第25話

 俺はすっかり気が動転してしまった。大変だ。俺の勘違いでかわいい美砂ちゃんを傷つけてしまった。


「ご、ゴメン美砂ちゃん。俺の勘違いだ。本当にゴメン!」

「いいです。もう私わかりましたから」

「えっ、なにを?」

「英介さんがそんなひどい人だったってことを、です!」

 まだ目をうるませながらプン!とねる美砂ちゃん。それもまたかわいい。


「ゴメン、この通りだ。謝るから許して」

「許しません! すぐにでもぬし様に報告してやるんだから」

「そんなあ……」


 美砂ちゃんはそっぽ向いてプンスカ怒ってる。俺はその脇でひたすら彼女に許してもらえるよう懇願こんがんしてる。奥名先輩に続いて美砂ちゃんにまで誤解されたら俺、いったいどうしたらいいの?


 そんな“ただでさえややこしい事態”の現場に、事態をさらにややこしくしかねない最悪の存在が現れた。

 もうわかるだろ、久梨亜のやつだ。


「おやおや。女の子を泣かせるなんて感心じゃないね」

 腰をくねらせてニヤニヤしながら近づいて来やがった。


「ちょっと聞いてくださいよ久梨亜。英介さんったらひどいんですよ!」

 美砂ちゃんが久梨亜のもとに駆け寄る。


「まあどんな事態なのか聞かなくてもだいたいわかるな。おおかた英介が強引に美砂に迫って拒否された。そんなとこだろ」

 相変わらずニヤニヤしながら久梨亜が言う。残念だがてめえの推察はハズレだ。美砂ちゃんからもそうだって言ってやってくれよ。


「そうなんですよ。英介さんたらねえ……」

「美砂ちゃん!」


 あわてた。びっくりした。いくら怒ってるからって、まさか美砂ちゃんが俺を冤罪えんざいにはめようとするだなんて。天使のような顔してやることがひどくないか。あ、でもよく考えたら彼女は本当の天使だった。


「違うって。また俺が新しい『神様のテスト』を美砂ちゃんが知ってたんじゃないかって勘違いしたんだよ」


 とにかく火消しだ。先輩、美砂ちゃんに続いて久梨亜にまで誤解されたら俺、会社に居場所なくなっちまう。

 俺は大急ぎでこと顛末てんまつを久梨亜に説明した。


「なるほどね。つまり英介としたらその『奥名先輩』ってのとは仲良くなりたい、でも美砂の力は借りたくない。そういうことだろ」

「そう。だから悩んでるんだよ」

「なら簡単じゃねえか」

「えっ?」

「美砂のじゃなくあたしの力を借りりゃあいいじゃないか。あたしは悪魔だよ。悪魔ってのは人間の願い事をかなえることに関しちゃ、天使よりもはるかに上をいくからね」

 胸を張りながら久梨亜が言う。うん、やっぱりデカいな。


 って、そうじゃなくて“やっぱり”こいつ事態をさらにややこしくしやがった。

 また新たな選択肢が増えたじゃねえか。


 3.久梨亜に頼んで奥名先輩と両想いになる


 しかしこの選択肢に関してなら俺は即答できる。


「却下」

「ええっ、なぜだい。悪い話じゃねえだろ」

「だいたいお前悪魔だろ。悪魔に願い事をするって時には対価として魂を差し出すのが普通じゃねえのか。『願い事を3つ叶えてやろう。そのかわりにお前の魂を貰うぞ』ってな」


 そうだよ、いくら奥名先輩と両想いになれてもだめなんだよ。両想いになれたその瞬間に俺が魂取られて死んじまったら意味ねえじゃねえか。

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