サウザンドスターズ☆オンライン

@toooto

第1話どうでもいい出会い



-あのクソ課長の頭皮が一刻も早く不毛地帯になりますように-



電車に揺られ、そうTyitterに書きこんだのは、どこにでもいるくたびれたサラリーマン

少し頬が痩せ、表情には暗い影が落ちていた。


彼の名は鈴木一 郎。歳は26。

よく鈴木 一郎と間違えられる事と、

典型的な社畜としての自分の人生にこの歳になり少々の迷いが生じてきた事が、

目下の彼の悩みだ。


Tyitterを閉じたものの、彼はまだ一心不乱に自らのスマホをいじくっている

スマホの画面には

緑に覆われた美しい背景と共に


「-Thousand Stars Online-」の文字。


(だがしかし…!俺のこのつまらない日常も今日を境に一変するだろう…!)


生気のない顔に不敵な笑みが浮かぶ。




-----------


トントントントン


冬の12時をすぎたあたり、辺りはすっかり暗く、静まり返るなか

住宅街の小さなアパートの階段を鈴木一 郎はやや足早に上っていた。


ドアの前に立った鈴木一 郎は凍える手でいそいそと鍵を取り出し、鍵を開け中へ入った。


そこはワンルームの小さな部屋

几帳面さだけは長けている鈴木一 郎、小奇麗に片付いている。


カバンと、帰りがけに竹屋で買った牛丼をテーブルの家に置き、

鈴木一 郎はなおも急いだ様子でスーツを脱ぎ、ジャージに着替え、PCデスクへと腰掛ける。


「配線は昨日のうちにやった、ダウンロードも全部終わってる、

 説明書も大まかに目を通した

 よし、準備完了…!あとは、インするだけ!うはははは!」


テンション高めに、しかしながら若干小声で鈴木一 郎は笑う。

壁が薄いので、あまり大きな声は出せない。


PCの電源を入れ、

そこから繋がっているティッシュ二つ分ほどの黒い箱状の装置のスイッチも入れる。

黒い箱の小さな赤いランプが数秒点滅し、やがて緑になる。

その横にあるやや大きめのコードレスヘッドホンというような形状の装置にもランプが灯る。


鈴木一 郎はそれを頭に装着し、ベットへと移動し横になった。




---------------




「…ん?なんだこりゃ何も見えないぞ?」



-Cascade Inc.-



黒い世界にその文字だけが白く浮かんだ。


「うおっ!びっくりした!」


その後も、色々な社名らしき英単語が続く。


数秒後、一変あたりは白い光に包まれ、

「-Thousand Stars Online-」の文字が大きく浮かんだ。


「うおお!眩しっ!!」


数秒の沈黙


「…で?どうすんだっけ?……」


ふと自分の体を見ると、まるで白い全身タイツを着ているかのようになっている。


「モジモジ君みたいだな。…いや、そんな事言ってる場合じゃない、どうすんだっけ…」


とりえあず、手を動かしてみる、すると小気味の良い機械音と共に画面が現れた。


「うおっ!すげえ!」


画面と言っても宙に浮かぶ四角い紙のようなもの、そこがタブレット端末のようになっている。

見れば、やたらと文字が書き連ねてある。


「なんだこりゃ、字 細かいな……

 当社は…情報が……管理が……責任が…なんだこりゃ」


画面を指でスクロールし、文字の最下段には二つのボタンらしきものがある


■同意して始める

■同意しない


「あーそういう事ね、はいはい。

 よくわからんけど同意同意」


ボタンをタッチすると、画面には「解析中」の文字。


「なんだよ、すぐ始まると思ったら…なんか色々準備が長いんだなあ」


■身体データ解析完了。アカウントが確認できません。

 新しいアバターを作成します。よろしいですか?


「わーかったよ!よろしいよろしい!

 こっちは明日も仕事で朝早いんだよ。はよしてくれ!」


ボタンをタッチする、同時に目の前に姿見の鏡のようなものが現れる。


■解析データを反映します


鏡には、鈴木一 郎の姿が映し出される。服はさっき着たジャージのままだ。


「うお!?こんなんいつ読み取られたの!なんか怖いな

 ……ていうかあれ?これ見た目まんま俺じゃん……キャラクリは?」


手元に浮いているモニタへともう一度目をやる


■名前

■年齢設定

■微調整

■キャラ設定について


「キャラ設定について??」


画面をタッチする


■当社ではVRシステムを拡張現実という定義の元、運営しております。

 そのため、特例を除き、

 キャラクターの容姿な等はご自身の解析データを元に製作いたします。

 ご理解のほど、よろしくお願い致します。


「ちょ!うそだろ!ネトゲつったらキャラクリだろう!

