第28話

 今回のテストは強敵だ。難しさでいったら前のふたつを超えている。いやもしかしたら前2回を足し合わせたよりも今回のほうが難しいかも。


 あ、今「たかが昼飯のメニュー決めごときに大げさな」って思ったろ?

 チッ、チッ、チッ。これだから素人は困るんだよ。


 いいか、前2回のテストでは選択肢それぞれに明確な長所と短所があった。“この選択肢には○○という利点があるけど、同時に××という点から人類滅亡を招きかねない”ってやつだな。だからそこを取っ掛かりにしてどれを選ぶべきかを考えることができた。

 しかし今回のやつにはそれがない。4つの選択肢のどれを選ぼうと差がないように見える。


 俺が魚定食を選んだからってどうして人類が滅亡するんだ? わけわかんないだろ。他の3つのメニューでもそれは同じ。どうしてそれが人類が滅亡する理由になるのかまるで意味不明。意味不明のやつどうしを、どうやって比べたらいいんだよ。


 つまり考えるための取っ掛かりがない。判断のしようがないんだ。


 そして“財布”のテストでも使った“たとえ間違って人類滅亡になったとしても「精一杯考えた」って胸を張って言える回答を選ぶ”って方法も使えない。だってそうだろ。「俺はうどんを選んだ。法と正義に反した行いはしていない!」なんて言っても「それがどうした」って返されてそれで終わりだろ。


「魚……、日替わり……、うどん……、そば……。あーわからん。どれを選んだらいいのかサッパリわからん!」


 俺は文字通り頭を抱えた。昨日までだったらほぼ悩むことのなかった昼飯のメニュー決めってやつが、実はこんなに奥深いものだったとは。


「美砂よ、どう思う? これどれか選んで差がつくものなのか?」

「さあ、私にもわかりません。でももし本当にこれが例の“あれ”だとしてですけど、ぬし様のお考えになることについては、私みたいな存在が到底思い至ることのできないところがありますから」


 久梨亜と美砂ちゃんがなんか話してる。ふたりにはなにかいい考えがあるんだろうか。でもそれを頼ることはできない。やっちゃいけないんだ。


「ご注文おうかがいします」


 ついに店員が俺たちのテーブル横にやってきた。


「よし、そんじゃあたしは魚で。今日はサバだな。ちょうど寒サバの時期だからきっとうめえぞ」

「私はうどんでお願いします。今日は寒いですからあったかいのがいいですね」


 久梨亜と美砂ちゃんがテキパキと注文する。偉いな。ふたりともちゃんと選ぶ理由を持ってる。


「そちらのお客様は……」


 まずい、俺の番だ。早く決めないと。でもどれにしたらいいんだ。安易あんいに決めるわけにはいかない。“俺が昼飯になに食うか”に人類滅亡がかかってんだぞ。

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