第4章 とあるデパートでのできごと
第47話 天界にて その10
天界は不思議なところである。
大地に接しているわけではないのに植物が生え、化石燃料や太陽電池があるわけでもないのに電気があった。詳しい理由はわからない。天の住人によると「全ては神の奇跡のたまもの」なんだそうだ。
そして今、ここにその「神の奇跡のたまもの」を思う存分堪能している存在があった。
それは誰あろう、他ならぬ神様、その人(?)自身であった。
神様は起きていた。
(なお正当な対価を支払って調達された物かどうかはわからない。)
神様は画面に夢中だった。天使らには「研究中につきしばらく入ってくるな」と申し渡してあった。寝所には神様を邪魔する者は誰ひとりいないはずだった。
しかしそんな神様の背後から急に声がした。
「おや珍しい。神様がベッドの中にいないなんて。これは明日は天界に雨でも降るんじゃねえでしょうな」
神様は思わずビクッと体を震わせた。そして驚いたように振り返った。裏地が赤の黒マントが目に入った。悪魔メフィストフェレスだ。
「なんだメフィストフェレスよ、貴様また来たのか。ミサエルの報告までにはまだ間があるというに」
神様は立ち上がりながらメフィストフェレスからモニター画面を隠すように動く。
「へい、存じておりますよ。なんせ神様は報告を『月に1度』になさっちまったんですからね。あれからまだひと月は経ってない。あっしが今日来たのは別の用事。あっしが今日来たのは報告を聞くためじゃねえんで」
メフィストフェレスは口元にニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべていた。そして目線をチラチラと神様の背後のモニターへと走らせる。
「な、なんじゃ。今日は例の賭けのことで来たのではないのじゃな」
「ええ。だからそう言うてますんで」
「じゃあいったいなんの用じゃ。知っての通りわしは天の中で一番忙しい存在。まさに今も“研究”に没頭していたところじゃ。用がないならさっさと帰れ」
神様はメフィストフェレスに向かって右手を“シッシ”と振ってみせた。今はどうしてもメフィストフェレスにすぐにここから立ち去ってほしかった。居てもらいたくない
しかしメフィストフェレスの側にもすぐに立ち去るわけにはいかない理由があったのだ。
「用はごぜえますよ。それもたいそう興味深い“用”が」
「なんだ、あるのか。あるならさっさと言えばよかろう」
「へい、では遠慮なく。なんでも聞いたところによると、最近神様はたいそう面白いものを地上から手に入れなさったそうで」
メフィストフェレスはしゃべりながら顔を突き出して神様の背後をのぞき見ようとする。神様はますますモニターをメフィストフェレスから隠そうとする。
「な、なんじゃ。別に面白いものなどないわ」
「ほう。それじゃそのうずたかく積まれたそいつはいったいなんなんで?」
メフィストフェレスはモニターではなく、傍らのDVD&ブルーレイタワーを指差してみせた。4つあるタワーのどれにも最上段のレーベル面にはセクシーポーズをした若い人間の女性の姿があった。
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