第27話

 さて「俺自身の力で奥名先輩を振り向かせたい」なんて大見得おおみえを切ってしまった以上、実際にやってみせないとな。でないと“やるやる詐欺”になっちまう。

 やるなら一歩ずつ確実に。まずは昼休みに先輩を昼飯に誘うとこから始めよう。


 と、勢い込んで先輩のところへ「昼飯一緒に食べませんか」って言いに行ったんだけど……。


「ごめん瀬納君。私今それどころじゃないの」


 って言われてあっさり撃沈。うん、確かに忙しそうだ。


 奥名先輩は俺があこがれるくらいな存在。りんとしたたたずまい。小さな顔。大きな目。髪は普段は後ろでまとめている。ほどいたら肩に掛かるぐらいになるらしい。まだお目にかかる機会には恵まれてないけど。


 そしてただ綺麗なだけじゃなく“できる人”ってオーラがものすごい。もちろん実際に仕事もできる。俺なんかよりはるかにずっと。

 そんでもって必然的に“できる人”のところには仕事が集中する。俺なんかより遥にずっと。それなのに帰る時間は俺とそんなに変わらない。もちろん仕事はきっちりこなした上でだ。どれだけ優秀なんだよ。いや俺がボンクラすぎるのか。


 というわけで俺の「奥名先輩を振り向かせたい大作戦」はいきなり一歩目からつまずくことになっちまった。


「仕方ないだろ。行こうぜ、英介」

 久梨亜が俺の袖を引っ張る。俺は後ろ髪を引かれる思いで久梨亜と美砂ちゃんといっしょに先輩の席を離れる。


 引っ張られていきながらも振り返って先輩のほうをチラチラ見る。先輩も俺のほうをチラチラ見てる。なんか怒ってるみたい。忙しいときに声かけたのは悪かったけど、怒んなくてもいいのにな。


 うちの会社には社食はない。だから弁当か外に食べに行くってことになる。外に食べに行くっていっても近くに店もそんなにない。俺たちは会社裏手の小さな食堂に入った。俺がよく行くところだ。小さいとこだからメニューは魚定食に日替わり定食、それにうどんやそば程度。座席も少ないが幸い今日はひとつテーブルが空いてた。俺たちはそこへ腰をおろす。


 メニューを手にする。さて、どれにしようか。

 今、俺の前には4つの選択肢がある。


 1.魚定食

 2.日替わり定食

 3.うどん

 4.そば


 どれを選ぶべきか? どう行動すべきなのか?


 その瞬間、俺は再び頭を鈍器でぶん殴られたような衝撃を感じた。いや、だからこれまで頭を鈍器でぶん殴られた経験はないから以下略。


 またか、またなのか。もうこれで今日3問目だぞ。


「うわあ、一体どうすりゃいいんだ」

 俺は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。まわりの客連中が何事かと俺のほうを見る。


 横を見る。美砂ちゃんが心配そうに俺を見てる。今回はさすがに美砂ちゃんが無実だってのはいかにボンクラな俺にでもわかる。


「おい英介。もしかしてあんたまたこれが“あれ”だって言うんじゃないだろうな」

 久梨亜が少しあきれたような声を出す。さすがに第三者の目があるこの場で「神様のテスト」という言葉は使わない。


「ああ。たぶんな」

「マジかよ」


 どうする? さすがに財布の件やキューピッドに助けを求めるなんてのはそう度々たびたび起きるもんじゃない。しかしこれは別。昼食は毎日ある。それをこれから毎回悩むことになるのか? 勘弁してくれよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る