第29話
店員が待ってる。でも正解のメニューがわからない。
あっ、“店員が待ってる”ってことは“迷惑をかけてる”ってことだよな。うわあ、それってまずいじゃん。神様が「他人に迷惑をかけて平気なような人類は滅亡すべき!」などと言い出しかねない。早く決めないと。
しかし焦れば焦るほどただでさえ足りない俺の脳みその働きは悪くなる。脳みその働きが悪くなればそれだけ俺の焦りも大きくなる。悪循環だ。
ヤバイよ、ヤバイよ。人類が滅亡しちゃうよ。
「おい英介」
久梨亜が俺の顔を心配そうにのぞき込んだ。
「無理そうならいっそ昼飯抜いたらどうだ? そしたら選ばなくてもいいだろ。
悪魔の久梨亜の言葉がまるで仏の救いに聞こえた。そうだよな、昼飯を食べないって選択もあるよな。
今、俺の前にはふたつの選択肢がある。
1.昼飯を食べる
2.昼飯を食べない
どれを選ぶべきか? どう行動すべきなのか?
その瞬間、俺は再び頭を鈍器でぶん殴られたような衝撃を以下略。
えっ? もしかしてこっちが本命?
考えてみればさっきの4択にははっきり言って差がなかった。選びようがなかった。でもそれってもしかしたら“テストじゃなかった”からなんじゃないのか。
しかし今度の2択にははっきりした差がある。選ぶための“取っ掛かり”がある。
間違いない。こっちが「神様のテスト」だ。
俺は頭がスーっと晴れ渡っていくのを感じた。よしいける。いけるぞ俺は。
考えてみる。
“1”の利点ははっきりしてる。たっぷり栄養を補給して午後からの準備万端、バリバリ働ける。そしてこれが人類滅亡を引き起こすとはちょっと考えられない。
“2”の利点はなんだ? そういえばどこかで「プチ断食でからだすっきり!」とかいう話を読んだな。その
で、“2”の欠点のほうだがこれは簡単。昼飯を食わないことで午後のパフォーマンスが低下する。いくら俺のパフォーマンスがもともと低いからといっても、低下すれば会社のみんなに迷惑がかかる。すると神様が「他人に迷惑をかけて平気なような人類は滅亡すべき!」などと言い出しかねない。
決まったな。
俺はむくりと顔を上げた。そして表情を変えずにひと言だけ口にした。
「日替わりで」
メニュー選びがテストじゃない以上、どれを選んでも同じこと。ならば内容までお任せの日替わり定食こそが俺に最もふさわしい。
俺は久梨亜と美砂ちゃんのほうを見た。ふたりともホッとしたようすで微笑んでくれていた。もちろん昼飯は旨かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます