第2話 ほ〜ら、やっぱなんかあった!!
「ところで、俺以外の2人は今日はいないんですか?」
俺と同じぐらいの高さの背中に声をかける。
「2人共用事があって、登校は明日からね。どんな人間が仲間になるか、直接会って自分で掴む方が良いと思うわよ?」
今までと違って、ちょっと意地悪そうな笑顔が返ってくる。
この笑顔、イカンやつですよ。
なんか企んでて、それに巻き込まれた俺を楽しむような、そういうやつですわ。
警戒しながらも進んで行くと、従業員用の出入り口にたどり着く。
そこには上品なアッシュグレーの国産高級車が停まっていて、開いた後部ドアが俺たちを出迎えてくれた。
「さあ乗って!特航科の校舎はこことは違う場所にあるのよ」
「校舎まで新設なんですか?」
「授業の内容が違うから、専用の設備を用意したのよ」
車内ではそれ以上の会話がなかった。
だって、すぐ着いたから。隣だからね、うん。
けどまあ別棟・・・と言うより、この規模は別の学校と言って良いレベルだ。
本棟とは別に専用のグランドやプール、体育館らしき建物が見える。
その中で、校舎と思しき建物は意外と小さい。
シンプルでモダンな作りでは有るが、ちょっと大きめの進学塾と言った外観。
他の設備が普通の高校サイズで用意されている分、校舎のアンバランスさが、余計に目を引く。
「グランドや体育館なんかは、各競技のルールに合わせなきゃいけないから本棟と同じぐらいの大きさだけど、校舎の方はそれほど大きい必要はないの。プールに関しては競技用の25mプールの他に、低重力を再現できる訓練用のプールも有るのよ」
ちょっと自慢気に学院長が説明する。
確かにこの学校は、生徒数に対して物凄く広い敷地を誇っている。
一般的な高校の設備に加え、各学科専用の研究施設も存在しており、どちらかと言えば大学のキャンパスのような広さだ。
そんな中で特航科専用の校舎どころか、専用の設備一式まで揃ってる?
あ、やばい。プレッシャーに腹が痛くなる。
だってこの設備、俺達3名のために用意されたものなんだぜ?
数億じゃ効かないぐらいの金額が、既に使われてるってことだよ?
この現実に
「あら、いい感じに緊張してきたわね」
またこの笑顔だよ。完全におもちゃにしてる目ですよ、これ。
そこで試される俺の身にもなってくださいよ・・・
そうこうしている間に、俺達は教室についた。
広さは普通の学校と変わらない。一応机は30個ぐらい有る。
黒板じゃなくて、巨大な液晶ディスプレイってのが、普通の学校と違う所だろう。
ロッカーだけは少なくて、10人分しかない。
いや、この大きさは立派にタンスと言っても良いかも?
デザインは全く違うけど、お袋のタンスと同じ位デカい。
「ここがあなたの学び舎。どう?気に入った?」
自分たち専用って考えると、気に入るも何も圧倒されるばかり。
主役級の人生!!と期待してはいたけど、それを超える凄さに正直辟易している。
「これぐらいでビビッてちゃダメよ。授業が始まればこんなもんじゃないんだから」
あ、俺知ってる。こういうの、ドSっていうんですよね?
爽やかスマイルドSって言うのは、初めて見た気もするんですが、別に珍しいもんでもないんですかそうですか・・・
「さて、ここで新しい話をするわね。この学校の考査については知ってるわよね?」
学院長がちょっと真剣な表情で、教卓から質問を投げかけてくる。
おれも、一番前の机に座ってそれに答えることにする。
「単純な学力テストではなく、学んだことをどう活かせるようになったか、つまりは実績評価制ですよね?」
控えめにそう応える。
「その通り。もちろんあなたも例外ではない。そこで早速だけど、1学期の考査内容を発表するわよ!!」
あの笑顔、アカンやつや。レッドアラートの上、クリムゾンアラート。
デフコンやったら2クラス。
「あなたはこのクラスのリーダーであるクラス委員となり、特航科の学生をあと2人増やすこと。つまり、特航科のメンバーを5人にすること。それがあなたの期末考査内容よ!!!」
・・・はい?