 このままの自分の姿でやれっての!?

 なんで現実の自分を見させられなきゃいけないんだ!冗談だろ!?」


もちろん誰からも返答はない。


「はいはい、わかったわかった。選択権なしね、へいへい」


半笑いの鈴木一 郎は次に ■年齢設定 をタッチする。


■若め

■現在

■成熟


「うわー…ビックリするくらいアバウトだけど大丈夫なのこれ…」


鈴木一 郎は次に ■微調整 をタッチする。


■髪色

■髪型

■肌色

■目の色

■声の調整

■バランス補正


「お。これは結構細かに設定できるんだな、

 よーしどれどれ…ここはいっちょ、かっこよく……」



十数分の後、姿見の前に立つ鈴木一 郎。


「………」


「結局まんま俺じゃねえかこれ…。

 てか、髪の色とか変えても、売れないミュージシャンにしか見えないんだよなあ……


 もういいや、このままいったれ!始める!!もう始める!!」


■アバター製作を終了してゲームを開始します、よろしいですか?


「しゃあ!どんとこいだ!」


■それではゲームを開始いたします。

 あなたの目前に広がるのは、無限大の自由。

 広大なる新世界での、あなたのご活躍をお祈り申し上げます。


 心ゆくまで「Thousand Stars Online」をお楽しみください。





------------



鈴木一 郎はふと目を開ける、そこは真夜中の草原だった。

サラサラと、草の揺れる音が耳に入る、

それだけではない、草木の匂い、

吹き抜ける少し冷たい風が頬に触れる、

すべてがまるで現実のように。


空を見上げれば満天の星空、そこには異様に大きく、赤と青の二つの月が浮かんでいた。


「な……なんだこれ…ま……まじでか…

 噂には聞いてたが……これはやばい。

 完全に現実じゃないか………………。


 てか本当にこれ仮想世界なのか!?言われなきゃマジで区別つかんぞ!」


鈴木一 郎は目の前の光景に圧倒され、言葉を失った状態で立ち尽くしていた。

しばしの沈黙の後


「………………………………」


「………………………………」


「………………………で?どうすんのこれ?」


ガサッ


ふと物音に反応して後ろを振り返るとそこには、

狼を一回り大きくしたような生き物がこちらを睨んでいた。


「……なにこれ?ペット的なヤツ?

 おーよしよし、こっち来るか?」


するとその生き物は、おもむろに鈴木一 郎の脚に噛み付いた。


「…??」


「……………………………………」


「いたいたいあちあちたたたたったたた!!!!

 うそだろ!うそだろ!!いったたたたた!!!」


「ガルルル……」


「え!?これモンスターなの!?

 ぎゃあああああああ!!!いたいいたい!!たたたたた助けて!

 誰か助けてええええええええ!!!!!」


鈴木一 郎は途端にパニックになり暴れだすが、

狼に似た生物はいっこうに離れようとはしない、

すると目の前にウインドウが現れ、HPゲージが赤く表示され、ぐんぐん減っていく。


「へーなるほど、これがなくなるとゲームオーバーなのね。

 …………………………

 いやちがうちがう!!いたたたたたたたたたた!!!

 やめろおおおおおおおおお!!!!!!ぎゃあああああああ」


HPゲージが0に限りなく近づいたその時、突如として狼に似た生物が炎に包まれた。


ゴオオオオオ


呆気なく狼に似た生物は地面に倒れ、消滅のエフェクトと共に消え去った。


「アヒ…アヒ…な…な……た、助かっ…た…?」


情けない声を上げながら鼻水を垂らし、地面にへたれこむ鈴木一 郎


「そこのキミー。大丈夫ー?初心者さんかな?」


声に反応して、

涙混じりの目で恐る恐る視線を宙に上げると、

そこには、風を巻き上げる真っ白い巨大な竜の姿があった。


よくよく見れば声の主はその竜の上に乗っている女性

白く長い髪を風に揺らせ、大きな瞳で鈴木一 郎を見下ろしていた。



「…ちょ……もういや…このゲーム……」


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