なんでまた浦島太郎なんですかね?

@InVil

第1話 脇役ポジションじゃないですか?

 1人暮らしを始めたその日に、風呂場で全裸の少女が俺を待ち構えていた。

 どっかで聞いたことの有るシチュエーションだよな、うん。

 そしてまた、この少女のスタイルが俺の好みど真ん中で、俺の中の主審と副審全員が力強く「文句なし!一本!!」と綺麗に唱和するぐらい素晴らしい。

 そうそう、何事もバランスは必要。

 お腹からおっぱいを経由し首元まで伸びるS字カーブは、起伏こそなだらかだが、まさしく絶妙と言える。例えるならそう、カーブの少ない海岸沿いの緩やかな国道。

 家族でのドライブ、運転初心者のお母さんでも安心してハンドルが握れるぐらい、緩やかかつ綺麗なカーブだ。

 クライマックスは胸元。貧乳ではなく、微乳という言葉がぴったりフィットするその胸は、エロスとかそういうのを超えた芸術の域。

 俺が画像の切り抜き職人であれば、2時間以上は時間を掛けてこだわりぬく、見事なBカップだ。


 ・・・おちつけ、俺。そういう場合じゃないだろう。


 ラノベやアニメなんかでこういうシチュエーション見て、正直うらやましいって思った男子、多いよな?

 俺だって健全な男子、超憧れてた。

 けどまあ、実際に遭遇するとめっちゃ驚く。

 あ、実際に時間が止まる様な感覚、あれガチだわ。

 俺の風呂場に黄色い桶は無いけど、カポーンって効果音鳴ったような気がする。

 それでもっての、目の前の全裸少女。

 俺の大好きな72さんの名曲にあるだろ?有名な歌い出し。

 ま、目が合った刹那に好きになったのは、胸から腰にかけての見事な曲せ

「やっと会えたね、愛しの弟君♡」

 おお!!セリフの最後にハートつい・・・待て。

 お・と・う・と・く・ん?

 いや、そこは旦那様とか、ご主人様とか、そういうのじゃないの?

 ほら、許嫁とか、前世で結ばれていた最愛の人とかって言う設定で、思わず来ちゃいました!!ッて感じの奴。

「えと・・・あなたは・・・」

 色々なことが脳内をめぐったが、やっと出たセリフがそれ。

 ああ、超当たり前で、超普通だ。

「僕は由貴美ゆきみ。遠い昔に生まれた、あなたのお姉ちゃん」

 え~と、また訳の分からないセリフが聞こえたぞ?

「いや、俺の姉は故郷にちゃんと居ま」

「知ってるよ♡」

 うわ、めっちゃ悪戯っ娘な目線来た。このビーム、やばい。

 俺の鼓動をハートビートにテンポアップする、やばいビームだわ、これ。

「けど、僕のほうがお姉ちゃん。だって、1,200年前に生まれたんだから♡」

 またハート!!可愛すぎんだ・・・ちょっとお待ち下さい、

 さっきから俺の思考が追いつかない単語ばかり出てきますよね?

 1,200年前に生まれた?銀の戦車、余裕で使いこなせそうなんですが、俺。

「あ、でも地上に出てからは15年。それまではずっと寝てたんだけどね♡」

 またあの目からビーム。でもってまた、思考をかき乱すサイドメニュー付き。

「あのね!!僕のお父さんと、あなたの遠いご先祖様は同じ人なんだよ♡ズバリ!!君と僕は浦島太郎の子孫!!なんだよ♡」

 議長、ひとつ質問です。

 あ、いや他にも疑問は沢山あるんですが、このままだと銀の戦車使いさんが疲労困憊すると思うんで、ひとつだけ。


 なんでまた【浦島太郎】なんですかね?


 第4の壁向こうから「早速のタイトルコールありがとう!」ってニタニタ笑いながら言うの、やめてくれませんか?

 このシチュエーション、どう考えたって主役展開ですよね?

 それは僕の望み通りです。

 しかも、美人な少女が全裸で風呂場で、俺を出迎える。

 これはまあ景気付けって事で、俺的には初っ端からボーナスありがと!ッて感じ。

 そして、お姉ちゃん属性は一旦脇においておくとしても・・・


 なんでまた浦島太郎なんでしょうか?


