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 ゴリゴリゴリゴリ

 黙々とすり鉢に入れられた胡麻を擦る、香りが立ってきたら、そこに味噌、酒、砂糖、少量の水を入れてさらに擦る。

 今朝、大将の住む家の裏の土手でたくさんの土筆つくしを採ってきた。指を真っ黒にしながら、頭と、はかまを一つ一つとりのぞいていく。「頭も食べれるから取る必要はないのでは?」と大将に聞いたところ、この後、水で洗って汚れを落とし、茹でて、とやっていると、頭の部分に水気が多く残ってしまい味が薄まってしまうから。という指示に従っているだけなんですけどね。

 大将は、それを塩梅よく茹で上げ、水につけ冷ましていく。今、私がすり鉢で作っているのは、その土筆に和えるための胡麻味噌です。土筆と言うと卵とじが一番最初に思い浮かぶとおもうが、フキやゼンマイのような山菜と同じような食べ方をしても美味しいんだぞ。ということで、本日のお通しの品が決まった次第です。

Prrrrrrr..... Prrrrr.....

「はい。つくしです」私は受話器を取ると、ハンズフリー機能で話し始めた。

「こんにちわ。一昨日お邪魔させて頂いた最上といいますが。」

電話の主は、以前辰さんと一緒に来店された最上さんだった。

「昨日はどうもありがとうございました。今日はどうされましたか?」

「実は、小学校時代の友人数人と近々会うことになりまして、可能ならそちらのお店を使いたいなとおもっておりまして。」

それを聞いて私は大将に目配せする。大将は頷くと仕込みを続ける。

「当店でよければ喜んで。ただ、昨日見ていただいた通り、手狭な店内ですので、5・6名様でしたお受けさせていただきますが。」

大将がこのお店を作ったとき『一間いっけんさん』という言葉を最も重要視した。一般的に言われる『一見さんお断り』などの一見さんと音は似ているのですが全くの別物。一間とは大凡180cm四方の空間のことを言います。大将が常々いうのは「自分の目で、お客さん一人ひとりの顔や手元を見渡し把握することができるのはせいぜい両手を広げた範囲くらい。だから一間のお客さん以上は引き受けない」大将が両手一杯に広げて収まるのは正面だと4席ほど、L字の角に立って見渡せるのはせいぜい7席。それこそ一見さん相手ならいつも以上に神経を使います。そういうこともあって、ご予約の場合は5,6名が限界となってるのです。

「ありがとうございます。私を入れて4名程度になると思いますので、また日取りが決まったらお電話させていただきます」

そう言って電話が切れるかと思ったら続きがあった。

「肝心なことを忘れていた。前回は 

ああ言ったのですが、私の無理なお願いを聞いていただけるとのことだったので、是非、〆にカレーを頂きたいなと思うのですが」

ピクリッ

大将の眉間が動いた。お、これはやる気に火がつきましたぞ♪

「実は、お店を出たあとに辰さんに少しお話を聞いたのですが、富美子さん。ご相談にのっていただいてもよろしいでしょうか?」

がくぅーーーー

あからさまに肩を落とす大将。見るからにやる気の火が一気に沈下された。むしろ、やる気ごと消滅させられたかのような気の落としかたである。

「とみ…悪い、ちょっと風にあたってくるわ」

そういって裏口からでていった。

「あ!え?大将!?あ!は、はい!!す、すいません、わ、私で良かったら、お、お手伝いさせていただきます」

こうして今回は、最上さんの友人のカレーライスを作ることとなったのでした。

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