時代となっておるので候。

 考えてもみてござれ、この超リアル世界、しかもファンタジー世界で

 映像が自由に製作できるのですぞ。

 モンスター、魔法、武器、街並み、

 現実でそれらを再現しようと思えば一体何百万、いや何千万かかるか。

 これはまさに 最先端CG映像が誰にでも作れるようになったのと同じ事。

 このすごさがおわかりになられるか?

 ゆくゆくは商業利用も許可がおりるという話まであるのでござるすのぞ?」


「いや知らねーし。言葉変だぞおまえ」


「というわけで、

 拙者が作ったこの動画にぜひ最初のコメントを残してくださらぬか」


「はいはい。わかったわかった。クソ動画乙、っと」


「ほぎゃあああああああ!!!なにをなさるかあああああ!!!

 こんなもん荒らしでござりしょうが!!!」


「と言うかさー、お前

 そのわけわからんキャラ設定どうにかならないの」


「ほ?これでござるか?

 しからば拙者は忍者にて。すべからく致し方のうござる」


「いや完全に語彙力のキャパオーバーしてるからな

 もはや何言ってるかわからないんだけど」


「ネトゲといえば大体は、自分のクラスを最初に選ぶものでござるが

 このゲームに限ってはそうもいかないのが道理」


「そこは変わってるよな。

 つってもだいたい普通にやってりゃ俺みたいに戦士か冒険家か、

 そのくらいにはなるんだけどな。

 あとは回復とか補助魔法覚えれば ヒーラー、攻撃魔法を覚えれば魔法職

 てな感じに勝手に変わっていくからなこのゲームは」


「左様でござる。それに加え、拙者のように手に入れたアイテムに

 職業が付属してくる場合もござりす」


「で、お前はその短刀を手に入れて忍者になったわけね」


「左様」


「何一つ忍べてないけどな。その出っ張った腹とか」


「忍法肉包みでござる!」


「わぁ、超ウケるな」


「…」


「そちらこそ話があると申しておらなんだか、ソグ氏?」


「まあな、…やっぱりこういう世界にいるからには

 男が目指す目標はひとつだと思うんだよな、そういう話よ」


「動画ランキング入りでござろう」


「わぁ、超ウケるな」


「…」


「最強の剣士だろ、やっぱ」


「相変わらずでござるなあ、ソグ氏は」


「最強の剣士、今で言えば誰だろうな」


「うーぬ、そうでござるな

 やはり筆頭に挙がるは 壊剣 でござろう。

 ギルドにも所属せず、誰とも関わりを持とうとしない、

 しかし何者にも負けた姿が一度として確認されたことがない、

 その超パワータイプの剣技は相手に有無を言わさず一瞬にして叩き潰すとか。


 もしくは…クラインノクスのギルマス…か」


「TSO最大ギルド…」


「左様にござる」


「後は ブラッドダッドのメンバーらも、噂によれば相当な手練れ揃いとか」


「そりゃあPKギルドだもんな、戦闘に命かけてるような奴らばっかだ。


 魔法職でいえばリングとかティッティとかよく名前聞くけどな、

 でもやっぱ男は剣なんだよ。


 言っても、奴らは最古参の部類。

 俺が今から超えるには相当頑張らねえといけねえわけ」


「それは無論でござる」


「で、やっぱり一番の近道は何といってもギルドだ。

 色々と面倒なところもあるが、パーティーの確保やアイテムシェア

 利点は大きいわけよ。

 しかもだ。入るなら最大手一択。あそこは入るのに試験があるらしいが、

 福利厚生がとにかく他と段違いだからな」


「福利厚生ではないでござろう…

 しかし…

 こう何もかもがリアルになると、

 なんだかやってる事が現実と大差ないような気がしてなりませぬな」


「フッ、まあそうかもな。


 ともかく。俺は今日から最強の剣士を目指す。

 その第一歩としてのクラインノクス試験を受けようと思うんだわ」


「ご自由に受ければよろしかろう」


「…いや、お前も行くんだよ」


「わぁ、超ウケるでござる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る