第43話

 そんなことより、俺は俺自身の最大かつ最難関の問題をなんとかしなくちゃならない。その問題が片付かない限り、のんびり自販機のコーヒーも飲めやしない。


 その問題、すなわち「奥名先輩を振り向かせたい大作戦」を、だ。


 しかし目下もっかのところ、この問題に関しちゃ連敗記録を絶賛更新中。ない脳みそを絞って俺もいろいろ考えるんだが、まあ気持ちがいいくらいにことごとく空振りに終わる。

 かといって他の問題が連戦連勝ってわけでもないのがまた悲しいんだが。


 もし久梨亜の「あの目はあんたのことが気になってる。間違いない」の言葉がなかったのなら、とっくに俺はあきらめてたかもしれない。


 なので俺は自分の脳みそに早々そうそうに見切りをつけることにした。かくなるうえは、俺より優秀なやつの脳みそを借りるしかない。


 というわけで、ある晩俺たち3人は自宅アパートからそれほど離れていないとあるファミレスにいた。


 金欠でヒーヒー言ってた俺が外食なんて不思議だろ?

 実はなぜかあのときは気づかなかったんだが、その後美砂ちゃんと久梨亜にも給料が出たんだ。まあ考えてみれば当然だよな。一応うちの会社の社員ってことになってるし。

 生活に欠かせない“衣食住”のうち、美砂ちゃんと久梨亜について掛かるのは実質食費だけ。家賃はふたりがいようがいまいが変わらない。衣服は彼女らがその“力”で作っちまう。あと水道光熱費が若干プラスになるとはいえ、人間が3人同居するのに比べりゃ安いもんだ。

 しかも彼女らが現れてから給料日まで数日しかなかったはずだが、ふたりにそれぞれ丸々1ヶ月分出たんだぜ。超ラッキーじゃん。


 そう言うこともあってあのころの金欠の危機から一転し、俺たちはちょっとばかりリッチな生活を送れるようになっていた。


 と言っても今日ここに集まったのはなにもプチセレブ感を満喫するためじゃない。先にも書いたように俺にとって目下の大問題であるところの「奥名先輩を振り向かせたい大作戦」について、ふたりに相談するためだ。社内じゃ他の人の目があるから無理だし、自宅アパートじゃどうしてもだらけちまう。ここならばちょうどいい。


「さあて、ここに来るのは久しぶりだからな。肉食うぞ!」

 久梨亜のやつ、やけに張り切ってやがる。さすが悪魔だ、肉食うイメージが久梨亜にピッタリじゃねえか。


「私はヘルシーなのがいいですね。へえー、『春のフェアー』中なんですね。あっ、『春のきのこ雑炊』なんていうのがありますね。これにしようかな。でもこっちも美味しそうだし……」

 美砂ちゃんは健康志向だ。天使なんだから人間用の健康メニューとか関係ないんじゃないかって思うんだけど。そうでもないのかな。


 俺の隣には美砂ちゃん、真向かいには久梨亜が座ってる。美砂ちゃんの横顔もかわいいな。それにしてもこの前の彼女の変身にはビックリさせられた。今でも信じられない。まさかこの“ちっぱい”が久梨亜もビックリの“巨乳”になったんだからな……。


「どこ見てるんですか、英介さん!」


 美砂ちゃんに気づかれた。しまった! 怒られちゃった。

 でもそれが心地いい。やばい、俺本当にMになっちまったみたいだ。いや、よく考えたら奥名先輩に怒られるのも心地よかったな。すると俺ってもともとMだったのか。知らなかったな。メモしとこ。

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