第10話 天界にて その1

 私は天の天使です。名前はミサ……。あっすみません。天使の名前は軽々しく人間に教えちゃいけないんです。ごめんなさい。なので後で私の名前が出てくるところは全部伏せ字になります。本当にごめんなさい。


 そういえば久梨亜、あなたの名前も出てくると思うんですけどそれはどうしましょう? えっ? 別に構わない。わかりました。じゃあ久梨亜の悪魔としての名前はそのまま出しますね。よかった。うっかり出しちゃったらどうしようかと思ってました。助かります。


 私がこの世界に生を受けてから2週間になります。ぬし様に創造していただきました。あっ、主様っていうのは人間の方々が言うところの“神様”のことですね。一緒にたくさんの兄弟も創られました。人数は……、わかりません。


 生まれた最初の日はそれでおしまい。2日目から6日目で天界のルールや習慣なんかを教わります。7日目がお休みなんです。人間界と似てますね。


 8日目からは色々な技術を教わります。私が最初に覚えたのは“癒やしの力”でした。他には“心を読む力”や“触らずに物を動かす力”なんていうのもあります。たくさんあって大変です。


 私はどれもあんまりうまくできなくていつも大天使様に叱られてばかりでした。たったひとつでも上手なのがあればいいんですけど。みんな上手なのに私はいつも居残りばかり。頑張っているつもりなんですけど……。


 今日は本当は2回目のお休みの日でした。でも私は色々上手にできるようになりたくて見学させてもらうことになっていました。実際になにかをやることは禁じられていましたけど見るだけなら大丈夫なので。


 私は先輩天使の後ろについて色々見学していました。主様はベッドで寝ておられました。天使の私が言うのもなんなんですけど、主様ってたいていお暇なんです。天の仕事のほとんどは天使を中心にした人間界で言うところの官僚機構みたいなところがやるんです。主様はお口をはさまれません。人間界で言う“はんこ”みたいなものを押すことすらありません。主様のお力が必要なのは年に数えるほどなんです。


 あの時も主様は寝ておられました。でもいつの間にか起きておられたみたいでした。どうしてそれに気がついたかというと、主様の寝所しんじょのほうから「暇だ」というお声が聞こえたからです。そのお声は間を開けて2回聞こえました。よっぽどお暇だったんでしょうか。


 私は見たことがありませんが、お暇なときの主様は色々変なことをなさっているそうです。寝所の模様替えなんかしょっちゅうだそうですし、時には食事の皿を使って皿回しなんかされているらしいです。実際に見たことがある天使の話だと、一度に百を超える皿を回すこともあるとか。信じられません。一度見てみたいと思っているんですが……。あっ、私が言ったの内緒にしておいてくださいね。


 ああそうでした。あの時の話でしたよね。ごめんなさい、話がれてしまって。


 それで主様は「暇だ」っておっしゃったんですけど別に誰もお相手するために行ったりはしません。どうやらしょちゅうあることのようで。その日も皆さん「いつものこと」って感じだったんですけど。その日に限って主様がとんでもないことをおっしゃい出したんです。私にも聞こえました。聞いて一瞬「えっ?」って思いました。主様はこうおっしゃったんです。


「そうだ、人類、滅ぼそう」

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