episode4『魔王と勇者宅にて』

 家にたどりついてしばらく、なにもやる気が起きず大きなソファーの上にあおむけで寝転がっていた。頭にあるのは姫のことだ。明らかに自分をしっていた、なのに彼女はラファエルのことを知らないといったのだ。学校で何回か話しかけようとしたが、こちらが話しかけようとしたときにはすでに教室内からはいなくなっていた。


「姫……」


 考えても姫の心中を察することはできない。結局答えは出ないまますでに西日が部屋に入り込んでくる時間になってしまった。そろそろ夕食を作り始めなければ間に合わない。そんなことを思いながらも体を動かす事が億劫になってしまっている自分がいることに気がついた。勇者と呼ばれていた時は人間関係などあまり気にしていなかったし、何より魔王を倒すことだけを考えていればよかった。それはそれで大変だったが、人間関係と言うのはなんでこんなにめんどくさい物なのかとラファエルは思う。


「ルシファーさんも疲れて帰ってくることですし、私もそろそろ本当に動かないといけませんね」


 ようやく重い腰を動かしてラファエルは立ち上がる。帰ってきて食材を冷蔵庫にしまってからずっとソファーに寝そべっていたので腰が固まってしまっており、少し窮屈な感じがしたのでラファエルは伸びをする。するとパキッと小気味のいい音を立てて腰が音を鳴らした。


「あっ、まただ……」


 今日の料理のメニューをスマホで調べようとしてラファエルは通知欄に来ていたニュースに目をやって呟いた。ここ最近、良く起きている事件だ。そこには『意識不明の女子高生発見、今月で3件目』と書かれた見出しが表示されている。


 どうもある日を境に置き始めている事件のようで、高校生が突如意識不明の状態で発見されているようだ。近くで起きている事件だけあって自分自身や姫の身にも何か起こるのではないと不安になる。姫も国王の娘として育てられていただけはあって、護身術などを習っているだけはあって対人ではかなり強い方にはいるはずだが、それでも心配である。


「まあ、気にしてもしょうがないですね」


 言いながらペンダントとなっている自らの剣を握り締めながらラファエルはキッチンへ向かって歩き出した。自分の入学祝のご飯を作るために。


 一度、ルシファーに料理を作ってもらったことがあったがもうそれは料理と言えるかすらも綾しいだったものを思い出して少し笑顔がこぼれるのを思い出す。野菜は生焼け、肉はほぼ焦げていて、まともに食べれたものではない、それでも米だけは上手に炊けていたので結局その日は白いご飯とふりかけで済ましてしまったのだ。


「あの人に料理させえるわけにもいきませんしね」


 手慣れた手つきでエプロンをつけて包丁を握る。この世界に来てからだいぶ慣れたものだ。昔は肉は取れば焼くだけでまともな味付けなどしたことなかった人間が今では色々な調味料を使って様々な料理を作れるようになっている。本当に人間変わるものだ。




「さて、これで終わりですかね」


 ひとまず後は焼いたり揚げたりするだけの状態で出来上がった料理を台所に置いてひと段落つく。料理もルシファーが帰ってくる二十分前くらいから作り始めれば大丈夫だろうと思い、時計を見る。三十分くらいは余裕があるだろう。


「…………」


 できた料理を見ながら、本当に慣れたものだと再び自分自身で感心する。最初は作るのにかなり時間がかかっており、作り終えるまでに何時間もかかってしまい深夜前に食べ始めるなんてこともあったくらいなのに今ではものの一時間程度で作り終えてしまう。もちろん作る料理によっても違いはあるが。


 突然暇になってしまったと思いながら、この世界に来てから自分がはまっている日本茶を急須に注いで蒸らしてから湯のみにうつし、リビングに移動してソファーに座りテレビをつける。最近はテレビにも慣れた。ただ、夕方から夜にかけてのこの時間で自分が好きなっているドラマや映画などやっていることもなく、面白いものが何かないかと探しながらチャンネルを変えるためにリモコンをひたすら押し続ける。



「…………何にもないですね」


 結局やっているのはニュース番組くらいのものだった。ニュース番組のキャスターの言葉を右から左へと流しつつなにも考えることなく、ラファエルはただただぼーっとテレビを見る。




 不意に鍵が開く音がして、玄関の扉が開いた。どのくらいぼーっとしていたのだろうか、おそらくルシファーが帰ってきたのだろう。頭で理解してから時計を見ればとっくに帰宅時間を時計が指していた。まずい、まだ料理が一切完成していない。そう思うと慌ててソファーから立ち上がりラファエルは玄関へと足を進める。


「ごめんなさい、ルシファーさん!まだ料理できてなく……て」


 勢いよく玄関へと続く扉を開き、ラファエルが声に出して現場を見た瞬間固まった。当然、いると思っていたルシファーはいる。その後ろにはルシファーの補佐をかいがいしく焼いていた龍崎先生が立っている。そして、さらにその後ろ縮こまりながらおどおどとした態度の姫を見つける。いったい何がどうなっているのか疑問に思いながらも、とりあえず何もできずに固まっているとルシファーが口を開いた。


「ラファエル、料理はゆっくりでいい」


 そう言いながら落ち着くようにとなだめてくれるルシファーに感謝しつつもラファエルはその場を離れキッチンへと足を向ける。


 それにしても本当にどうなっているのだろうかと思う。それ以前に自分とルシファーが一緒に住んでいることが他の先生にばれれば問題になるのではないかとも思うが、そこはルシファーのことだうまくやるのだろう。問題はそこではなく、なぜ姫が龍崎先生と一緒にこの家に来たのかと言うことだ。正直、関係がわからない。ルシファーは何のことない顔をしていたので、特に敵対していたわけではなさそうだが。


「まあ、座ってくれ」


 キッチンで作業をしているとルシファーが二人をソファーに座らせて、キッチンへと入ってくる。


「コーヒーどこだ?」


「豆は冷蔵庫の中ですよ。あと、姫は苦いの苦手なので紅茶にしてください」


 普段キッチンへと入ってこないルシファーが珍しく入ってきて作業を始めようとするが、普段使っていない人間に物の位置が分かるはずもなく結局ラファエル自身が手伝うことになった。

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