第106話
雲は厚さを増している。雨も強さを増している。風も出てきた。そろそろ雨宿りする場所を探したほうがよさそうだ。
「俺たち、あそこから生還したんだよな」
あらためてバスを眺めた。まだ夢のようだった。
「『生還した』って言うけど、全部あたしらのおかげだからね」
「ほんと、どうしたらいいか分かんなかったんですから。でも私、英介さんが死んじゃうのだけは絶対に嫌だって思ったから」
久梨亜の口調にはいくらか説教調が、そして美砂ちゃんの口調にはいくらかお怒りが混じってる。
「分かってる。分かってますって。ふたりには感謝してる。それは俺がこうして生きているからだけじゃない。奥名先輩が無事だったってことがだ。まあ、いろいろあったけどほんとヒヤヒヤしたよな。一時はどうなることかと」
そう。最後の手段だったガードレールにぶつける作戦も取れないってなったその時、俺の中では分かっていた。バスを停めるには久梨亜と美砂ちゃんの力を借りるしかない、でもふたりはそれを
俺にはふたりの力がどうしても必要だった。奥名先輩を無事に帰すには。先輩をどうやっても助けるには。
ふたりには力を貸せない事情がある。これが「真・神様のテスト」だからだ。だから力を貸してもらうにはその事情を超える理由がいる。だから俺は“賭け”に出た。俺の命を張った“賭け”にだ。俺には死ぬつもりはこれっぽっちもなかった。「前に進む」って言葉はあくまで生きるつもりだった
まあその“賭け”がうまくいったから、今こうしてここにいるわけなんだが。
「えっ? 英介、今なんて言った?」
驚いた表情で久梨亜がこっちを見てる。美砂ちゃんもだ。えっ? 俺今なんか言った?
「英介さん、なんですか? その『賭け』って」
鋭くなる美砂ちゃんの目。しまった。心で思ってるだけのつもりが口に出てしまっていたか。
「おい英介、もしかしてあの時の言葉、全部あたしらにバスを停めさせるための演技だったって言うんじゃないだろうね」
久梨亜の眼光がキツイ。見てられない。そういえばこいつは悪魔だった。悪魔に
「ちょっと英介さん、それ本当ですか。私、ものすごーく心配したんですからね。英介さんが死んでしまうって、私、ものすごーく嫌だったんですからね。それがお芝居だっただなんて、私許せません!」
美砂ちゃんもお怒りだ。でも頬をぷうっと膨らませてるようすはそれを上回ってかわいい。
まあこれ以上隠すこともないだろう。俺はふたりにすべてを話すことにした。
「ハハ、ばれたか。そうさ。お芝居。ふたりに俺が死んでしまうって思わせてバスを停めてもらおうって思ったのさ。俺の必死の賭け。天使と悪魔を相手にまわした賭け。その結果は俺大勝利」
俺はおどけて右手でピースサインをつくってみせた。ヤレヤレといったようすではあっと息を吐く久梨亜と美砂ちゃん。
しかし次の瞬間、ふたりは同時にハッと顔を上げた。そしてふたりとも空の同じ一角をじっと見つめて動かない。
「おい英介」
久梨亜が言った。目線は空の一角をじっと見つめたままだ。なにかただならぬ気配がそこにはあった。
「あんたの賭け、どうやらとんでもないものを
俺は
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