ビシっと俺に向かって指をさすのは構いませんが・・・
突拍子もない展開になってませんか?
メンバーをあと2人増やすことが、1学期の試験?
いやいや、どないせぇっちゅうんじゃいくど・・・いや、学院長!!
生徒募集とか、学校側がやることですよね?普通!!
何故俺がそれをやらなきゃならんとですか?
「条件は、あなたと同年齢の人間であること、その2人が1学期終了の1週間前までに手続きを終えていること、この2つです。この条件を満たせば、1学期の期末考査に合格ということになります。質問は?」
詳細な説明ありがとうございます・・・って!俺の焦りは全スルーですか?
「あの!!それって失敗したらどう」
「全員退学」
・・・ホワッツ?脳内の全俺が一斉に、はてな形状になる。
「失敗したら特航科は全員退学よ、産山蓮太くん。あなたは期限内にあと2人、特航科の生徒を増員できなければ、あなたを含めその時点での特航科の生徒全員が退学となります。その後のことについて、わが校は一切何もフォローしません。つまり、無職ニートに一直線ってわけね」
ほ~ら、やっぱなんかあった!!なんかあった!!なんかあった!!
思った通りだザマミロばぁ~~~か!!
世の中そう簡単には行かねぇんだよタ~~~~コ!!
見事に予感は的中!!ってか予想爆中ぅ?!
やっぱ俺ってすごいよね!!すごいよね!すごいよね・・・
すごいよね(涙)
ごめん、誰か俺のこと、後ろから優しく抱きしめてくれないかな?
ちょっとわけわかんないです。
第一、学生の増員って、何をどうすりゃいいんだよ?
広告活動か?ビラ巻くのか?街中スカウトか?誘拐か?
しかも、出来なかったら退学。俺だけじゃなくて、他のクラスメートも。
おまけにその後の人生になんのフォローもなしって、いきなり重すぎじゃね?
「理由を・・・教えてくれませんか?何故俺が、クラス委員として生徒を増員しなければならないのですか?それに、他の生徒まで退学になるって・・・」
「あなた、試験途中の面談でこう言ったはずよね?主役級の人生を送りたいと。じゃあ、主役級の人生ってどんなものかしら?」
あ、メガネ光ってる。その向こうの瞳が見えない。
やばいセリフ来るぞ、これ!!
「それはリーダーとして、他の人間を率いることじゃないかしら?学院長としてそう思ったから、私はあなたへの試練をそう設定したのよ」
続いて現る超さわやかドSスマイル。
あの笑顔、付け入る隙がありません。
俺ってやっぱMなのかしら?思わず、ビクってしちゃう。
「宇宙開発に限らず、事を成そうとするなら、まずは信頼できる仲間を見つける。
人間1人では生きられない。それが人類の夢に繋がるともなれば、1人で出来ることなんて何もない。ならば仲間を自ら見つけ、作り、共に進む必要がある。そうは思えないかしら?」
学院長の言う事にも一理有る。
確かに、アストロノーツは俺の夢で、宇宙開発は人類最大の夢でも有る。
その成功には、沢山の人間の協力が必要だ。
その仲間を自ら募り、集めることは、自分で自分の夢を叶える重要な第一歩だ。
平凡な人生を嫌った俺が選んだ、主役級として恥ずかしくない人生!!
リーダーという生き方は、主役級の人生にまさにうってつけ!!
「分かりました、やります!!」
あ、言っちゃった。後悔先に立たずって、じっちゃんに言われてたっけ。
けど、そう言い切った俺の気持ちは、なんだかとっても清々しい。
産まれ故郷では進むことの出来なかったはずの、輝かしい人生。
その第一歩を、ちゃんと歩めたような気がする。
ここまで来たからには、もうあとには引けない。
自分の可能性、最大限にぶつけてやる!!
主役らしく!!俺は拳を突き上げてみる。
ちょっとだけ誇らしかった。
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