第13話 天界にて その4

「いいでしょう」


 メフィストフェレスは同意しました。そして続けました。


「で、その者の観察ですが、我らがするわけにもいかないでしょう。いくら神様が暇だからといっても」


 またです! またあおってます! しかもフフッと笑ったんです!

 もうプンプン! です。ぬし様もまた頭に血がのぼったに違いありません。

(繰り返しになりますが、主様に血があるかどうかはこの際考えません。)


「な、何を言うか、わしが暇なはずがないであろう。わしはこの天の主であるぞ。わしがこの天の中で一番いそがしいのだ」


 そして裏に向かって大声で呼びかけたんです。


「誰か、誰かおらぬか」


 でも誰もこたえません。もちろんみんなやり取りを聞いてます。主様がお呼びですから誰かが応えないと。でもことは“人類滅亡”です。厄介やっかいごとです。係わりたくありません。


「誰か、誰かおらぬのか」


 また主様が呼びます。こうなると誰かが行かないと。でも誰が?


 すると隣の天使が言ったんです。


「○○○○、あなた行きなさい」

「えっ。でも私……」

「いいから行くの。いい? 他のみんなは急用で出かけてるの。わかった?」

「はい。でもそれって……」

「これ以上言わない。あなたが主様のご用を聞いてくるの。いいわね?」


 逆らえませんでした。行くしかありませんでした。私は初めて主様の御前に出て行きました。


「あのう、お呼びでしょうか」


 私を見た主様は一瞬変な顔をされました。


「なんだ○○○○か。いつもの用聞きの天使はどうした」

「はい。みなさま急用とかでお出かけになられていて、今は私しかおりませぬ」


 私は言われた通りを言いました。

 主様は私を御覧になられました。咳払いをひとつされました。威厳を正されました。ああ、怒られる。嘘がばれる……。

 でも主様の言葉は違っていました。


「よいか、わしは今からこの矢を地上へと放つ。お前はこれを追ってこれが誰に当たったかを見届けるのじゃ」

「えっ、私が、ですか」

「そうじゃ。それだけではない。その後のその者の行動を監視し、適宜てきぎわしのもとへ報告するのだ」

「……わかりました」


 ホッとしました。同時に大変だって気づきました。でも主様のご命令です。やらないわけにはいきません。


 そこへあの悪魔が割り込んだんです。


「ちょっと待った。報告者がそちら側だけでは不公平。こちらも監視を送らせてもらいます」

「なんだと」


 主様を無視してあの悪魔は空中に輪を描きました。輪の中が黒くなりました。トンネルから出てくるようにひとりの女悪魔が現れました。美人で胸とお尻が大きくてウエストがきゅっと締まってました。わあすごい、って思いました。


「お呼びでしょうか、メフィストフェレス様」


 女悪魔がメフィストフェレスの前にひざまずきました。


「うむ。ヴァルキュリヤよ、いまからわしが命じることを確実に履行りこうするのだ」


 メフィストフェレスは女悪魔に近づきました。耳打ちしました。私には聞こえませんでした。


「では矢を放つぞ」


 主様が一同を見回しました。


「対象は女がよかろう。歳は幼くもなく、適度に若いのを。では行け」


 主様が矢に命じました。矢が主様の手から浮き上がりました。


 矢は行き先を探してるようでした。やがて目標が決まったのか、一直線に地上めがけて文字通り“矢のように”飛んでいきました。


 それを追うように私とヴァルキュリヤ、つまり久梨亜ですね、が飛び出していきました。後は英介さんがご存じの通りです。

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