 普通こういう展開で、昔ばなしの子孫が~・・・っていう設定なら、主人公は普通【桃太郎】の子孫ですよね?ほら、カッコいいじゃないですか?桃太郎。

 鬼退治もするし、日本を代表するヒーローの元祖って感じで。

 でも、浦島太郎って序盤で亀を助ける以外、活躍ないっすよね?

 なんかこ~、この先童話主人公の子孫が集まって!ってなった場合、浦島さんって脇役ポジションじゃないですか?

 いや、別に嫌いなわけじゃないんですよ、浦島太郎さん。

 でも、そんな設定持って来ちゃって・・・どうするんですか?

 この先の展開、ちゃんと考えてますか?

 第一、主役級の人生を送るという壮大な目標を持つ俺に対して、なぜ脇役ポジションを設定しますかね?

「いや~、新奇性考えてたら、こういうのも有りかな?って思いついたんだよ!!」

 って、第4の壁の向こうでいやらしく笑わないでください、キモいから。

 それじゃノリと勢いだけのダメプロデューサーですよ?


「何考えてるの♡」

 やべぇ、ハートビームまた直撃。しかも微乳の乳寄せとか、反則すぎるだろ!!

 これでは、キモいおっさんの声で萎えてた俺のセンターフットに、熱き血潮が大流入しちまう!!

 くっ!!まだだ!!まだ目覚める時じゃない!俺の邪龍よ!

 ・・・ごめん、言ってみたかっただけです。

「と・・・とにかくここで、こんな格好じゃアレなんで、一旦服を着て、落ち着いて話をしませんか?」

「えぇ~!僕はここで、こんな格好で、アレなコミュニケーションでもまったく問題無いんだけどな♡」

 微乳痴女、良~い響きです。

 でも、ウォーミングアップしている銀戦車使いさんの、せっかくの出番を削るのも不憫なんで、とりあえず服を着ることにしましょう。

 とりあえず風呂場から出ないと、のっけから不自然な湯気や光まみれな展開になってしまう気もするし。

 しかしまあ、今日は本当に疲れる展開が多い。

 せっかくその疲れを癒やそうと思ったのに、またこういうハプニング。

 おもわず漏れるため息、俺も立派なやれやれ系になれますかね?

 いそいそと服を着ながら、俺は今日一日を、思い出していた。


「天野橋学院高等部、特別航行要員育成科、産山蓮太!!」

 講堂に俺の名を呼ぶ声が凛々しく響き渡る。

 産山蓮太うみやまれんた

 高確率で【うぶやま】って呼ばれるんだけど、【うみやま】って呼んでくれた。

 さすが天野橋学院スタッフ、抜かりなんて微塵も有るわけがない。

 俺はその声に、自信たっぷりに「ハイ!!」と応え、勢い良く起立する。

 今は入学式、新入生全員が名前を呼ばれていたんだが・・・俺の後が続かない。

 特別航行要員育成科は最後に呼ばれるとは聞いていたが、同じ科に所属する筈のクラスメートの名が呼ばれず、そこで終了。

 あれ?俺1人だけですか?

 思わず周りを見渡すが、特にざわついた様子は無い。

 やっぱ何かある。俺はそう思い返していた。


 ここ私立天野橋学院は、挙母自動車、姫神海洋グループ、竹芝航空宇宙産業の日本3大グローバル企業が設置した、男女共学の人材育成校だ。

 中等部、高等部、大学からなるこの学院は、交通インフラ製造業の中核を担う最先端技術の研究者や、彼らをマネジメントする人材の育成を目的としている。

 要は日本でも有数のエリート養成校ってことで、当然その門戸が広いはずがない。

 少数の精鋭に対し、充実した教育環境を整え、会社の利益や国益を増大させる人材を育てること。

 それがこの学校の方針。

 学業のみならず、人格的にも優れた者が、この学校の生徒たる資格を持っている。

 だが、自分で言うのもなんだが、俺はその資格に足りているとは思えない。

 じゃあなんで俺がこの学校を志望したのか?

 それは、俺の夢への一番の近道が、この学校に出来ると聞いたからだ。


 アストロノーツ、それが俺の夢。


 田舎の山中に有る神社育ちの俺にとって、星空だけが俺の憧れ。

 そんな俺に、日本初のアストロノーツ養成校が出来るという情報は吉報だった。

 入学試験は3年前、俺がなんの特徴もない田舎の中学に入った時から始まった。

 3年かかる入学試験なんて聞いたこともない。

 けど、受験の常識なんて持ち合わせていなかったガキには、疑問ですら無い。

 体力測定、身体検査、反射神経や記憶力なんかを3年間試されてきた。

 学力を計るような試験は、殆ど無かったと思う。

 3ヶ月前、合格通知を受け取った俺は天にも登る幸福感を味わった。

 が、同時に不安にも襲われた。体力しか取り柄のない俺で、本当に良いの?という不安が大部分だが、それが全てではない。


 貴殿を本校の特別航行要員育成科生徒として、入学を許可する。


 そう、そこには宇宙という言葉が全く入っていない。

 特別航行要員という言葉が、宇宙船クルーという意味合いに取れないことはない。

 けど、明確に宇宙って言葉は入っていない。

 しかし、何も特徴の無い平凡な田舎町で、平凡に暮らすだけの未来に比べれば、遥かに輝かしい進路では有る。

 だってそこは、日本どころか世界でも指折りのグローバル企業が開設した、エリート養成校。中でも、竹芝航空宇宙産業がその運営に参加しているということは、宇宙開発に携われる可能性だって十分に有り得そうな訳だ。

 

 主役級の人生を送ること。それもまた、俺の生きる目標だ。

 この学校なら、主役級の人生が送れるかもしれない。

 いや、アストロノーツを目指す人生は、十分に主役級の人生と言って良いだろう。

 

 そうして迷わずこの学校に進学したは良いが、やっぱ何か裏があるのだろうか?

 その引っ掛かりは消えるどころか、特航科の生徒が入学式に俺1人しか参加していないという事実を前にして、より大きくなった。

 とは言え、考えたって何かが変わるだろうか?

 今こうして天野橋学院高等部の入学式に参加しているということは、誰もが羨む輝かしい道を歩みだしたことには変わらないし、仮に裏があったとしても具体的な対処策なんて俺には思いつかない。

 とりあえず、事前の通知にあったように、入学式が終わったら学院長室に行こう。

 関係者のありがたい祝辞を聞きながら、俺はぼんやりそう考えていた。


 どうぞ!と言う凛々しい声が、ドアの向こうから聞こえる。

 うわ~、やっぱ超名門私立校の学院長室の扉って、めっちゃ豪華な木材製ですわ。

 心地よい重みもあって、扉開けるだけなのに超ドキドキする。

 学院長の顔は知っている。

 試験中も何度か面談したし、先程の入学式で嫌でも覚える。

 メガネが超似合う、30代中盤の出来る女。

 凛々しくて知性にあふれて、でも心地良い威圧感を与えてくれる、そんな女性ひと

 ジムなんかにも通って、スタイル維持にも勤めてるんだろうな~。着痩せ分を含めても、Dカップはありそうな胸とヒップまで繋がる上品なS字ラインは、登山初心者に優しく、それでもちょっとした辛さが楽しみになるようないい具合の

「86のDよ」

 いつの間にか入室していた俺に、学院長はそう声をかけてきた。

 なんだ?!!なんで俺の考えが読めるんだ!!

 視線でバレたのか?鼻の下伸びてたか?そんな情けない顔してたか?

「それぐらい出来ないと務まらない。学院長っていうのは、そういう役職なのよ」

 スケベ男を相手にするわけでもなく、あらあらしょうがないわねっていう感じでもなく、ごくごく自然に好意的に受け入れてくれたようなそんな口調。

 うん、確実に俺の人生どころか、普通の人生では遭遇することがないタイプだ。

 度量が広いというか、余裕が有るというか・・・

「自分の好みに合うかどうか、見定めるのは良い事よ。変に自分を偽らないのも合格。けど、自信持って見定めるぐらいにはなってほしいわね。照れながら見定めてるようじゃ、舐められちゃうわよ?」

 完全に向こうのペース、そりゃそうだろうな。

 超一流企業の重役とも対等に渡り合わなければいけない、そんな立場だろうし。

 執務机にあるネームプレート、海泰うなだい咲和さよりの右側に光る高等部学院長という肩書が、とてもふさわしく思える。

「さてと、産山蓮太くん。早速だけどに座って。特航科の説明をするから」

 絶妙な硬さのソファって、本当に有るんだな。

 少し浅めに腰掛けると、自然と背筋が伸び心地良い緊張感に包まれる。

 超一流校は何でも一流、ということなんでしょうね。

「まず、特航科の学年主任は私、海泰咲和が勤めます。つまり、特航科は学院長直属のクラスってことね」

 とても綺麗な所作でソファに座った学院長が、そう説明する。

 学院長直属?そういうのがあるのか?

「このクラスはね、宇宙開発要員を育てる為の学科として何が必要か、それを検証するためのテストケースなのよ」

 やっぱりね、正直にそう思う。

 俺なんかが人類の最優秀エリート、アストロノーツの育成対象になるわけがない。

 あくまでテストケースに使われる要員、そういう事だ。

「がっかりするのは早いわよ。実地検証に計画を移すということは、それだけ本番で活用できる自信があるということ。つまり、あなたには宇宙開発要員になれる可能性が十分にあるってことよ」

 何でも見透かすな、本当に。

 要はテストだが、成功率が低い人間を起用しない、ということなんだろうか?

 自信持っても良いのかな?

「そのとおりよ、産山君。こちらだって伊達に3年間、あなたを試したわけじゃない。それに、日本の陸海空を制覇する3大企業が、無駄な事すると思う?」

 この人に言われると、不思議と自信が湧いてくる。

 確かに道楽や酔狂で、世界に冠する3大企業がこんなことはしないだろう。

 将来性を見込んでくれたことは、素直に嬉しいし、自信になる。

「いい顔になったわね。話を続けるわよ?わが校の方針は少数精鋭。基礎研究、応用発展、実地開発、市場反映、総合マネジメントの5つの学科があり、それぞれの学生は30名程度。

 1学年で150名、全校生徒数はたったの450人。その少数の人間を、現場で活躍するトップスペシャリストが直接指導することで、ただの研究員や作業員ではなく、リーディング要員にふさわしい人材を開発することがわが校の目的、と言うのは知っているわよね?」

 静かに頷く。ここまでは事前配布された資料や、サイトにも掲載されている。

 けど、こっから先はそうでもない。

「中でも特航科は特別な存在にして、更に少数精鋭。特航科の生徒は現在、産山くんを含めて3名しかいません」

「たったの3人?!!」

「あら、驚くことかしら?」

 余裕にあふれる挑発的なスマイルが返ってくる。

 やばい、こういう顔する大人の女には注意したほうが良い。

 人に自信を与え、それでも自分のペースに巻き込む。

 さすが、若くして天野橋学院高等部学院長を務めるだけある。

「そりゃだって、他のクラスは30人いるんですよね?それが3人しか居ないって、いくら何でも少なすぎでは?」

「そうでもないわよ」

 ちょっとエロい動作で、脚を組み直す。

 エロさ全開じゃなくて、時折ほのかに滲み出るのがまた、超一流って感じですな。

「スペースシャトルが無くなった今、宇宙に飛び立てるのは一度に3名程度。年間で10名ちょっとの人間が、地上と宇宙ステーションを往復しているだけ。民間での開発も色々と進んでいるけども、人間を宇宙に送れるのは、それが限界って所。

 その限られた枠のために、何十人もの人員を教育するのは非効率だと思わない?」

 そんなもんなんだろうか?素人の俺にはわからない。

 だけど、自信に満ちた学院長の話し方は、なぜだかそれを信じさせてしまう。

「ともかく、まずは学び舎に案内するわ」

 相変わらず無駄のない動作で、学院長が立ち上がる。

 素直についていくしかないなと思い、俺も彼女の後を追う。

 引き締まったおしり、ナイスですね!

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